それぞれの人生それぞれのゲキもは!

カイルア山本さんの場合 2

 観劇の大先輩、カイルア山本さんが、前回から 2年ぶりにブロードウェイをご訪問。再び、肝をつかんだ簡潔な舞台評を送ってくださいました。
 「胃全摘出後 5年は経過しましたが、旅先では我が家同様の気ままな食事は取れませんので、体重 52キロが 49キロに減ってしまいました。“食べる楽しみ”が無くなって現在は“観る楽しみ”だけになっていますが、まだ続けられるのは幸せと思っています」とおっしゃる山本さん。ゲキもはの鑑。頭が下がります。
 なお、作品タイトルや人名の表記などは、本サイトの原則に沿って統一させていただきました。けっして山本さんが『マ(ン)マ・ミーア!』と書かかれているわけではありません(笑)。

 10月 17日からの 11泊で 13演目の観劇という超ツメコミ・スケジュールで、あわただしくニューヨークの秋を楽しんで来ました。
 観た順番は次の通りで、寸評は後にします。

 『フォーティセカンド・ストリート 42ND STREET』
 『プロデューサーズ THE PRODUCERS』
 『フラワー・ドラム・ソング FLOWER DRUM SONG』
 『ハリウッド・アームズ HOLLYWOOD ARMS』
 『イントゥ・ザ・ウッズ INTO THE WOODS』
 『ヴァンパイアの舞踏 DANCE OF THE VAMPIRES』
 『ムーヴィン・アウト MOVIN' OUT』
 『ヘアスプレイ HAIRSPRAY』
 『マ(ン)マ・ミーア! MAMMA MIA!』
 『モダン・ミリー THOROUGHLY MODERN MILLIE』
 『ユーリンタウン URINETOWN』
 『海賊 IL PIRATA』
 『オクラホマ! OKLAHOMA!』

 13演目は、体力にも懐にもぐんと響きました。マチネーとの 2本立てはさすがに、もう体力的に無理かもなと感じさせられました。
 では、私ながらのミーハー的寸評をご覧ください。

『フォーティセカンド・ストリート』
 最初の夜ですし、軽いものをと思い、半額チケットで鑑賞する事にしました。
 今回はガワー・チャンピオン Gower Champion の土台を基に、バズビー・バークリー Busby Berkeley 風な味をプラスしたと感じました。 2000年風の洗練さを加えて、パワフルよりエレガンスに仕上げられているし、「Dames」の 2景は、鏡を多用してバークリー風にまとまって可。フィナーレには大階段を押し出してフォーメーションとユニゾンのタップの迫力を魅力的に見せている。
 でも、前回上演時のショックまでとは行かない所が残念。トム・ウォパット Tom Wopat の声は聞きものかな。

『プロデューサーズ』
 CDで雰囲気は勉強済みなので、すっと入り込め、これはもう大笑いで、隣席のご婦人と休憩にも話が弾みましたよ。
 ネイサン・レイン Nathan Lane の後を受けたブラッド・オスカー Brad Oscar は体躯も声もレーンそっくりで違和感なし、何せやはり土台がきちんと作られているので、キャストが変わってもまだ満員が続いてますね。
 スーザン・ストロマン Susan Stroman のアイデアと振付は、少しセルフパロディ的なところも細かく目が行き届いていて、身上の小粋さが感じられました。ワンシーンのため噴水まで上げてしまう凝り様と、セットの入れ替えこたえられませんな。エンジェル達をたらしこむシーンのアイデアは、さすがと手を打ってしまいます。
 ただ、底にナチズムへのユダヤ人の怨念が苦味となって残りますが、役者達がニギヤカにこなしてしまい、これも彼等の活力なのでしょうね。ブロードウェイには珍しく“メル・ブルックス Mel Brooks”の味でこれほど押しまくって大満足させてくれました。
 来年もう一度見たいと思います。

