[ゆけむり通信 番外1998]

2/13/1998
『ザッツ・ジャパニーズ・ミュージカル』

日本ミュージカルの苦悩を笑い飛ばせ

 『ザッツ・ジャパニーズ・ミュージカル』は、オフ・ブロードウェイの快作『フォービドゥン・ブロードウェイ FORBIDDEN BROADWAY』(現在は『フォービドゥン・ブロードウェイ・ストライクス・バック! FORBIDDEN BROADWAY STRIKES BACK!』)の日本版を目指して 91 年2月に上演され好評を得たが、シャレのわからない各方面からのプレッシャーにより長い間再演がかなわなかった、と聞いた。
 『フォービドゥン・ブロードウェイ』の場合は、斜に構えてはいても本質的にはブロードウェイ・ミュージカル賛歌で、皮肉る相手がそれなりのステイタスであるから、かなりエグいジョークでもカラッとした突き抜けた笑いになる。
 しかし、『ザッツ・ジャパニーズ・ミュージカル』は、ミュージカル賛歌ではあるが、“ジャパニーズ・ミュージカル”賛歌ではない。やり玉に上げられた人たちには、その揶揄が心底こたえたに違いない。元々不安定な足元を改めて揺すぶられるように思えただろうから。

 それから7年。装いも新たに復活したニュー『ザッツ・ジャパニーズ・ミュージカル』を観て、僕はその誠実さに打たれた。
 素晴らしいミュージカルを作りたいという情熱と、いつまで経っても満足のいくような作品が上演できない現実。一方で翻訳ミュージカルには、訳詞がひどかろうがトリプル・キャストだろうが(だからこそ?)リピーターが押し寄せる。――そんな日本のミュージカル界の苦悶を真っ正面から描いたこの作品。言葉の正しい意味でのパロディ精神で次々と舞台ミュージカルを俎上に載せていくが、切り刻む刃がそのまま自らにも向かうこと、百も承知。脚本・作詞・演出の高平哲郎は、他人を笑う振りして、ミュージカル作者としての自分のジレンマを、エンタテインメントの粉をまぶしつつ、さらけ出してみせた。
 こういう態度に文句つける人は、即刻ミュージカル製作を止めた方がいい。一緒に痛みを感じて、なおかつ一緒に笑い飛ばして、それをバネに前進しよう、と思うのが、この舞台を観た時のミュージカルを愛する人の正しい態度でしょう。

 ここまでを舞台を観てない人が読んだら、なんだか重々しい作品を想像しかねないから書いておきますが、普通の観客にとっては、パロディの元ネタがわからなくてもそれなりに楽しめる、面白く構成されたレヴューでありまして、そこがこのショウの立派なところ。
 ただ、日本ミュージカル界の現状を赤裸々に暴いた(って、ちょっと大げさ?)第2幕が、詰め込みすぎてちょっと長い。ここは1時間以内に抑えたかった。

 主要スタッフとしてアイディアの面でもこの舞台を支えたとおぼしいのが、編曲とピアノ演奏を上柴はじめと共に手がけた、ピーター・ハワード Peter Howard。
 『クレイジー・フォー・ユー CRAZY FOR YOU』、リヴァイヴァル『シカゴ CHICAGO』という僕にとって最高のダンス・ミュージカル2本のダンス・ナンバーは、この人がアレンジした。その姿は、やはり編曲を手がけたライザ・ミネリ Liza Minnelli の主演映画『ステッピング・アウト STEPPING OUT』で一瞬観ることができる(最後のショウ・ナンバーを紹介する司会者役)。
 そんなわけで、この人はホンモノ。高平哲郎とは 92年の『賢い女の愚かな選択』以来のつき合いか。テンポのいい舞台運びはハワードの協力なしにはあり得なかったと思うが、どうだろう。
 彼に敬意を表するように弾き語りのシーンが用意されていたのはうれしかった。

