それぞれの人生それぞれのゲキもは!

ENOさんの場合 4

 4度目の登場の ENOさん。前回は、ニューヨークへ思いを馳せながらの翻訳版『ジキル&ハイド JEKYLL & HYDE』観劇のお話でしたが、今回は変化球(?)のウィーン編です。

“JEKYLL & HYDE DAS MUSICAL”

 3月末、 1週間ほどの「ゲキもは」のチャンスがやってきました。
 が、因果はめぐる。御存知のとおりの展開で、ニューヨークはまるで駄目(女房および家族サイドから見て)、ニューヨークが駄目ならと思って案を練っていたロンドンも、これまた、御存知のとおりの展開で、駄目。
 そこで思いついたのが、ウィーン! 利用した便はルフトハンザ。ドイツはイラク攻撃に反対していたし、目的地は中立国。やっと家族の OKをもらえましたが、出発日が開戦の翌日に当たってしまい、帰国まで、そうとう心配させてしまいました。ごめんなさい。

 もともとは「モーストリー・モーツァルト」のクラシック好きだったので、コンサートやオペラを中心に堪能してきました。メインは、小沢征爾が指揮した、モーツァルトのオペラ『コシ・ファン・トゥッテ』
 余談ですが、「ウィーン・フィル定期演奏会」という、入手のえらく困難な、クラシック・ファンなら垂涎のチケットが取れたとの連絡を、出発前日に日本のエージェントから突然もらいました。きっと、誰かが旅行をとりやめてキャンセルしたんでしょうね。
 返りの便はガラガラでした。単純には喜べない、複雑な心境でした。

 ミュージカルは、ロングラン中の 2本のうち、『エリザベート』で有名な(私はまだ観てませんが)アン・デア・ウィーン劇場でやっている『ジキル&ハイド』を観ました。
 ここは、モーツァルトが『魔笛』を初演した所で、ナッシュ・マルクトという市場の向かい側の、活気のある下町の一角に建つ、(当時としては標準サイズの)小ぶりなオペラ・ハウスです。『魔笛』は本式のオペラとは違う、ドイツ語によるやや下世話な「歌芝居」で、ミュージカルの原型と言えなくもないものです。日本で観た『モーツァルト!』は平板であまり面白くありませんでしたが、まさに『魔笛』が初演されたこの劇場での上演には、また違った味わいがあったのかもしれません。
 凄い人気で、私の観た土曜の夜には、バスを何台も連ねて地方の客が観劇に来ていて、四季劇場の前の光景を思い出しました。
 主役の Thomas Borchert は、江口洋介似(演技力はむろん別)の長身で、素晴らしい演技と歌で、ジキルとハイドの葛藤という、このミュージカルの醍醐味を充分に味わうことができました。舞台装置は、そもそもオペラ座なので奥行きがある、この劇場の機構を生かした、なかなかに凝ったものでした。
 演出は、過激というか、エロチックというか、セックスの表現が直接的で(ブロードウエイ版は、どうだったのかお聞きしたいのですが)、ルーシーが絶命する瞬間にハイドは背後から彼女を犯すしぐさをして、殺人の動機が性的快感によるものだというのが、ハッキリ分かる演出でした。売春宿でも露骨に性行為を示す動作があちこちに見られて、客にはけっこう子供もいたりするので、生真面目な日本のオトーさんはちょっとうろたえてしまいました。
 セリフや歌はむろんドイツ語で、全く分かりませんでしたが、オリジナルの雰囲気を出すためか、所々(“This is the moment.”といったサビの部分とか)に英語が混じっていて、相手の呼び方も、男性の場合だと、ヘルではなくミスターでした。
 翌日、この上演のオリジナル・キャスト版と、この劇場製作の『シカゴ』オリジナル・キャスト版の CDを手に入れました。また、宝物が増えました。

 ついでに戦争がらみでいうと、 2月に蜷川幸雄演出の『ペリクリーズ』を観る機会があり、感動しました。
 シェイクスピア劇を自由自在に料理してみせた手腕はむろんですが、離散したペリクリーズ一族の再開というめでたしめでたしのロマンス劇の前後に、蜷川幸雄は、荒廃した都市に出演者たちが難民のような格好で呆けたように佇む場面を置いて、現実のこの世界では、芝居のハッピーエンドとは違い、多くの家族が悲惨な状況におかれているのだというメッセージを盛り込んでいます。
 この芝居、 3月末から今月の 5日まで、ロンドンのナショナル・シアターで上演されることになっていました。明らかにこの戦争を意識した演出で、きっとロンドンで大きな反響を呼んだことと思います。
 今年にはいって初めて観たミュージカルは、四季の『クレイジー・フォー・ユー』でしたが、たまたまその直後に、シェイクスピア劇を大胆に消化してロンドンの観客をも挑発しようとしている、この日本人の芝居を観て、ブロードウエイ・ミュージカルのコピーを一糸乱れずやってみせる(その努力には頭が下がりますが)空々しさを再確認しました。

 ブロードウェイ版の『ジキル&ハイド』は、そこまで性的表現が直裁でなかったと記憶しています。さすが成熟の都ウィーン、ということなのでしょうか。
 しかし、海外はともかく、国内でも素晴らしいミュージカルにたくさん出会いたい。それが共通の願いですよね、 ENOさん。

 ENOさん、ありがとうございました。

(4/10/2003)

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