『フラワー・ドラム・ソング』
 ちょうど出たばかりのニューヨーク・タイムズの批評で「New Coat of Paint for Old Pagoda」と好意的だったので、さっそくチケットを購入。
 デイヴィッド・ヘンリー・ワング David Henry Hwang の脚本の書き換えが人物の配置とキャラクターを明確にし、西洋から見た東洋ではなく、五分五分の文化の対立としている。メイ・リーも単なる純なオボコから、自立する女に強くなっている。新旧の対立を 1960年代の桑港(サンフランシスコ)の京劇劇場として箱に入れ、ナンバーを上手に散りばめて行く。耳に懐かしいロジャース&ハマースタイン Richard Rogers & Oscar Hammerstein U の曲がきちんと活かされている。装置はチャイナタウンの門を 2階建てにして、バンドを 2階に上げる方法を取っている。演出・振付は東洋趣味を活かしながら、扇子をうまく使って、ダンサーの切れも良い。
 リア・サロンガ Lea Salonga の歌唱力・演技力は当然、ター役のホセ・ラーナ Jose Llana は体の線がきれいな上に、きちんと歌えるのが強味である。リンダ・ロウ役もダンスナンバーの中心として光る。フィナーレで東洋系の出演者達もアメリカンドリームの実践者として各自の出身地を名乗る。
 新しい皮袋で古い酒の香りが引き立った作品と思われます。

『ハリウッド・アームズ』
 キャロル・バーネット Carol Burnett が娘と一緒に自分の回想録をベースに脚本を書き、ハロルド・プリンス Harold Prince が演出したストレート・プレイ。10月31日がオープン日で、プレビューを見ました。半額チケットでボックス席。
 キャロル・バーネットの出自にからんだ祖母・母・彼女の女性 3代の葛藤を、キャロルの 10歳時とデビュー時の 20歳代を中心に切り取って、 2幕仕立てのビター・スウィートな仕上り。キャロルの母親のキャリア挫折とアル中への過程の中でドラマが発生する。人物のキャラがよく書き込まれているので、処女作とは思えない満腹感を与えてくれる。
 ストレート・プレイでも、プリンスの演出は空間の切り方、時間経過が判り易く、見せ場では観客の感情移入を自由に操作しているようである。
 一杯道具で 10年間を演じる役者達は、実力者揃いで、これから人気が出て来ると思う。
 祖母役がスター、リンダ・ラヴィン Linda Lavin で、母親役は準主役級であるが 2幕目の老けになるとリアルさで圧倒。キャロルの大人時代はドナ・リン・チャンプリン Donna Lynne Champlin で、これがキャロルの物まね芸の初登場シーンで場をさらってしまうし、シリアスな場面でも自然体で良し。

『イントゥ・ザ・ウッズ』
 ソンドハイム Stephen Sondheim の独特なメロデイラインがこなれていて、内容が良く判る。
 本の表装のセットから森への移行がスムースで見事である。ミルキー・ホワイト(牛)の造形と動作も笑わせるし、中味が女性だったとはフィナーレで明かされ驚く。バネッサ・ウィリアムス Vanessa Williams は自分の美しさを殺すのがうまく行って、変身の瞬間のイリュージョンを含めて楽しませる。歌唱力も可。
 お馴染みの話を組み合わせて、ハッピーエンドのその先を笑わせながら苦く落として行く、ソンドハイムなシニカルさが感じられるが、何故かマチネーで子供客が多く、これが判るのかしらとちらっと思ってしまう。

『ヴァンパイアの舞踏』
 今回の席は正面 4列目で、主役のマイケル・クロフォード Michael Crawford に手が届く場所。
 ヨーロッパ版で作品がこなれていて、無駄な遊びがない、かなりしっかりした土台の上に、大劇場の機構を活かしたスペクタクルが展開するゴシック・ミュージカルで、大掛かりなセットと人海戦術(皆揃ったダンサー・コーラス)で見せ場造りに懸命なのが、ひしひしと判り、遊びながら能力をいかに注ぎ込んだかが知れる。
 ポランスキー Roman Polanski の原作の力も大きく、今風な下ネタをさり気なく入れ込んで笑わせる。お話が単純な分、役者の力が験されるがマイクロ・クロフォードは仕掛けに負けない迫力で、まだ衰えを見せずに飛び回りガンバッテいる。
 装置と照明も変幻な効果を出しているが、装置はラスベガスの『EFX』の印象に似てしまうのが難点。楽曲的には、メロデイラインがオペレッタ的なのは判るが、耳に残らない。

