[ゆけむり通信 番外1998]

2/12/1998
『浅草パラダイス』

昭和初期のバックステージ世界

 『浅草パラダイス』は昨年のやはり2月に新橋演舞場で上演された『浅草慕情〜なつかしのパラダイス』の改訂再演。ミュージカルではないが音楽的なノリのある芝居で、同じ昭和初期の浅草を描いて、『ザッツ・レビュー』とは脚本に雲泥の差、とても面白い舞台に仕上がっている。
 こういう設定でミュージカルを作ってほしいなあ。

 柱になるのは、御店の若旦那から遊びが高じて半端な芸人となった卯之助(中村勘九郎)と、名の通った女義太夫だったおかつ(藤山直美)の夫婦物語。そこに、ヘタなクラリネット吹き“半拍”(柄本明)と、新潟から年をごまかして身売りしてきたしま子(吉田日出子)が絡む。
 もう1つの物語は、芝居一座を率いる東雲綾太郎こと熊坂とら(波乃九里子)と、料亭の主人辻本孝太郎(安井昌二)との悲恋の名残。

 人物造形が素晴らしく、キャラクターがみな魅力的。ストーリーの構成はやや緩いが、細かいエピソードの1つ1つが面白く、それらが綾なす人生の哀歓が心に染みる。
 名人の人情噺を聞く気分だ。

 この時代の浅草と言えば、近代日本では稀な劇場街。その裏側で生きる芸人たちを描いている『浅草パラダイス』は、したがって、正真正銘のバックステージもの。
 日本にもこういう世界があるわけですよ。しかも、やってる音楽はジャズだったりするわけでしょ(ここでも吉田日出子が例の調子で歌います!)。ダンスはと言えば、この舞台には出てこないけれどもタップだったわけで。
 だから、ね。オリジナル・ミュージカルを作る時に、妙なメルヘンにしたり、なぜか舞台をアメリカにしたりしないで、こういう時代のショウ・ビジネス界のことをちゃんと調べれば、地に足の着いた面白い本が書けると思うわけですよ。

 なんてことを、観ながらしきりに考えた。

 視覚的に印象深かったシーンを1つ。
 両国の川開きの日、興行主の招きで一座の幹部連と共に孝太郎の料亭を訪れた綾太郎は、わけ知りの人間の計らいで2階の座敷に、孝太郎と2人で残る。しっとりした気分になるが、無遠慮に現れた妻に呼ばれて孝太郎が去ってしまう。1人残された綾太郎は窓辺に腰を下ろし隅田川を眺める。
 その時、座敷の屋根と両端の壁のセットがはけて窓部分だけが残り、夜空に大きく花火が上がる。玉屋ーッ!
 美術 / 朝倉摂、照明 / 室伏生大。

 笑わせてくれたが、この日の勘九郎と柄本明は吹きすぎ。

(4/6/1998)

Copyright ©1998 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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