それぞれの人生それぞれのゲキもは!

カイルア山本さんの場合 3

 観劇の大先輩、カイルア山本さんから、 1年ぶりのブロードウェイ観劇記が届きました。例によって簡潔にしてわかりやすい舞台評を、お楽しみください。
 なお、作品タイトルや人名などの表記は、本サイトの原則に沿って統一させていただきました。

 例年、秋にはニューヨークへ行けるよう都合をつけていたのですが、今年は 7月に宮城県北部地震で直下型地震の激震に見舞われ、震源地の真上の我が家もあちこちに相当なダメージを受けました。家中の壁には微妙な亀裂が残り、風呂は全面的な改築が必要となり、庭先の古い物置は崩壊など、ダメージは JA建物共済に救われると云う状況でした。また冷夏という気象状況や、兄の「前立腺癌」疑惑も重なり、 9月からの良い気象条件でのニューヨーク訪問は実現しませんでした。
 それでも思い立って、 11月 5日からハワイのコンドミニアム暮らしを始めた訳ですが、やはりビーチでのぶらぶら暮らしと映画だけの生活にも、直ぐに退屈してしまい、心のモヤモヤを晴らすため、急遽ハワイ暮らしを中抜きしてニューヨークへ出かける事にしました。
 ホテルは「hotels.com」を利用して確保し、 Newark まで Continental で飛びましたが、日本往復以上の時間がかかります。フライトは夜間飛行で Newark 到着は早朝、ターミナルでの読書で時間を潰し、新設のモノレールそして NJT(New Jersey Transit)と乗り継いで Penn Station にたどり着きました。
 ホテルは31丁目にある 1904年創業の Wolcott Hotel で、何とも古風で雰囲気はあり、 5番街を見下ろす広い部屋ですが、暖房がスチームのラジエーターだけ、それも時間が来ないと蒸気が回って来ませんから、ハワイの夏から冬のニューヨークの気温への対応はつらいものがあり、エキストラの毛布にくるまり、ずっとマフラー着用の着たきり雀で過ごしました。
 観劇は 6days 8times のスケジュールにそって組み立てましたが、やはり自分の趣味と体調を勘案したものになってしまいました。

 11月18日(火) 20:00 『アヴェニューQ AVENUE Q』
 11月19日(水) 14:00 『ボーイ・フロム・オズ THE BOY FROM OZ』
 11月19日(水) 20:00 『ナイン NINE』
 11月20日(木) 20:00 『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ LITTLE SHOP OF HORRORS』
 11月21日(金) 20:00 『ジプシー GYPSY』
 11月22日(土) 14:00 『タブー TABOO』
 11月22日(土) 20:00 『ネヴァ・ゴナ・ダンス NEVER GONNA DANCE』
 11月23日(日) 15:00 『テイク・ミー・アウト TAKE ME OUT』

 それでは例によって私なりの感想を一言書かせて頂きます。

『アヴェニューQ』
 パペットと人間が共演する可愛い『セサミストリート SESAMI STREET』風な作りかと思いきや、内容は皮肉と風刺に溢れた見事な大人版になっています。
 文楽の出遣いで見慣れていてあまり違和感は無いが、文楽と違い操作者自身もパペットと同じに演技しているので、最初はどちらを選択して見るか、少々混乱がありましたが、徐々に焦点をずらして見る事で、パペットと演者を二重に楽しめるようになりました。
 悩める新大卒者が Avenue Q に住み着き、周囲のキャラクターの影響を受けながら、 1年を通じて成長する話を土台に、脇のキャラクターの挿話も含めて、皮肉な大人のオトギ話が展開します。
 それぞれのモラルの主張がぶつかり合い、奇妙な展開はするが、考え方には納得させられます。脚本、歌詞、メロディが良く仕上がっているので聴き応えがあるし、細かいギャグが満載で大いに笑わされ、皮肉なスケッチには考えさせられます。
 「Everyone's A Little Bit Racist」が問題提起と調和を示していてテーマが明確になっています。
 モンスターのケイトの造型が可愛く、ルーシーとの二役を女優(ステファニー・ダーブルーツォウ Stephanie D'Abruzzo)が良く演じていて大いに腕を振るっているし、男性の主役 2人(ジョン・タータグリア John Tartaglia、リック・ライオン Rick Lyon)もそれぞれ二役で役変りを楽しんでいます。
 ルーシーが収容された救急病室で、心臓のビートが示されるギャグが一番の出来であり、日系女性(アン・ハラダ Ann Harada)の持論もまたユニークで強い個性を発揮していて、生存競争の厳しさを伺わせます。 Love song としてケイト・モンスターが歌う「There's a fine, fine line」が心を打ちます。
 ハートウォーミングのラストで気持ちが良い終わり方です。

