[ゆけむり通信 番外1997]

7/29/1997
『仮面のロマネスク』
『ゴールデン・デイズ』

チャレンジ精神に拍手

 宝塚雪組トップ・スター高嶺ふぶきサヨナラ公演。
 なんですが、申し訳ないことに、僕にとっては今回が高嶺ふぶきトップお披露目公演なのであります。『バロンの末裔』が僕にとって久世星佳のトップお披露目公演だったように。
 すみません、不勉強で。

 ともあれ、トップ・スターのサヨナラ公演にしてはチケットの売れ行きがさほどでもないなんていう芳しくない噂(あくまで噂)も聞いていたが、ミュージカルもレヴューも意欲的な作りで、僕は楽しんだ。

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 第1部『仮面のロマネスク』は、ラクロの「危険な関係」のミュージカル化。
 この題材の選び方だけでも充分に意欲的だ。

 文学的解釈はいろいろあるにせよ、心を寄せ合っているかに見える大人の男女がいて、その女にそそのかされた男が、他の女、それも人妻だったり婚約中だったりする女を陥落させる、というのは、現代の倫理観で言えばさほど驚くにはあたらない(かもしれない)こととは言え、宝塚の価値観から言うと主役のやることじゃない。
 ですよね。

 やや異色のオープニングは、その違和感を和らげるためのものだろう。

 そそのかされる男ヴァルモン子爵(高嶺ふぶき)とそそのかす女メルトゥイユ侯爵未亡人(花總まり)がまず登場。オープニングのアナウンスに促されて客席に一礼した後いきなり芝居に入って、銀橋の上で2人の“悪だくみ”をめぐる駆け引きを見せてしまう(ここでの2人の歌で、どうやらこの2人、本当は愛し合っているらしいとわかる)。
 続けて、2番手、3番手男役の演じる主要登場人物2人が登場。ここでだけだが狂言回し的に、観客に向かって次のようなことを説明する。

 銀橋の上で演じられた主人公同士のやりとりは、このドラマの核心部分。この舞台で描かれるのは男女の恋の争いや企みだが、それは昔のフランス貴族世界だけの話ではなく、みなさんの周りにもよくある出来事ではないだろうか。

 そんな、倫理的にはちょっと問題あるお話ですが、その辺はお互い承知の上で進めたいと思います。それに、特殊に見えますが現代に通じる題材でもあり、きっと興味を持っていただけるんじゃないでしょうか、と言っているわけだ。
 同時に、これが重要なのだが、前述した歌によって主役2人が実は愛し合っているという本筋の宝塚ドラマも暗示している。
 さらに、こうしてアウトラインを示すことで、やや複雑な心理劇の要素を持つ物語が理解しやすくなった。

 馴染まないかに見えた異色の題材を宝塚流に料理するための、実に効果的なオープニングだ。

 ストーリーは――。

 貞淑で知られるメルトゥイユ侯爵未亡人と、女たらしの悪名高いヴァルモン子爵は、実はゲームのように恋を楽しむという点で同じ穴のムジナであり、かつて関係を持ったこともあった。
 ある日、メルトゥイユがヴァルモンに次のような話を持ちかける。
 自分を捨てたジェルクール伯爵(和央ようか)の婚約者セシル(貴咲美里)を誘惑してくれたら私を抱かせてあげる。
 ヴァルモンは承知するが、その前に法院長の妻トゥールベル(星奈優里)を陥落させると宣言する。その首尾やいかに。
 結論から先に言えば、2人とも手中に収めるのだが、トゥールベルが想像以上に信心深かったことや、メルトゥイユに指摘されるようにヴァルモンがトゥールベルに心を動かされたこと、セシルに恋する純情青年ダンスニー(轟悠)の存在などがあって、それまでのようにスマートにはいかずトラブルが相次ぐ。
 その背景には、彼ら貴族の存在そのものを危うくする市民階級による革命への胎動もあり、結局最後は、反王室派の蜂起の中、心の奥で愛し合うメルトゥイユとヴァルモンは、滅びを予感しつつ互いに別れを告げる。

 その別れのシーンはかなりいい。

 場所は、革命騒ぎでみんな避難して人気のないメルトゥイユのサロン。その直前に、挑まれてダンスニーとの決闘に臨んだヴァルモンは、生死不明。名残惜しそうに1人たたずむメルトゥイユは、冒頭ヴァルモンと2人で歌った歌を、彼の安否を気遣いつつ歌う。
 そこに忽然と姿を現すヴァルモンは、りゅうとした軍服姿。
 負けるとわかっていても国王を守るために戦うのか、というメルトゥイユの問いに、これでも一応近衛兵だから、と答えるヴァルモン。
 熱い抱擁と口づけ。

 これでそのまま悲しくも華やかなラスト・ワルツに入っていけば文句なかったのだが、その前に臭い歌が挟まるのが残念。
 とは言え、2人がグルグルと踊り続けるところに幕が下りるのは鮮やかだった。

 実は、こうしたオープニング、エンディングの切れのよさに比べると、ヴァルモンが2人の女に迫っていく中盤はややダレる。
 その理由は、次々に女を口説き落としていく男にしては、高嶺ふぶきのヴァルモンにセクシーさが足りず、悪徳が香り立つような陶酔感や緊迫感が欠けることにある。

