それぞれの人生それぞれのゲキもは!

赤岩友美子さんの場合 2

 宝塚観劇の大先輩、赤岩友美子さんから 10年振りのご投稿をいただきました。実は、前回は僕の質問へのご回答だったので、実質的には、これが初です。ただでさえ観られない千秋楽の、しかも“サヨナラ公演”で起こった緊急事態にビックリ。
 例によって、作品タイトルや人名などの表記を本サイトの原則に沿って統一させていただきました。

 それは 2005年 8月 14日(日)、宝塚星組公演『長崎しぐれ坂』『ソウル・オブ・シバ』の千秋楽の日、東宝劇場でのこと。
 開演の数分前、神田囃子の音が聞こえ始め、いよいよ開幕と思われる頃だった。 1階前方がざわついたので、トップ娘役檀れいちゃんのラストだし、同期のスターでも来ているのかしらと思っていた。 2階の席から、オペラグラスで下を見る人たちが大勢いて、時間になってもなかなか始まらない。
 アナウンスがあり、急病の人がいて、手当てをしているからそのままお待ちくださいという。緊迫した空気の中、「パパ、パパ、頑張って!」などと悲痛な声が下から聞こえてくる。20分ほどして救急隊員がやってきてもそのまま手当てが続く。舞台脇から裏方の黒いTシャツの人などがやってきたりするのは見えたけれど、様子がわからないから余計心配になる。ドキドキしてしまってトイレに行き、ペットボトルのお茶を飲んだ。
 しばらくして拍手が起き、キャーという歓声も上がった。どうやら息を吹き返されたようだ。再度アナウンスがあり、担架でその方が運ばれて、40分ほど遅れて始まった。
 息が詰まるような時間の後、何事もなかったかのようにお芝居が始まり、いつもよりいっそう熱い千秋楽に相応しい舞台がくりひろげられた。そして幕間に、開演が遅れたお詫びと貴重なお時間をいただいたことなど、協力への感謝、倒れた方は快方に向かっているという連絡があった旨のアナウンスがあった。そのとき、自然に拍手が沸いた。よかった〜、とほっとした気持ち、東宝劇場 2000人の気持ちがひとつになった一瞬だった。
 幕間のロビーで、その席の近くにいた友人に聞いたところでは、少しお年を召した男性が急に座席で倒れて、みるみる顔が白くなり、たまたま居合わせた看護婦さんやお医者さん数人が通路で心臓マッサージ、マウスツーマウスの人工呼吸を続けていたそうだ。正装した男性で、胸を開けるのも大変で、ネクタイなどをはさみで切ったとか。
 その方は、この日退団する仙堂花歩のお父様だった。彼女は、立派ににこやかに舞台を務め、美声でソロを歌い、最後の挨拶も晴れやかでその根性に驚いた(彼女はその後、吉本新喜劇に入団し活躍中)。
 この手当てなどの連係プレイと、ただ静かにじっと見守っていた客席の温かさに何だか凄く感動した。もし開演後だったら……と思うとぞっとした。
 その後、その緊急医療をされたのは、よく知っている愛宝会のTさんだと知った。Tさんによれば、たまたま一緒に見にいらしていた 3人のお医者さんと、あるファンクラブの看護士さんと、大汗で必死だったそうだ。蘇生する機械が劇場にはなく、帝国ホテルから借りてきた話、今はもうその機械が設置されたこと、感謝状などをいただいたことなどを伺った。宝塚ファンには、お年寄りも多いし、これからは歌劇団職員も救護訓練などして危機管理を徹底してほしい。
 それにしてもこの星組公演は、大きな地震、中くらいの地震、台風、そして今回と、ハプニングが多かった。でも、一致団結の力というか、宝塚パワーで乗り切り、一生忘れることのできない公演になった。
 さて、そんなことがあってから見た『長崎しぐれ坂』の舞台は、濃く、しっくりとそれぞれの役者の気持ちが伝わってきて、さすがだった。お化粧もすっかり終わってスタンバイしていたであろう生徒さんたち、気分一新、その集中力は素晴らしく、精霊流しなどの踊り場面も見事なものだった。テーマは明らかにタカラヅカ向きでなく、趣味からいけば好みではないものの、植田紳爾先生の熟練作品、よく練れた舞台で素晴らしい出来だと思った。新国劇の作品を、生徒の力で宝塚色にちょっと染めて、別世界の作品にしてしまうというのは、宝塚の生徒の持つ不思議な力なのだと思った。
 続いて行われた「檀れいさよならショー」。短いながらまとまりがよく、洗練されていて、トップ娘役なので、相手役にカッコいい男役さんが次々と登場して豪華、素晴らしかった。美しさにおいてナンバーワンと思わせる檀ちゃん。彼女と歌ったり踊ったりすると、どの男役さんも、いつもより更に素敵に見えるというのが不思議。これもまた名娘役の秘密かも。トップ娘役から一度は専科になり、そして再びセンターに返り咲いた檀ちゃん。月組時代は真琴つばさの元で下級生として愛らしく、星組になってからは湖月わたるの相手役として大人っぽく活躍。楊貴妃など大きな役も相次いで、真剣に舞台に取り組む姿が綺麗だった。歌に関しては最後まで心配部分が残ったけれど、そんな頼りなさというか、満点になれない美女というのが可愛くも感じられたりして(ファンの勝手)、宝塚が大好きという姿勢の檀ちゃんが好きだった。
 フィナーレ、轟悠の最後の挨拶では、今日、開演前に起きた出来事に触れ、お客様が静かに温かく事態を見守って下さった事への感謝の一言があり、さすが理事だと思った。用意してきた挨拶を半分にしたとのことだった。
 「見上げれば 満天の星。宇宙の中の ちっちゃな星、地球の中のちっちゃな存在……」と星組にかけての詩のような言葉があり、「愛されて生まれてきた私たち」というフレーズに、しみじみ命の大切さを感じた。 2回目のカーテンコールでスタンディングオベーションになり、檀ちゃんは感極まって泣いていた。これから色々なことがあるだろうけれど、この日のことを忘れることなく、どこにいても頑張ってほしい。卒業おめでとう!

 赤岩さんからは、「その後の檀れいの活躍」について、「昨年末の松竹映画『武士の一分』では、キムタクの相手役として山田洋次監督に抜擢され、一躍有名にな」り現在にまで続く、詳しい情報もいただいています。
 僕のような半端なファンでも、宝塚歌劇の卒業生の動向は何かと気になります。ましてや、ずっとご覧になっている方にとっては、実の娘と言わないまでも、親戚の娘のようなものなのでしょう。檀れいさん、仙堂花歩さんのみならず、みなさんのご活躍をお祈りしたいものです。

 赤岩さん、ありがとうございました。

(7/7/2007)

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