[ゆけむり通信 番外1998]

1/13/1998
『夢から醒めた夢』

オリジナルで行こう!

 『夢から醒めた夢』は、劇団四季のオリジナル・ミュージカルの中ではベストの出来なんじゃないだろうか。
 と言っても、他には『ユタと不思議な仲間たち』『ドリーミング』『李香蘭』の3本しか観たことがないが。
 でも、日本のオリジナル・ミュージカルの行き方を、確実に示している作品のひとつだ。

 マジシャンのような格好をした“夢の配達人”と称する男が舞台に現れ、ピコという少女を観客に紹介する。
 ピコは“夢の配達人”の指示に従って夜の遊園地に出かけ、マコという少女の幽霊と出会う。マコは交通事故で死んだのだが、2人暮らしだった母のマコに対する思いが強く、霊界と現世の狭間に留まっている。
 ピコはマコから、1日だけ立場を入れ替わってほしいと頼まれる。その間に母に会って、自分が死んでしまったことを納得してもらうから、と。引き受けたピコは、マコの白いパスポートを預かって霊界へ行く。
 霊界には霊界空港があり、白いパスポートを持つ者は光の国へ行き光になる。黒いパスポートの者は地獄行き。灰色のパスポートは保留で、掃除や荷物運びをやらされ、年に1度の審議会で働きを認められると白いパスポートをもらえる。
 ピコは、そこで知り合った灰色パスポートを持つ少年メソに、マコの白いパスポートの入った鞄を預けてしまう。ところが、ちょっとした行き違いから白いパスポートを自分のものだと言ってしまうことになったメソは、自分のパスポートをピコの鞄に残して、そのまま光の国へ行こうとする。
 何も知らずに戻ってきたピコは、鞄の中のパスポートが(メソの悪行のせいで)黒くなっているのに気づいて驚く。が、やがてメソの仕業だとわかり、メソは地獄行きを宣告される。ピコはそれを聞くと、メソを助けるために、黒いパスポートは自分のものだと言い張る。
 ピコの優しさに打たれた霊界の役人は、事件を不問にする。ただし、1度メソが使ってしまったので、マコのパスポートは再発行しなければならない。ピコがマコのフルネームを知らなかったので一同あわてるが、みんなの協力でそれも判明する。
 白いパスポートを手にしたピコは、再び入れ替わるためにマコのところへ行く。あきらめきれないマコの母に懇願されて一瞬迷うピコだが、マコの説得で無事入れ替わり、人間に戻る。
 その時、光になったマコやメソたちがピコを温かく包んで消えていく。

 原作は赤川次郎の童話。それをかなり脚色したという脚本は、そこここに無理があり、必ずしもいい出来とは言いがたい。
 それは問題と言えば問題だが、この際、脇に置いておきたい。
 それよりも僕が感心したのは、この作品が、未だ成長中というような柔軟さを持っているところだ。
 初演から11年目だそうだが、加藤敬二による振付は明らかに『クレイジー・フォー・ユー CRAZY FOR YOU』以降のものだし(つまり92年以降に手直しされている。パンフレットによれば93年だとか)、脚本のあちこちに、変に収まりかえらずに“今”の作品であろうとする努力が見られる。
 1度まいた種から質の良さそうな芽が出たら、土を何度も替えてやりながらいくつもの冬を越えさせ、強く大きく育ててやる。日本のミュージカルに必要なのは、そういう姿勢だ。
 その意味で、『夢から醒めた夢』は、浅利慶太のプロデューサーとしての能力が最もいい形で表れている作品じゃないだろうか。

 四季の他のオリジナル作品と比べて優れていると思うのは、全体のトーンに破綻がないことと、物真似感が薄いこと。
 細かく言い出すときりがないのでここまでにしておくが、ひとつだけ強調しておくと、物真似は悪いことじゃない。ただ、自分たちなりに消化しないと地に足が着かない感じになる。
 『夢から醒めた夢』は、その辺のこなれ方が自然で、観ていて違和感がなかった。加藤敬二の功績が大きいと思う。

 もう1人功労者を挙げるなら、やはり主演の保坂知寿だ。
 出ずっぱりで歌って踊って、ちょっと酷く思えるほどの熱演には頭が下がる。ここまで出来れば紛れもなくミュージカル女優だ。
 役も完全に自分のものにしていて、彼女でなければこの物語は成り立たないだろうと思わせる。
 立派。

 四季には、ぜひ、この方向でがんばっていただきたい。『ライオン・キング THE LION KING』じゃなしに。

(1/25/1998)

Copyright ©1998 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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