『ボーイ・フロム・オズ』
 いずれにしても魅力的でセクシーなヒュー・ジャックマン Hugh Jackman に圧倒されました。
 主人公で狂言回しという困難なポジションで決して自分を殺さずに、強烈なサブのキャラを生かしながら見せ場を確保し、更には自分を輝かしています。良く踊れて唄えて、しなやかな肢体と良く通る声があるので、伝説のスターが、また 1人生まれた感じがします。テレビ版の『オクラホマ! OKLAHOMA!』カーリー役とは別人の様で、躍動感に溢れています。
 ピーター・アレン Peter Allen のコンサートで始まり、生涯を語り、コンサートシーンで終わりかと思うと、フィナーレで大いに盛り上げ、簡素な舞台を、最後は豪華に飾り上げ、コーラス全員がサンバの衣装で踊り、高揚感で終わります。
 ジュディ Judy Garland 役もライザ Liza Minnelli 役も単なる物真似ではなく、声も仕草も似せていて、その上で自分の個性を出しているので、芸達者と云えます。
 ライザのナンバーは、元のフォッシー Bob Fosse の味を生かしながら振付けていて、苦心の程が判ります。
 ピーター・アレンの楽曲も何曲かは耳に残っていましたし、彼の全盛期に Radio City Music Hall に出演した場面で、ロケットを全員出さずに、鏡を上手に利用して、最後にはあっと云わせる演出は洒落ています。
 ピーターのセクシュアリテイと父親の存在が最後に種明かしされ、だいぶ因果話的な結末になりますが、何としてもフィナーレの「I Go To Rio」の楽しさが悲惨な話を救ってくれます。
 衣装のセンスも良く、舞台上での衣装変えで観客をどよめかす beefcake show もあります。
 母親役(ベス・ファウラー Beth Fowler)は助演でトニーにノミネートされそうな出来です。丁度ブロードウェイの AIDS と癌のチャリテイ募金週間なので、アンコールの後、ヒュー・ジャックマンが着用したTシャツと記念写真とキッスがセットにされ、オークションにかけられ、 1500ドルで競り合ったご婦人達 3名がステージ裏で大喜びで待っていて、人気の程が伺えました。

『ナイン』
 観劇の条件が最悪でした。
 夕食を簡単に済ませ、 47丁目の街頭に出たら、篠つく豪雨で立ちすくんでしまいました。一歩踏み出したらズブ濡れ必至という状況、開演時間は迫るは、雨は上がりそうもなしで、小降りになったのを見計らって、 49丁目の劇場目指して走り出したのですが、また豪雨でルネッサンスの入り口で走るのは断念せざるを得ませんでした。丁度、ショッピングカートを押したお爺さんが「3ドルだよ」と傘を売りに来たのを我先に買い求め、ようやく開演には間に合いましたが、上着はビショ濡れ、誰もが膝の上で自然乾燥を試みる状態で足元が寒く気分は乗りませんでした。
 『ナイン』は「心象ミュージカル」とでも云ったら良いのか、主人公グイドの映画製作の悩みと、女性関係のトラブルが絡み合い、抽象的なステージで展開されます。
 アントニオ・バンデラス Antonio Banderas も女優も交代していて、前半の山「Folies Bergeres」はアーサ・キット Eartha Kitt が演じています。
 彼女の声と芝居はドスが効いて迫力がありますが、ダンスの切れはイマイチなのが、チタ・リヴェラ Chita Rivera との差なのでしょうね。
 カーラ役の登場シーンの宙吊り演出はアイデアの勝利だと思います。
 2幕目ベニスのシーンで、本水を入れた舞台のプールと、ホリゾントの流水を生かす趣向で目が覚めました。
 しかし自分がびしょ濡れ状態なので、水は遠慮したい心境なのと、男性出演者は主人公と子役だけですし、派手なダンスシーンも少ないので、イマイチ盛り上らなかったのかも知れません。
 TKTSの半額チケットで良かった。