『ムーヴィン・アウト』
 シノプシスは簡単なボーイ・ミーツ・ガールであるが、 60年代からベトナム戦争を挟んで、人生の追求と挫折と回復というドラマ仕立ての 2幕物のモダンバレエにして、各シチュエーションにビリー・ジョエル Billy Joel の楽曲をはめ込んだ構成となっている。
 トワイラ・サープ Twyla Tharp の振付・演出は根元にモダンバレエがあり、跳躍と停止、ほとんどのパドドゥ(男女が対で踊るバレエ)に困難なポーズと動きが働いて、瞬間の美を構築して行く。力強いダンサーの技術に支えられて、各シーンとも息が抜けない。
 主役の 4人、特に男性のエディ役はアメリカン・バレエ・シアターのプリンシパルも務めた凄いテクニックと美しさを合わせ持ち、ブレークダンスから跳躍・回転、何を取っても十分な力を発揮し魅力的である。リードボーカルのピアノマン役マイケル・カヴァナー Michael Cavanaugh も初々しく力強く、最後まで 1人で歌い抜く。
 トワイラの振付を慎重に再現するダンサー達が粒立っていて、ブロードウェイでの一級品である。

『ヘアスプレイ』
 1962年のボルティモアで主人公がオデブな普通の女の子という設定が、今までに想定されなかったシチュエ−ション。ミソッパさんの「異形の者からのプロテスト」という言葉どおり、苦味を薬味にした良く仕上がったミュージカル・コメディとして評価できます。
 ハーヴェイ・フィアスタイン Harvey Fierstein は登場しただけで場をさらってしまう。彼の作ではないが皮肉をこめたジュウィッシュ・マザーの台詞とスケッチで笑わせるし、またきちんと振付は守ってマジに神妙に務めているところが可笑しく、ベテランの余裕を感じさせる。
 旦那役ディック・ラテッサ Dick Latessa は『ウィル・ロジャース・フォリーズ THE WILL ROGERS FOLLIES』で実力は証明済み。夫婦で演じるカーテン前の趣向「Timeless to Me」は、じっくりと芸が味合えて絶品と云える。敵役のプロデューサーも顔馴染みと思ったら、ベット・ミドラー Bette Midler 版『ジプシー GYPSY』のマゼッパでした。
 知っている顔が活躍しているのも、また良いものですね。 60年代のメロディは自分の若い時分の思い出に重なり、また苦さが残るのは現在の年齢を突きつけられるからかとも思う。

『マ(ン)マ・ミーア!』
 アバ ABBA のヒットソングに合わせてストーリーを構成したのは目の付け所だが、一見、好都合に見えて、見せ場が平板になってしまい、どの曲も皆同じ印象を与えてしまうのが欠点である。ダンスもこれと云った切れと見せ場がなく盛り上がらない。スケッチが十分生かされていないし、コメディリリーフも仕所がないようである。
 最後のアンコールでのディスコスタイルにたどり着くまで時間が掛かり過ぎ、退屈する。ウィンター・ガーデンの機構を生かす工夫も足りないし、音もただ大きいだけで前の席の人は避難してしまった。ヴァンパイアの登場シーンのような、効果的な音響の効果にもかなわない出来で、単なる騒音である。
 『イントゥ・ザ・ウッズ』の趣味の良さと比較すると、何ともガサツな印象である。

『モダン・ミリー』
 映画からテーマ曲と「Jimmy」だけをいただいて、後はすべて新曲とした構成であるが、これが案外いける。映画の面白さも残っているし、ミセス・ミアーズの人身売買を中国語のサブタイトルと云う手で旨く切り抜けているし、ユーモアも湧いて来る。
 ミリー役のサットン・フォスター Sutton Foster が役の性根をつかんで力演であり、動きもシャープ、演技も型だけに収まらず、奔放な感じとイノセントが奇妙に調和していて良い出来である。装置のエレベータの中のタップが 2回だけなのは残念。ミセス・ミアーズは下品になりそうな所を、ブロードウェイを目指したコーラスの成れの果てという設定なので、敵役としても憎めないキャラで、コメディリリーフとしては成功している。
 振付も 20年代のチャールストンにこだわらず、 21世紀の味付けで小粋さがあり、やはりブロードウェイの伝統の方が英国製より“ペップ”を感じさせるのかと思う。

