それゲキ・アンケート篇


第 7回
好きなオリジナル・ミュージカル
(後編)

 “好きな日本のオリジナル・ミュージカル”アンケート回答の後編です。

 ●ゆうこさんの場合。

 [質問 1]

 私がこうして時々劇場に通うようになった直接のきっかけは音楽座なのです。『シャボン玉とんだ宇宙までとんだ』『星の王子さま』『マドモアゼル・モーツァルト』『泣かないで』、などなどどれも大好きで、一番は決められないのですが、日本オリジナル・ミュージカルとしての可能性を感じられる、日本のミュージカルっていいじゃん!と思わせてくれる、という意味で選んで……

 『アイ・ラブ・坊ちゃん』
 1995年 1月 22日府中芸術の森劇場と、1995年 4月 27日川崎市麻生市民館にて観ています。

 [質問 2]

 一言で言えば……バランスが良かった、よくできてる、ということでしょうか。
 単純に、袴とか下駄はいた登場人物がいるっていうのが“日本オリジナル感”をかもし出しているっていうのもあるかもしれませんが(笑)そういうことでなくて……

 誰もが一度は読んだことのある小説「坊っちゃん」と、それを執筆する過程で七転八倒する夏目漱石の姿を同時進行でみせるという面白いハナシで脚本も好きでしたが、その中でスカっとスパッとして明るい坊っちゃんと、精神的に追い詰められて苦しい漱石の対比のバランスが良いなぁ、と。
 また、ミュージカルならではの楽しみである、アンサンブルみんなでの楽しい歌&ダンスがあり(しかも袴や下駄で踊っちゃう)、しんみり感動させる清ばあちゃんの歌もあり。人生について考えさせてくれるかと思えば、笑わせてくれるシーンもたくさんありました。

 最後には漱石が苦しみの中からなにがしかの答えをつかみ、ちゃんと「希望」を感じさせて終わる、というのが音楽座らしくて好きです。

 単純バカの感激屋で涙腺の弱い私は、ウェットな「泣け!」と言わんばかりのクサ〜い音楽座作品群(笑)、好きなのですが、そんな「音楽座らしさ」をキープしつつ、クサさだけを押し付けない、バランスの良い作品だ、と思いましたので、『アイ・ラブ・坊っちゃん』に一票を投じます。

 ●ENOさんの場合。

 [質問 1]

 『上海バンスキング』
 1980年 4月 29日〜 5月 20日、六本木、自由劇場

 [質問 2]

 このアンケートに参加しようかどうか、ちょっと迷いました。理由は二つで、今までに観た日本のオリジナル・ミュージカルがあまりに少ないのと、『上海バンスキング』は、私の観たすべての「パフォーマンス」の中でもベスト(ベス“ツ”が正確か)の中に入るひとつで、“日本のオリジナル・ミュージカルの中で”というアンケートの主旨からズレるようにも思うからです。が、話のタネにいうことでまぜてください。

 芝居好きの同僚にさそわれて、内容も何も知らずに六本木のビルの地階におりていきました。やはりその同僚に前回さそわれて行ったのが唐十郎のテント芝居で、ああ、また、ああいう「濃い」のだったらかなわんなー、それにしてもヘンなタイトルの芝居だなーと思いつつ場内に入っていきなり感じたのが、ものすごい熱気でした。一枚ずつ手渡され座布団をお尻にあてがい、団員の「そーれ、そーれ」の掛け声でぐいぐい押されて座ってみると、これが何と一列めのど真ん中でした。何しろ狭い劇場ですから、幕が開いてみると、映画館の最前列でスクリーンを見上げるような状態で、吉田日出子が立っていました。

