[ゆけむり通信 番外1997]

12/5/1997
『フォーティセカンド・ストリート 42ND STREET』

さらば翻訳ミュージカル2

 ブロードウェイにタップ復活ののろしを上げた、豪華なダンス・シーンが売りのノスタルジックなミュージカル、『フォーティセカンド・ストリート』。オリジナル・プロダクションは80年にオープンし、10年近いロングランを記録。86年には来日公演もあった。
 元になった33年製作の同名映画は、ご都合主義で他愛ないシンデレラ・ストーリーのミュージカル映画だが、ディテールの面白さと、なによりバズビー・バークリー Busby Berkeley 振付のダンス・シーンの魅力で、観る者を今も引きつける。
 舞台版も同様で、ほぼ映画版通りのストーリーは、言い方を変えればバカバカしいが、ガワー・チャンピオン Gower Champion 渾身の振付とテンポのいい演出、それにブロードウェイを舞台にしたバックステージものならではの“匂い”が(ブロードウェイ初日の伝説的なエピソードも含めて)、観客を魅了した。
 そして今回、オリジナル初演オープンから17年後の日本翻訳初演。

 簡単にストーリーを説明すると――。

 30年代のニューヨーク。ブロードウェイでのオープンを目指す大型ミュージカルのオーディションが行なわれている。
 そこにやって来たのは、舞台を夢見る田舎町出身の若い娘ペギー。躊躇していてオーディションに遅れるが、周囲の好意と偶然からプロデューサー、ジュリアンの目に留まり、コーラスガールに起用される。
 一方、主演のスター女優ドロシーは、恋人の役者パットがいながら、ミュージカルの出資者である成金と計算ずくでつきあっている。とは言え、彼女は自己嫌悪も感じていて、それがペギーとパットの仲を邪推するという歪んだ形で表れたりする。
 問題を抱えながらもリハーサルを終え、ショウはフィラデルフィアでのトライアウト初日を迎える。舞台は順調に進み成功は目前と思われた時、ペギーとドロシーがダンス・シーンで交錯。倒れたドロシーは足首を骨折してしまう。
 激怒したジュリアンはペギーをクビにするが、ペギーならドロシーの代役が出来るという周囲の意見にうなずき、田舎に帰ろうとしていた彼女を説得に行く。そして、ペギーを主役にしたショウをいきなりブロードウェイでオープンさせるという一か八かの勝負に出る――。
 

 さて、日本版。
 結論から言えば、楽しくはあったが強い違和感を感じた。出演者たち、特にダンサー陣の健闘は大いに認めつつも、この作品を今、日本製作で上演することの“ズレ”が随所に見えて、舞台に没頭できないまま終わってしまった。

 “ズレ”は、ブロードウェイのバックステージものを今の日本の興行システムの中で演じるところから生まれる。

 例えば、『フォーティセカンド・ストリート』のオリジナル・プロダクションの場合、ペギーを演じたワンダ・リチャート Wanda Richart は実際に知られざる女優であり、この作品の成功でスターダムにのし上がるという虚実ない交ぜの部分があるわけだが、その背景には彼女がガワー・チャンピオンと愛人関係にあったという事実もある。そこに持ってきて、前述したブロードウェイ初日の伝説的エピソードが加わる。この舞台に全精力を使い果たしたチャンピオンの死だ。
 何度かの延期の後に迎えた初日。舞台が終わると、客席からは割れんばかりのカーテンコールが起こった。出演者たちが満面の笑みで歓声に応える中、プロデューサーのデイヴィッド・メリック David Merrick が舞台に歩み出てこう告げた。
 「今日の午後、ガワー・チャンピオンが亡くなりました」
 まさかの出来事に、観客はもちろん出演者やスタッフも激しいショックを受け、ワンダ・リチャートは舞台上で泣き崩れたという。
 この話には後日、次のような噂が付け加えられる。チャンピオンの初日の死はメリックの演出である、と。
 話題作りのためにチャンピオンの死に合わせてメリックが初日を延期した、という驚くべき裏話は、今では既成の事実として語り伝えられている。
 こんな、はっきり言って舞台以上に劇的なドラマが現実のバックステージにゴロゴロしているのがブロードウェイだ。だからこそ、そこで演じられるバックステージものにスリリングなリアリティが生まれる。

 じゃあ日本はどうか。
 もちろん、それなりにドロドロした話はあるだろう。だが、“それなりに”の話であり、リハーサルに入る前から劇場も公演日程も決まり、主要キャストによるポスターが作られるという世界は、ブロードウェイの熾烈さからはあまりに遠い。
 だから、日本のキャストがいくら熱演しても虚実二重写しの面白さが出てこない。と言うより、空々しさが漂う。
 ジュリアンがペギーを引き留めるシーンで歌われる、本来ならショウストッパーであるべきナンバー「Lullaby Of Broadway」が感動的に響いてこないゆえんだ。

 これ以上のツッコミは止めるが、すっかり出来合いのミュージカル専門製作会社になったように見える東宝には、今どんなミュージカルを作るべきかを、原点に立ち戻って考えていただきたいと思う。日本ミュージカル界の顔として。

 最後にもう一度、ダンサー陣の健闘には拍手を送っておきたい。
 その気持ちが強かっただけに、あのスターへの政治的気配り丸出しの野暮ったいカーテンコールの演出にはうんざりした、ということも付け加えて(役者の責任じゃなく演出家の問題)。

(12/18/1997)

Copyright ©1997 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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