 それを救っているのが、巧みに盛り込まれたダンス場面(振付/名倉加代子)とコミカルな脇役たち。

 ダンス場面は、前半はなごやかな感じ。
 幕開け直後のメルトゥイユの夜会における貴族たちの華麗な動き、その宴の後の召使いたちによるユーモラスな後片づけのダンスと、続けて大人数の捌きで宝塚らしい豪華さを見せた後、ダンスニーがセシルを待ち伏せる公園で、小品だが印象的な、カップルたちの楽しげな踊りを配置。オペレッタのようなのどかな気分を醸し出して、いい雰囲気だった。

 後半は一転して劇的な扱い。
 ヴァルモンがトゥールベルを陥落させた夜にゴーストのように登場するセシルの妖しいソロ・ダンスも、俗っぽく流れそうな場面に張りを与えて効果的だったが、何と言っても特筆すべきは、陥落したトゥールベルが夫と共に出席したメルトゥイユの仮面舞踏会での、群舞を背景にした、ヴァルモン、メルトゥイユ、トゥールベル、三つ巴のダンス。
 ここはドラマ的にもクライマックスで、ヴァルモンがメルトゥイユの目の前で残酷にトゥールベルを捨て去るというシーンだが、それを踊りだけで見せる。時間的にも長く役者の数も多い複雑な群舞なのだが、非常によく練られた振付で主要人物の行動と心の動きを豊かに表現し、密度の濃い素晴らしいショウ場面を生み出した。

 脇役でもうけ役だったのが、こそ泥召使い3人組(風早優、未来優希、愛耀子)。ちょっとセリフが聞き取りづらいところはあったが、よく動いて活躍。
 轟悠のダンスニーも前半はコミカルな役どころで笑いをとっていたが、全編を通して第三者的であり、半ばコミカル半ばシリアスな存在で目立ったのが、安蘭けいの演じたヴァルモンの従者アゾラン。中盤は彼が出てくるとホッとした。最後の最後にも顔を出して、これはおいしい役だったと思う。

 しかし、メインのドラマを支えたのは、花總まりと星奈優里で、『エリザベート ELISABETH』を経験済みの花總まりは、余裕すら感じさせる堂々の主演ぶり。一方の星奈優里は、前述のヴァルモンに捨て去られる場面での、憑かれたようにダンスに誘われ一瞬のうちに自我を失っていく演技をピークに、恋に溺れていく女を生々しく演じきった。

 装置の転換がうるさくないではなかったが、題材の扱いにくさから言っても、この仕上がり、大成功と言うべきでしょう。脚本・演出/柴田侑宏。

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 第2部のレヴューが『ゴールデン・デイズ』。作・演出/三木章雄。
 こちらも意欲的な振付のダンス・ナンバーが随所に観られる楽しいショウだった。

 中でも印象に残ったのが、キャスターの付いたバーを自在に動かして踊りに変化を与えていた、スピークイージーが舞台のギャングたちの場面(振付/名倉加代子)と、畳大のパネルを障子状に組み合わせた抽象的な装置をバックに、痙攣するようなダンスが断続的に展開する場面(振付/羽山紀代美)。どちらも粘っこい、いいダンス場面だった。
 特に後者は、20人近い全員が、長丁場を全力で走り通すような熱演。振りも、それぞれに細かく異なった指示が与えられ、それが全体である流れを生み出すような、ていねいで力のこもったもの。群舞としてのうねり(グルーヴって言ってもいいです)がいい形で出ていただけに、ここは立場的に突出した存在に成らざるをえない高嶺ふぶきを最後まで加えずにいきたかった。

 どちらの場面にも出ていないが、第1部ではあまり見せ場のなかった和央ようか、さすがにレヴューでは立ち姿のよさが目立つ。彼女、あまり群舞向きではないのかもしれませんね。

 最初と最後に出てくる、007映画のタイトルバックを思わせる巨大な銃口のような装置は、大階段とのバランスもよく、効果的だったが、場面転換の暗転や幕使いの多さには閉口。
 ぜひ、装置の工夫で明るいままでやってください。それも芸の内ですから。

 ともあれ、僕の中では、あまり踊りが得意じゃないというイメージのあった雪組。んなこたあないですね。すみません。

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 この日、千秋楽でないので僕は予想していなかったのですが、高嶺ふぶきをはじめ計10人(!)の退団者によるサヨナラ・ショウがありました。もしかして毎日だったんですか。ごぞんじの方教えてください。

 で、まあ、それはともかく、高嶺ふぶきさんが退団後出演することになっている『ヴィクター/ヴィクトリア VICTOR/VICTORIA』について、ひと言。

 ヴィクター役を宝塚役者で、というアイディアは、僕でさえ考えたぐらいですから、割と自然な発想のように思われます。
 でも、よく考えてみれば、あれは女が男装して男に見せかけたうえで女装してショウをやるわけだから、男役トップが退団後すぐに演じると逆にただの女装に見えかねない、という危険はあるわけです。
 その辺、製作サイドが読み切っているのかどうか、ちょっと心配。

 こういう論議、もしかして宝塚ファンのみなさんの間では、やり尽くされてるのでしょうか。

 最後に、どうでもいいようなことですが、第2部で特によかったと書いた後者のダンス場面、パンフレットを見ると「ル・ジャズ・ホット」というタイトルが付いていますが、これ、ヴィクターがキャバレーでやるショウ・ナンバーのタイトルです。
 高嶺ふぶき応援の気持ちを込めたシャレ、なんですね(笑)。

(8/6/1997)

※サヨナラ・ショウに関する情報を赤岩友美子さんがお寄せくださいました。こちらを。

Copyright ©1997 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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