[ゆけむり通信 番外1997]

1/19/1997
『タップ・ドッグズ TAP DOGS』

ノイズ/ファンクの後では立つ瀬なし

 厳しすぎる言い方であることを承知で言えば、『タップ・ドッグズ』はわかっていない。
 “90年代のタップ・ダンス”っていうのは、そういうもんじゃないだろう。

 工夫を凝らして新しく見せようとしているものの、彼らのパフォーマンスは根本の部分で驚くべきものではなかった。
 確かに、ダンサーとしてはよく鍛えられている。が、その試みはむしろ野暮ったく映った、というのが正直なところだ。
 『ブリング・イン・ダ・ノイズ、ブリング・イン・ダ・ファンク BRING IN 'DA NOISE, BRING IN 'DA FUNK』(以降『ノイズ/ファンク』)を体験した目には。

 ストーリーはない。
 建設中のビルの工事現場のような無機的なイメージのセットを使って、6人の若い男性ダンサーたちが、暴力的な匂いのするタップをアクロバティックに繰り広げる。
 音楽はパーカッシヴでメタリック。
 セットは難易度を増す形で次々に姿を変えていき、きつい傾斜の細い鉄板の上で踊ったり、果ては、逆さまに吊されて天板の“下で”タップを踏んだりする。
 彼らが履いているのは、チップが付いているものの、ワークブーツだ。そして、ジーンズ、Tシャツ、ワークシャツ。

 なるほど装いは90年代風かもしれない。でも、その90年代は何の上に乗っかってるんだ、という話。

 ここで思い出すのが、同じ振付家デイン・ペリーDein Perryが手がけた前作『ホット・シュー・シャッフル HOT SHOE SHUFFLE』(95年11月26日ゆうぽーと簡易保険ホール)。
 タップの得意な男ばかりの兄弟がショウで成功するまでの話で、そこに別れ別れになっていた家族との再会の話が絡むという、30〜40年代を思わせる、どちらかと言えば古臭いミュージカル・コメディ。場面転換など、あきれるほどのテンポののろさで、演出がふた時代前という感じだった。
 ただ、ダンサーの技はしっかりしていて、2幕後半がまるまるステージ・ショウ場面になるわけだが(この構成も古い)、そういうところはオーソドックスなタップ・ショウとしては楽しめた。
 そのショウ場面の最後に、50センチぐらいの段差で凹凸の付いたセットの上で兄弟たちがアクロバティックなタップを踊ってみせる。
 そのアイディアを発展させたのが『タップ・ドッグズ』だろう。

 つまり、オーソドックスなタップではどうしても古臭く見えてしまうので、新しい観客を獲得するためにも現代的な装いでアクロバティックなタップをやってみよう、ということだと思うのだ。
 その発想の方向は間違っていないと思うが、ただ、安易だ。
 美空ひばりが突然ミニ・スカートを履いて「真っ赤な太陽」を歌う。それはそれで面白いし、元々歌がうまいから聴けるものにはなる。でも、それは“違う”のだ。

『ノイズ/ファンク』の素晴らしさは、振付をしたサヴィオン・グローヴァーSavion Gloverをはじめとするダンサーたちの体の中にタップの歴史が脈打っていることにある。
 その背景には、ブラック・エンタテインメント・コミュニティの強い結束と自分たちの文化の対する誇りがある。彼らは子供の頃から、先達たちが受け継いできたタップを叩き込まれ、それを生きる糧とすると同時に、タップによる自己表現を模索してきたはずだ。
 そんな彼らの中では、ヒップ・ホップ的なストリート・タップが20〜30年代のタップと分かちがたく結びついている。
 だから、『ノイズ/ファンク』のステージでその歴史をたどってみせても、単なるショウ・ケースで終わらない。

 さらに、演出のジョージ・C・ウルフGeorge C. Wolfeの、表現手段としてのタップに対する確信に満ちた思い入れが、『ノイズ/ファンク』を深みのあるものにした。

 グローヴァーとウルフが組んだ前作『ジェリーズ・ラスト・ジャム JELLY'S LAST JAM』は、主役にグレゴリー・ハインズGregory Hinesを擁して、ジャズ・ピアニスト、ジェリー・ロール・モートンの生涯を描いたミュージカルだが、ここでジェリーは、ピアニストであるにもかかわらずタップを踊ることで自分の感情を表現する。
 グレゴリー・ハインズが演じているのだからタップは当然、と思ったのか、疑問を抱く声は聞かれなかったが、よく考えれば変な話だ。
 が、今にして思えば、これは確信犯だったのだ。
 ウルフはここで、従来のタップ・ミュージカルからの飛躍を図ったのに違いない。タップの表現力を現代と結びつける。その冒険を成功させるために、タップの大物ハインズを連れてきて、一種の保険にしたのだと思う。

 その上での『ノイズ/ファンク』
 きちんと自分たちの持っているものの質と力を確かめながら、それを再確認する形でエンタテインメントに仕上げる。なおかつそれが現代に直結している。
 90年代ミュージカルの最重要作品と言っても言い過ぎじゃないと思う。

 これだけのことをやって出来上がったミュージカルが一方にある、その時代に、『タップ・ドッグズ』、わかってないと言われても仕方ないんじゃないスか。
 オーストラリアのこのプロダクション、日本に来る前にロンドンでは成功を収めたという話だが、先日始まったオフ・ブロードウェイ公演の成否やいかに、だ。

Copyright ©1997 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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