 芝居を観たのがずいぶん前の出来事になってしまい、その後、映画になったり、テレビで放映されたりで、その時の芝居そのものの記憶はぼんやりしてしまっていますが、私が今でもありありと「体で」思い出せるのが、ステージと客の一体感です。あれだけの一体感と熱気は、その後、ブロードウエイで『ノイズ/ファンク BRING IN 'DA NOISE, BRING IN 'DA FUNK』を観るまで、味わったことがありません。客層も、ブロードウエイなみに、幅広かったように思います。日本の、たとえば「翻訳ミュージカル」の公演会場に漂う、どこかよそ行きの感じとはまるで違うものです。それは、私がいまさら言うまでもなく、吉田日出子をはじめとする、見事に役にはまった役者たちの力が生み出したものでしょうが、日本ならではの、オリジナル作品という要素も、大きいのではと思います。

 とにかく、いい体験をさせてもらったという幸福感が今でもよみがえってきます。

 ●kaorunさんの場合。

 [質問 1]

 『アイ・ラブ・坊ちゃん2000』
 2000年 1月、新国立劇場で観劇。ちなみに、この作品を観たのはこれが初めてです。

 [質問 2]

 癒されてしまったので(笑)。
 ちょうどこの時、ミュージカルを見始めてからの人生の中で、一番落ち込んでいた時期でした。
 漱石が苦しんでもがきながら、やがて自分の心に決着をつけて行く様子や、坊ちゃんの天真爛漫な魅力などに惹かれたのかなと思っています。
 そういう精神状態で観て、理屈抜きで好きになってしまったので、あまり客観的にこの作品のことは語れないな〜と思いますが、他のミュージカルと比べて、どういうところが好きなのかを書くと、以下のとおりです。

●構成
 漱石の場面と坊ちゃんの場面とがうまくかみ合って展開してるな〜と思いました。
 全体的に漱石が悩んでいるところ以外はユーモラスに進むのが好きです。それでいて、ほろっとさせるところはほろっとしますし。「坊ちゃん」の作品自体の面白さが生きてるのかなと思います。
 面白いと思ったシーンは、漱石が原稿を書いている間に、鏡子が何度も漱石に声を掛けて、そのたびに会議をしている坊ちゃんたちが止まってしまうシーンです。

●日本ものも面白いなあと思わせてくれたところ
 昔の日本に題材をとった作品も面白いじゃないかと思いました。
 これを観て、「日本人はやっぱり着物だわ、スーツじゃだめだ」と思いました(笑)。はかまを着た坊ちゃんと山嵐の方が、赤シャツよりはるかに見栄えがしましたから。
 坊ちゃんのキャラクターもとても魅力的でしたし、やっぱり日本の文豪の代表作を持ってきたことが成功の理由なのかなと思います。

 曲も迫力があるわけではありませんが、全体的にメロディがきれいなので、好きです。
 ただ、ダンスシーンはもう少し工夫がほしいと思ってしまいます。これは音楽座の作品すべてに言えるのですが。

 本当は『夢から醒めた夢』も同じくらい好きだったのですが、この作品はバージョンチェンジしてから、さっぱり魅力がなくなってしまったと思います。残念です。

 ●安倍寧さんの場合。

 [質問 1]

 『モルガンお雪』
 1951年 2〜 3月、帝国劇場。菊田一夫作、東信一ほか演出。

 [質問 2]

 帝劇社長だった秦豊吉のプロデュースによる国産ミュージカルのパイオニア的作品です。現在の尺度からすれば、ドラマとしては誠に不備だらけでした。しかし宝塚歌劇団在籍のまま主演した越路吹雪が光り輝いていました。彼女の歌い踊る「ビギン・ザ・ビギン」のなんとコワク的だったことか。
 そのことだけで記憶されるべき舞台です。
 古川緑波、森繁久弥、有島一郎、三木のり平も実に生き生きとそれぞれの役をつとめていました。
 このとき越路を見ていなければ、私が今日、なんらかのかたちでミュージカルに携わることはなかったでしょう。越路吹雪亡きあと、日本のミュージカル界にほんとうのスターと呼べる人材がひとりも存在しないことを、心から嘆き哀しむ者です。