 出演者の顔ぶれは多彩。
 ゲスト扱いだが間違いなくこの舞台のスターである市村正親は、歌・踊り・芝居とフル回転。踊りには多少ごまかしがあったが、それも決めポーズの鮮やかさで巧みにカヴァー。身に付いた華やかさが舞台全体の印象をワンランク上げていた。
 市村同様“元”四季組の北村岳子も、歌・踊り・芝居、いずれも巧みにこなす(やっぱ日本で鍛えるなら四季に入るのが早いのか?)。
 狂言回し的存在の斎藤晴彦は、帝劇で観るのとは違っていきいきして見える。得意の早口も見事に生きるはまり役だ。
 上記3人プラス早坂好恵の4人が名前の扱いが大きいのだが、彼女だけは明るくて声が通る以外どうということもない。
 本間憲一、高橋てつや、風間水希、堀朋恵のダンサー陣は活躍の場も多く、手堅い(中で、堀ののびのびした動きが目に付いた)が、振付(土居甫)に新味がなかったのは残念。
 歌が売りの花山佳子がやや不安定に見えたのはなぜだろう。
 林家しゅう平はキャラクターで勝負ということか。好感度ってやつは高いが。
 アメリカから参加のジョン・ハウエル John Howell は本間憲一と共にタップの振付も担当している。華はないが踊りの実力は確かに見えた。
 もう1人アメリカから来たアンドレア・コーヘン Andrea Cohen も振付助手兼務。この2人はブロードウェイのひきだしの役割も兼ねているということだろう。彼女、ダンサーとしてはプロポーションがちょっと……。

 舞台の内容について詳しく知りたい方は、ぱん屋さんのサイトに特集ページがあるので訪ねてみてください。期間限定らしいので、ご注意を。

 最後に、舞台をご覧になった方のために、プログラムにあった誤りを僭越ながらいくつか指摘させていただきます。

●まず、「All That Jazz」のところ。[ロキシー役のビビは主演女優賞を獲得] は、 [ヴェルマ役のビビは] の誤り。
●「Now That Tap」は、正しくは「Now That's Tap」。作品タイトルも、『BRING IN 'DA NOISE / BRING IN 'DA FUNK』が正しい。
●「Don't Cry For Me, Argentina」の替え歌でマドンナ Madonna に「ブロードウェイに出たい」と歌わせるが、マドンナはブロードウェイの舞台に出たことがある。88年の『スピード・ザ・プロウ SPEED-THE-PLOW』がそれで、開幕直後の同年5月に僕は観ている。ただし、ミュージカルではなく出演者3人のプレイだが。
●ラジオ体操のところ。ボブ・フォッシー Bob Fosse の振付が [From CABARET] となっているが、これだけは映画版? 舞台の振付はロン・フィールド Ron Field でフォッシーは無関係なのだが。
●「Anything Goes」の [36年にビング・クロスビーとエセル・マーマンで映画化(邦題『夜は夜もすがら』)] は、邦題『海は桃色』が正しい。『夜は夜もすがら』は 56年の同原題映画に付けられた邦題。
●「The Money Song」と、ここで「マネ、マネ」と歌われる「Money, Money」は、同じ『キャバレー CABARET』の曲だが、前者がオリジナル舞台版、後者が映画版のみの使用という別曲。

 といったところですが、多少誤りはあっても、このプログラムはありがたい。おまけに無料配布。ミュージカルに対する愛情ってこういうところに表れますよね。
 再再演、期待してます。
 それまでに日本のミュージカル界が少しでもよくなることを祈りつつ。

(4/12/1998)

 [追記]
 プログラムは有料だったと、アメジストさんからご指摘がありました。おっしゃる通り、安いけれどお金払った気もしてきました(笑)。
 でもまあ、愛情が深いのは間違いないってことにしておいてください(笑)。
 アメジストさん、ありがとうございました。

(4/14/1998)

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