『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』
 お馴染の話であり、演出のジェリー・ザックス Jerry Zaks の包丁捌きを楽しみに出かけました。
 彼のステージの色遣いのセンスの良さは『ガイズ・アンド・ドールズ GUYS AND DOLLS』で実証済ですが、今回もカーテンの書体の血の色からしてぞくぞくさせられます。
 この作品の見ものは何と云っても「オードリーU」の造型で、ジム・ヘンソン Jim Henson の原型を、現在風にアレンジした大きさと操作で、楽しませてくれました。
 登場人物のタイプキャステングと、それに伴う実力が相俟っているので、役者の層の厚さが実感されます。歯医者役(ダグラス・シルズ Douglas Sills)が、スティーヴ・マーティン Steve Martin そっくりなのは意識的なのかな。コーラスの 3人組も良く歌い踊って、モータウン・サウンド好みを照れずに前面に押し出して好結果を得ています。
 フィナーレで「オードリーU」は客席まで迫り出して来て驚かされます。
 ホリプロと TBSが製作に噛んでいたとは知りませんでしたが、 TKTSを利用させてもらいました。

『ジプシー』
 ご承知の物語と歌とキャラを、どの様に生かすかがポイント。
 バーナデット・ピータース Bernadette Peters は自分の実年齢に相応したジューイッシュママに徹したようであり、ワンウーマンショー化しています。エセル・マーマン Ethel Merman 物も2作目であり、更には極め付けのステージママ役ならではの成りきりぶりが小気味良く思えます。
 装置転換に登場者達も使用してスピードアップ、簡便で印象的なものにしているが、ママが登場していない場面がダレるのは仕方が無いのかな。両袖に場所と状況を示す説明版があり判りやすくなっています。
 ストリッパー 3人組のうらぶれた感じのキャステングがはまって見事、やはりこの作品の見せ場になっていて、ここはジェローム・ロビンズ Jerome Robbins のオリジナルの振り付けが生かされています。
 最後の「Rose's Turn」は空舞台から見せて、楽曲の展開にそって仕掛けたっぷりの大舞台を堪能させ、ピータースの熱唱で締めます。  ピータースが休まない日で幸いでした。

『タブー』
 何しろあのボーイ・ジョージ Boy George 自らの書き下ろし出演である上に、いかにも製作者ロージー・オドネル Rosie O'Donnell 好みに仕上がっていて、彼女の趣味がプンプンと下世話に辛辣に匂う所が面白く感じられるし、英国製の硬質な皮肉で、社会がタブーとしてきた事を表に出して、さあどうだと開き直っているようです。ボーイ・ジョージ自身もセルフパロデイに自戒の意を込めながら、なお挑発しています。
 お話は、若き日のボーイを彼の友人関係の中に、浮かべて流して見せるますが、彼自身は別の衣装デザイナー役を演じて、彼の中の多重性を表現しています。
 サブキャラが良く書き込まれていて、ドラッグクイーンのマリリン役がコメデイリリーフとして場面をさらって行くし、狂言回しフイリップ役が歌唱力、演技とも抜群です。
 ダンサーも良く動くし、振り付けも錬られていて見応えがありますし、ボーイ・ジョージの楽曲が場面にはまっていて『マ(ン)マ・ミーア! MAMMA MIA!』とは、まったく違う柔軟性が感じられます。

