[ゆけむり通信 番外1998]

2/6/1998
『東京カンカン』

メイド・イン・オキュパイド・ジャパン

 1月の末に「幻の劇場 アーニー・パイル」という本についての話をアップしたら、1週間後にこの『東京カンカン』、さらに1週間後にこれからアップする予定の『ザッツ・ジャパニーズ・ミュージカル』を観ることになって、“アメリカに占領された日本”と“日本のオリジナル・ミュージカルのあり方”っていう、僕にとっては一番関心のある事柄2つが連続していろんな風に目の前に現れるという、なんだか面白い2週間になった。

 『東京カンカン』は出来のいいミュージカルとはいいがたい。が、ともあれ、こんな話だ。

 敗戦直後の東京。少年太郎は、姉・桜、妹・雪子との3人暮らし。空襲で、他の家族と、雪子の片足を失った。
 その傷跡の化膿を抑えるペニシリンを買うため、桜は GI 相手の“パンパンガール”になっている。太郎はそんな姉が許せない。もう1人許せないのが、戦時中“鬼畜米英”を叫び、戦後は英語を教えつつ占領軍に媚びを売る元教師・岡田だ。
 だが、占領軍に媚びを売るのは岡田ばかりじゃない。連中に頼ることなしには生きていけないのが日本人の実状だ。
 複雑な気持ちを抱えながら、それでも焼け跡の街で靴磨きとしてたくましく生きる太郎の前に、可憐な少女花子が現れる。二人は互いに淡い恋心を抱き再会を約束するが、GI に襲われた花子は、太郎に会いに来られなくなる。
 一方で、桜の“恋人”になっていた GI のジョーが帰郷することになる。必ず戻ってきて結婚すると言うジョーに拳銃を突きつけ、帰さないと言う桜。その場に来合わせた太郎はジョーを信じないが、体を張って真情を伝えようとするジョーに桜も太郎も納得する。
 だが、すでにその時花子が GI と親しくしているのを目撃していた太郎は、ジョーの拳銃を持って、その GI のところに行き、花子と別れろと迫る。やむなく GI も拳銃を出し……。

 おそらく作者(脚本・演出 / 岡田豊)は、焼け跡に生きる少年だった自らの屈折した心情を、愛しながらもやはり屈折した思いを抱かざるを得ないミュージカルのスタイルで描く、それも [日本人でなければ書けない、出来ないミュージカル](パンフレットより)として描くことで、自分の戦後史になんらかの決着をつけたかったのではないだろうか。
 が、その思いの熱さはわからないではないものの、脚本は掘り下げが足りず、思い入れの勝った演出は冗漫に見えた。
 思うに、よほど才能のある人でない限りは、脚本と演出は1人でやらない方がいいのではないか。脚本を演出家が冷静に読み込むことで作品がよくなるという過程は絶対に必要だと思うのだが。

 まあ、それはともかく、こういう題材の場合、ポイントとなるのは、「幻の劇場 アーニー・パイル」のところでも書いた [アメリカに対する、戦前の無邪気な憧憬、戦中の洗脳的憎悪、戦後の距離感のはっきりしない誤解] についての考察と表現だろう。そこがこの作品では非常に甘い。“大人にだまされた子供たち”という視点で貫かれていて、それ以上のものは見えてこない。
 同時に気になったのが、登場人物のリアリティ。靴磨きの少年たちや“パンパンガール”といった人たちの描き方が図式的で、細かい表現を積み重ねることで生まれるリアリティというものが全くと言っていいほどなかった。アメリカのポップスの使い方など時代的な考証にも疑問があったが、こうしたミュージカルで大事なのは、むしろそうした細部なのだ。
 あと、ステージが狭い割に装置(岡田豊)が多すぎた。もっと抽象的な装置を効果的に使う工夫がほしい。予算から言ってもその方が効率的だと思うし。

 楽曲(作曲 / 岩河三郎)はクラシックに則った唱歌的メロディが多くやや古臭いものだったが、ジャズ的なアレンジ(三上クニ)が原曲のイメージを払拭して、全体のテンポアップに貢献していた。
 ダンス・シーン(振付 / ロイス・イングランド Lois Englund)は積極的に取り入れてあり面白かったが、やや流れとのバランスを欠いて唐突な感じがするものも多かったのは残念。
 役者たちは、ある種混乱を抱えた脚本の下で、とまどいを隠せないでいるように見えた。

 ところでこの作品、昨年夏、オフ・ブロードウェイで初演を行なったのだが、僕にはその意図がわからない。それこそが作者のアメリカに対する屈折した思いの最たる表現だったのかもしれないが、これをいきなりアメリカ人に見せても、意味がないと思うのだが。
 何か大きな誤解がある気がする。

 なお、この章のタイトルは、先頃亡くなった小坂一也さんの著書のタイトルを借用しました。

(2/21/1998)

Copyright ©1998 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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