[ゆけむり通信 番外2011]

  • 6/20/2011
    『太平洋序曲』
  • 6/21/2011
    『六月大歌舞伎 昼の部(頼朝の死/梶原平三誉石切/連獅子)』
  • 6/24/2011
    『六月大歌舞伎 夜の部(吹雪峠/夏祭浪花鑑/かさね)』
  • 7/19/2011
    『七月大歌舞伎 夜の部(吉例寿曽我/春興鏡獅子/江戸の夕映)』
  • 7/20/2011
    『七月大歌舞伎 昼の部(勧進帳/楊貴妃)』

2011年 6月後半~ 7月国内観劇記

 宮本亜門演出の『太平洋序曲 PACIFIC OVERTURES』の日本語版は、 5月 20日に観た『スウィーニー・トッド~フリート街の悪魔の理髪師~ SWEENEY TODD』のところにも書いた通り、 2000年10月新国立2002年7月リンカーンセンター2002年10月新国立再演と追いかけ、その後の 2004年の英語版ブロードウェイ公演で中途半端な感じで放り出された気がした。その経緯は、ぜひ各公演の観劇記で読んでみていただきたい。
 で、その流れで言うと、「日本語版のさらなる再演」である今回の神奈川公演によって、亜門版『太平洋序曲』の「刺激的な試み」は一応の円環を閉じることにはずだった。……のだが、残念ながら今回の公演は、単なる再々演に過ぎなかった。
 主要の 3人がやや物足りなかった(香山弥左衛門役・八嶋智人=静謐さが足りない、ナレーター・桂米團治=声の迫力が足りない、ジョン万次郎役・山本太郎=未熟)ことを除けば、キャストには力があり、その力を発揮してもいた。しかしながら、初演や再演、リンカーンセンター公演の時に感じた、観客だけでなく、舞台を作る側も驚きながら作っているような、そんな計測不能な不思議さがまるでなかった。全てが収まるところに収まっている感じ。ブロードウェイ上演を経た後なので、観客の側の受け止め方も変質しているのだろうが。
 確かに、ラスト・ナンバー「Next」は震災後の日本を捉え直す契機を孕んで、変わらず今日的ではあった。が、舞台全体からガツンと迫ってくるものが足りない。僕の妄想が大きすぎたのかもしれないが。
 演出・宮本亜門、装置・松井るみ、翻訳訳詞・橋本邦彦、というスタッフの組み合わせは、やはり(作曲作詞)スティーヴン・ソンドハイム Stephen Sondheim 作品である『スウィーニー・トッド~フリート街の悪魔の理髪師~』日本語版と同じ。

 新橋演舞場『六月大歌舞伎』は、昼の部が、染五郎、時蔵、愛之助、孝太郎の『頼朝の死』、吉右衛門、歌六、段四郎、芝雀の『梶原平三誉石切』、仁左衛門、千之助の『連獅子』、夜の部が、染五郎、孝太郎、愛之助の『吹雪峠』、吉右衛門、仁左衛門、福助、段四郎、歌六の『夏祭浪花鑑』、染五郎、時蔵の『かさね』
 とにかく、仁左衛門が孫の千之助と踊る『連獅子』がよかった。仁左衛門がキリッとしているのは当然として、千之助も実にスジがいい感じ(と素人目にも映る)。小学生だが、子供子供してなくて、お見事。
 あと、『夏祭浪花鑑』の福助。徳兵衛女房お辰だが、この気風のいい、しかも色っぽい役、ハマっている。『かさね』の時蔵もよかった。
 『頼朝の死』(真山青果作)とか『吹雪峠』(宇野信夫作)とかっていう、いわゆる“新歌舞伎”は、筋が通って腑に落ちる近代心理劇的なところが、どうにも面白くない。江戸歌舞伎に比べてスケールが小さく、まるで物足りない。

 同じく新橋演舞場の『七月大歌舞伎』。昼の部は、最初の『義経千本桜(鳥居前)』を失礼して、團十郎・海老蔵の『勧進帳』と、福助・海老蔵の『楊貴妃』。夜の部は、(市川)右近・猿弥の「鶴ヶ岡石段の場」の殺陣が楽しい『吉例寿曽我』、海老蔵の『春興鏡獅子』、團十郎・海老蔵・福助・左團次の『江戸の夕映』
 というわけで、海老蔵がついに復活。待ってました。うまいわけじゃないけど、やっぱ、この人が出ると空気が違う。『春興鏡獅子』のいきいきしたキレのいい動き等、惚れ惚れする。元々は大佛次郎が新派(水谷八重子)のために書いたという『楊貴妃』なんてのは、海老蔵が出てなかったら、もっとどんよりしていたはず。戻ってくれてありがとう、と心から言いたい。
 大佛次郎が、こちらは九世海老蔵のために書いたという『江戸の夕映』は、官軍に敗れた旗本の心情を描いた作品だが、これがよかった。以前に観た時は、今回同様、徹底抗戦派として函館まで行く小六役は海老蔵だったが、彼を諌め、かつ心配する一見軟派の大吉役が松緑で、イマイチしっくり来なかった。今回はその大吉が團十郎。で、俄然、作品にふくらみが出て、これは第二次大戦帰還兵の話かと。いや、考えすぎかもしれないが、初演は昭和28年だそうだから、時代的には案外そうした背景があったのかも。アメリカのヴェトナム帰還兵もののイメージがダブったりして、なにか、とても新しく感じた。ここでは他に、大吉の女房役の福助、直参の意地を貫禄で見せる左團次もよく、後半にちらっと出て長ゼリフを聞かせる萬次郎も見事だった。

(7/24/2011)

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