『ネヴァ・ゴナ・ダンス』
 あの大恐慌時代に夢を与え続けた、アステア=ロジャース Fred Astaire = Ginger Rogers の映画『有頂天時代 SWING TIME』をリバイバルさせた作品で、1936年のアメリカンドリームに、少々現代の薬味を効かせて再構成しています。
 楽曲もジェローム・カーン Jerome Kern ご存知の曲をはめ込んでいて、観客を自然に全員ハミング状態にさせてしまいます。
 ダンス場面が見せ場であるのは当然であり、黒白トーキー映画の味を、どの位残しながら現代化するかが課題で、そこが演出・振付の腕の見せ所ですが、30年代のイノセントさとのんびりムードが、現代のスピード感と良くミックスされて心地良い仕上がりと云えます。
 主演のノア・レイシー Noah Racey が、のっけから軽々と踊りまくって息も付かせず、アステアばりの気品と軽やかさを持ち合わせていてこれも逸材と云えます。ニューヨーク到着のオープニングは群舞の切れも良くドキドキさせられます。
 ヒロインのナンシー・レメネイジャー Nancy Lemenager は、当時のロジャースより難しい振りを優雅にこなし、更にはお色気も十分に踊っています。
 私が見た日にはハイライトの「Never Gonna Dance」のナンバーで、オモリの入ったスカートの裾が、マイクに引っ掛かり、破けてしまうと云うアクシデントがありましたが、それを乗り越えるショーマン精神が見事で、ねぎらう拍手が鳴り止みませんでした。高層ビル建築の工事現場のダンスシーンは、オーケストラから見ると、狭く高い場所で踊る、その難しさが伝わらず、 2階席には大受けでした。
 助演のカレン・ジエンバ Karen Ziemba は 1幕目はただ立っているだけ、 2幕目でナンバーを 2つ持ちますが、腕の振るいようが無く、気の毒な役回りでした。
 フィナーレに全員がトップハットと燕尾服に改めての群舞シーンは、改めてタップのユニゾンの魅力を認識させます。フィナーレで思いっ切り遊ぶのは『ボーイ・フロム・オズ』と同じ趣向ですが、装置と振付のセンスがブロードウェイだなと実感させます。

『テイク・ミー・アウト』
 日曜のマチネーは TKTSで『ワンダフル・タウン WONDERFUL TOWN』と思っていたら売り切れ。急遽針路変更をして『テイク・ミー・アウト』になりました。今年度トニー賞ドラマ部門を総なめにしたのは当然と思える、見所たっぷりのケレン味十分の楽しめる群衆劇でした。
 大リーグのロッカールームを舞台に、黒人外野手のセクシュアリティがゲイの噂にどう対抗して行くかがメインテーマですが、これに他の選手の悩みも重層的に絡み合わされて展開されます。事件の展開を、白人の主将キッピーを狂言回しにして観客に語りかける、判り易い進行となっていて楽しませてくれます。黒人選手とプアホワイト出身の差別主義者の対立、ラテン系選手への羨望と蔑視、日本人選手の 孤独などが風刺の味も添えて突き付けられます。
 シャワールームをステージに出現させ、それこそ赤裸々な男たちの生き様を見せてくれます。さすがブロードウェイでも、男性ヌードの勢揃いは、客席にジワを呼びます。
 日本人選手は野茂をそつくりなぞっていますが、彼の大リーグに賭ける思いを日本語で凄み、独白を展開します。ここは翻訳なしで、真っ当な日本語の台詞に成っている所が見物でした。
 主人公ダレンの広報担当コンサルタントであるメースンはゲイであり、ダレンに憧れているが、野球は好きではないユダヤ人と云う設定で、彼等の会話で大いに笑わせて、最後はお互いがそれぞれの立場を理解して、親密な人間関係が成立し、幕切れはメースンの幸せな独白で終わって幸せな気持ちにさせてくれます。
 それにしても俳優が粒揃いで、またまた層の厚味が感じられうらやましく思いました。

 来年 1月には 69歳の誕生日を迎えられるという山本さん。いつもながらの精力的なご観劇には頭が下がります。

 山本さん、ありがとうございました。

(12/22/2003)

Copyright ©2003 MIZUGUCHI‘Misoppa’Masahiro

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