[ゆけむり通信 番外1998]

6/30/1998
『迷宮 DEDALE』

文学風味のクラウン芸

 フィリップ・ジャンティ・カンパニー Compagnie Philippe Genty の公演を初めて観た。『迷宮』
 内容についてはいろんな解釈があるのだろうが、スタイルとしては、ある種のクラウン(道化)芸だと思う。描き出される場面の不思議さにも魅了されたが、それ以上に役者たちの練り上げられた体の動きが素晴らしかった。

 脈略はよく理解出来ないが、次から次に超現実的な場面が、ほの暗い舞台上に現れる。

 荒れた海で難破して漂流する人々。
 海の表面は舞台を覆う粗い目のネットで表現される。そのネットには網目の他にいくつか大きめの穴が開いていて、そこから、溺れそうになった人々が、なんだか奇妙な形で手や顔や足を出す。妙に生々しい人形なんかも現れて、フリークス・ショウの気分も漂う。

 ドアまたドア。
 役者たちがそれぞれ大きさのまちまちな枠付きのドアを抱えて登場する。彼らは、急き立てられるように次々に他人の持つドアをくぐり抜ける。本人たちは一生懸命走っているつもりなのだが、いっこうに前に進まない、という動きが絶妙。

 水を吐く柔らかい岩。
 舞台上に突然、見た目は岩だがプニョプニョしたグミのような物体が現れる。もちろん人間がかがんで入っているのだが、わかってはいても、そうは見えない。時折、人に向かって水を吐きかける。そして、フワフワっと移動する。

 後ろ向き人生。
 役者たちがリアルな面を着けて出てくる。動きがほんの少し不自然なのは、面が後頭部に着いているからで、でも逆にそうとわかって観ていると今度は妙にスムースな動きに見えて不気味。

 と、まあ、こうして書いても実際のイメージの 1割も伝わらないのだろうが、夢幻的な世界の中で、生身の人間が見せる、どこかしらこの世のものとは思われぬようなパフォーマンスの数々。このカンパニーの公演には、サーカスを観る時と同じような喜びがあった。
 しかし、人の体の動きというのはどうしてこうも魅力的なのだろう。それも、鍛錬の末に出てくる普通の人には出来ないような動きというのは。
 表現の意味について云々したい方もいらっしゃるでしょうが、僕は役者のそうした技を観られただけで充分。
 なお、装置や照明もパフォーマンスと一体になった素晴らしいものだった。

 原作・脚本/フィリップ・ジャンティ Philippe Genty、共同演出/メアリー・アンダーウッド Mary Underwood。

(8/30/1998)

Copyright ©1998 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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