『ユーリンタウン』
 架空の街で水不足のため公衆トイレを有料化するという状況の中へ、支配層と被支配層の間の「ロミオとジュリエット」を設定し展開する。いろいろなミュージカルをパロディ化。ボードビルの伝統的なショーアップの手法で、小さな張り出し舞台も活用して、小劇場ならではの細かいダンスアクトと歌唱力をきちんと見せてくれる。
 警察署長役が狂言回しを演じるが、イカついキャラが音楽に乗ると、ソフトなバリトンとダンスで笑わせる。ゴスペルのパロディで唄も十分聞かせるし、役者達の層の厚さが強く感じられる。高年齢の支配層の役者達も良く動いている。
 ダンスはジェローム・ロビンス Jerome Robbins のパロディが多いが、けっこう困難な振りをキャラ別に各ダンサーが上手に踊り込んで来る。フィナーレはコサックダンスでジェローム・ロビンズへのオマージュとして笑わせ喜ばせてくれる。
 ただ、劇場に吹き込む隙間風で足元が寒かった。役者達が出入りする通路側だったものでしたから。

『海賊』
 メトロポリタン・オペラで、とにかくルネ・フレミング Renee Fleming の生が観たいばかりで、日曜日のマチネーに駆けつけました。理屈無しにグランドオペラを楽しめば良いのでしょうと、開き直って楽しみました。
 装置はメトらしく額縁の中にさらに額縁を入れ子にして、 17世紀のシシリーの城砦の雰囲気を作り、衣装も絢爛豪華。後はルネの歌声を楽しめば言う事なし、なのですが、やはり何ともお話の古めかしさと、ヒロインが事の解決に当たって、終末には必ず「気絶」して終わると云う趣向・演出は何ともならないお約束事なので仕方がないのでしょうね。
 贅沢なコーラスの人海戦術は毎度の事ながら、ここまでやるかと云う思いですが、満員の客席にも驚かされました。

『オクラホマ!』
 tktsで 50ドルで正面席 5列目。
 ミュージカルの原点リヴァイヴァルは『ショウ・ボート SHOW BOAT』で終わりかと思っていたら、今回も英国発でしたね。
 どういじろうにも脚本構成は周知のものであり、古めかしさは拭えないが、ジャトの横恋慕を克明に描写していて、いささか軽い味とは云えない風味となっている。
 スーザンの振付はアグネス・デミルを全部振り落とす所から出発していて、どちらかと云えばフォークロア的なものにアクロバチックな彼女の味を添加したもので、役者達はさすが良く動くし、歌えるが、ローリーはちょい個性が強すぎてラテン系過ぎる。カーリー役は唄もダンスも可。ジャド役は粘っこい演じ方で存在を大きくしている。ローリーの夢のシーンのバレエはやはり一幕物の貫禄はあるが、スタンディング・オベーションにはならなかった。

 これからの作品として『ラ・ボエーム LA BOHEME』がバズ・ラーマン Baz Luhrmann の演出で桑港のカレン劇場でトライアウト中との事。ロス・タイムスに舞台写真が載っていましたが、舞台一杯にパリの町並みを建て込んでいて、どんな風にプッチーニ Giacomo Puccini の楽曲を生かすのか、興味があります。今年最後の大物として 12月に登場するのが期待されるところですね。
 では、来年を楽しみに体調維持に励んで、夢を実現させるよう努力します

 読ませていただいて、今週末に観る予定の『フラワー・ドラム・ソング』『ムーヴィン・アウト』が楽しみになりました。ミュージカルではないものの、キャロル・バーネット好きとしては、『ハリウッド・アームズ』も観たいですねえ。次々回渡米の 1月までもつでしょうか。
 山本さんのリポート、みなさんも観劇の参考になさってください。

 山本さん、ありがとうございました。

(11/20/2002)

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