[ゆけむり通信 番外1997]

11/19/1997
『エル・ドラード EL DORADO』

危うし宝塚オリジナル

 真琴つばさ・風花舞・紫吹淳ラインによる宝塚新生月組東京公演。
 装置(大橋泰弘、新宮有紀)が豪華で視覚的には美しいが、脚本が弱い。と言うか、甘すぎる(作・演出/ 谷正純)。こういうオリジナルを作り続けると、宝塚危うし、じゃないでしょうか。

 16世紀。新大陸にあると言われる伝説の黄金郷エル・ドラード(作中人物は“理想郷”と言うが、どうもね)。
 故あって母国スペインを逃れ出ることになった軍人イグナシオは、助けたインディオの導きで、仲間のジプシーたちや船の手配のために雇った海賊と共に南アメリカに渡り、苦難の末エル・ドラードにたどり着く。そこでインディオの美しい娘レーニャと出会い、愛し合うが、やがてスペイン軍に発見され、滅び去るエル・ドラードと運命を共にする。
 そういう話。

 最大の問題は、主人公イグナシオのキャラクター設定にある。

 イグナシオは、スペインによる被征服者たちを“仲間”と呼ぶ。彼らを酷く扱うスペインの高官に向かって、「ジプシーもムーア人もユダヤ人も、みんな私たちの兄弟なのです」と言う。
 この“人類みな兄弟”説がどうやらこの作品のテーマで、後半エル・ドラードの掟を破って捕らえられた時にも、イグナシオの心にあるのは、スペイン人だろうがインディオだろうが同じ人類としてわかりあえるはず、という考えだ。
 そのテーマの是非は問わない。
 ただ、そうやって“人類みな兄弟”説を唱えるイグナシオ自身もスペイン覇権主義の尖兵である無敵艦隊の将校だ、という矛盾をどう考えればいいのか。

 もっとも、イグナシオは、「征服した民族の才能を生かすべきだ。征服した民族をないがしろにした国はみな滅びているぞ」という植民地宥和主義も説いているから、その延長線上で考えれば、“人類みな兄弟”説は被征服民族向けの高度な政治的発言と受け取ることもできる。
 って、これ皮肉。でも、作者は、この宥和主義発言で彼の言動に論理的背景を与えたつもりのように見受けらる。その辺が、甘いと言うか、観客をなめてると言うか。

 とにかく、極端に言えば、異民族を刺し殺して血にまみれた手でその民族と握手しようとして何の矛盾も感じない、それがイグナシオという男。こうなると、無邪気を通り越して能天気。
 こいつに振り回されて死んでいくジプシーや、巻き添えをくって滅亡するインディオたちは救われない。
 とまあ、ちょっと大げさな言い回しもしたが、こうした主人公の浮き世離れしたキャラクターが、作品をバカげた印象のものにした。

 これでコメディだったりすれば、まだ救われるのだが、大筋は大マジメな悲劇。
 最後のエル・ドラード滅亡のシーンなど、“仲間”が次々に死んでいくところを思い入れたっぷりの見せ場にしてしまっていて、「こうなったのもみんなお前のせいだろ!」と、イグナシオと作者にツッコミを入れたくなるほど、インディオの運命同様、作品にも救いがない。
 イグナシオを黄金ねらいのインディ・ジョーンズ的一匹狼にでもすれば、荒唐無稽ではあってもバカげてはいない、面白い作品に仕上がったと思うのだが。

 他にも、エル・ドラードの人々の描き方がご都合主義でリアリティがなさすぎたりするなど問題点は多いが、主人公のキャラクターのひどさに比べればなんてこともない。

 よかったところはですねえ……。

 まず、オープニング。
 エル・ドラードのイメージが、現実とも幻ともつかぬショウ場面として提示されるのだが、大人数がずらりと並んで豪華。宝塚でしかありえない類の絢爛たる金ピカ衣装は“黄金郷”らしくて悪くない(衣装/ 任田幾英)。
 ただし、「愛の残骸、愛の残骸」っていう無神経なコーラスが耳につく音楽はいただけない。

 それに続く、スペインのとある街角の場面。老ジプシー、ロドリーゴ(汝鳥伶)が歌い、その孫娘(西條三恵)が踊る導入部。
 ここと、物語が終わった後のショウ場面。紫吹淳と風花舞が組んでのダンス。
 この2つの場面がいちばん印象に残った(要するに主人公の登場する前と後ですね)。
 汝鳥伶の渋い歌(音楽/ 宮原透)に合わせて踊る西條三恵の表現力豊かなダンスを観た時には、かなり期待度が高まったんだけどなあ。
 汝鳥伶は芝居もよく、悪役とコミカルな役の2役を達者に演じ分けた未沙のえる、味のある海賊の親玉を演じた真山葉瑠と共に、舞台を支えた。

 それにしても紫吹淳の存在感はすごい。彼女の演じたエル・ドラードの王もけっこうバカげた存在なのだが、有無を言わせないで見せてしまうような迫力がある。
 イグナシオの描かれ方がひどかったせいもあるが、主演の真琴つばさを完全に食っていた。

(12/2/1997)

Copyright ©1997 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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