 統計的に言うと、『アイ・ガット・マーマン』『アイ・ラブ・坊ちゃん』が 2票で同率首位。サンプル数が少ないので意味があるとは思いませんが(笑)。でも、“画期的”という意味で、かなり妥当な傾向だと僕には思えます。
 面白いのは、この 2作に投じた方の観劇時期が、それぞれ違うこと。『アイ・ガット・マーマン』は、 NANAさんが再演で、乙井さんが……何演だろう、とにかく久しぶりの(笑)リヴァイヴァルの大阪公演。『アイ・ラブ・坊ちゃん』は、ゆうこさんが、これもたぶん再演のツアーじゃないかな、で、 kaorunさんがニュー・ヴァージョン。作りたての頃に画期的だった作品が、時を経ても観客の心を捉えている、ということなんでしょうか。
 『アイ・ガット・マーマン』については、僕も、“久しぶりのリヴァイヴァル”でようやくつかまえたクチで、その時にはすでにオフ・ブロードウェイの舞台をけっこう観ていたので、さすがに画期的だとまでは思いませんでしたが、それでも新鮮だった。よく考えられた作品だと思いました。
 『アイ・ラブ・坊ちゃん』の夏目漱石と坊ちゃんの二重構造は、別のところでも書きましたが、おそらく『シティ・オブ・エンジェルズ CITY OF ANGELS』にインスパイアされたもの。ではありますが、その手法を、お手本のような全くのフィクションではなく、僕らのよく知っている作家と作品の事実に適合させているところが刺激的でした。まあ、その伝でいけば、『ラ・マンチャの男 MAN OF LA MANCHA』という傑作があることはあるのですが。それでも、ゆうこさんも kaorunさんも触れてらっしゃる通り、ちょっと昔の日本という題材に挑戦して一応の成果を収めたのは、やはり見事だったと思います。

 すどやんさんの推す『とってもゴースト』は、『アイ・ラブ・坊ちゃん』に先行した音楽座作品。これも、僕が観た時はすでに再演以降だったので、振付の平凡さなどが気になったりもしましたが、初演時にある種の新鮮さがあっただろうことは想像がつきました。

 齋藤惠子さんご推薦の『オケピ!』は、齋藤さん同様、僕も再演を観たい 1作。観劇記にも書きましたが、課題を抱えながらも、“ミュージカルに対する批評性”で日本のオリジナル・ミュージカルの新たな地平を切り拓いたと思います。再演時には、脚本と振付をより練り上げてほしい。

 ENOさんが、あえて「パフォーマンス」と書いていらっしゃるのは、『上海バンスキング』をミュージカルと呼ぶかどうかが微妙だからでしょうか。と言うのは、この作品、楽曲部分がなくてもドラマが進まないわけではないから。でも、そんなことは『上海バンスキング』の素晴らしさとは何の関係もないですね。それも、あの小さな小さな劇場で観たとしたら、その感動や……想像しただけで震えそうです(笑)。

 さて、残る 2作は全く未見です。
 KJさんの『私はルビィ』、作品名すら知りませんでした。今度、どんな作品だったのか教えてください。青年座。『ムーランルージュ』を観ただけですが、面白かった。
 安倍寧さんの『モルガンお雪』は、日本のミュージカルの歴史を書いた本に必ず出てくる作品ですが、僕は観たことがありません。生まれる前ですから(笑)。ご覧になった方から生のご意見をうかがえるとは思ってもいませんでした。安倍さん、貴重な体験談、ありがとうございました。

 最後に、僕がアンケートのページ『香港ラプソディー』を挙げた理由を簡単に説明しておきます。
 第 1にオリジナルの楽曲の素晴らしさ(歌詞に難点のある曲もないではないですが、「チャイナ・レイン」の素晴らしさはそれを補って余りある)。第 2に日本人が中国人(ディック・リー Dick Lee)と組んで日本人と中国人の現代のドラマをミュージカルに仕立てたこと、にあります。この 2点の前には、半端な完成度なんて問題じゃないと思います。

 みなさん、ご協力ありがとうございました。
 ブロードウェイやウェスト・エンドに行ってる暇がないくらい、数多くの素晴らしいオリジナル・ミュージカルが観られる日が来ることを祈って、これからも温かくも厳しい目で日本の舞台を見守っていきましょう。

前編はこちら

(7/1/2002)

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