それぞれの人生それぞれのゲキもは!

ENO さんの場合

 昨年、突然、11月初めの一週間ほどの仕事が空いて(というか、ホサれて)、「一人で旅行でもしたらァ」との女房からの「アドバイス」もいただいたので、結局、ニューヨークで「にわかゲキもは」してきました。
 「エイビーロード」を見ながら策を巡らしていて、ふと思い浮かんだのが、新婚旅行先のロサンゼルスでたまたま観たミュージカル『シティ・オブ・エンジェルズ』。四季や東宝の「翻訳公演」はそこそこ観ていたのですが、アレらはいったい何だったんだろうと、女房とふたり、唖然・呆然としてしまいました。そんなわけで、その後、日本ではミュージカルから足が遠のいていました。
 で、にわかに「マンハッタンでアート三昧!」となったわけです。

  • 11月 6日(金)
     午後 8時 オペラ『アイーダ』メトロポリタン歌劇場
     (Mostly Mozartといった感じで、今は、子育ての合間をかいくぐって、主にクラシックのコンサートに足を運んでいるので、ニューヨークに行く以上、ここには来たかった。『アイーダ』は、あまり興味なかったのですが。ところで、次のディズニー・ミュージカルは、アイーダのようですね。)
  • 11月 7日(土)
     午前 アメリカ自然史博物館
     (子供の土産に恐竜グッズを買うため)
     午後 2時『タイタニック』
     午後 8時『シカゴ』
  • 11月 8日(日)
     午前 ニューヨーク近代美術館
     (ピカソの「アビニョンの娘たち」が見たくて)
     午後 3時『ノイズ/ファンク』
     午後 7時『レント』

 職場のインターネットで(こそこそ)情報をかきあつめ、ずらりと並んだミュージカルから、まず「地元アメリカ産」を優先して、『オペラ座の怪人』『レ・ミゼラブル』をはずしました。そしてディズニーものも、はずすことにしました。少年時代、熱狂的な手塚治虫ファンだった私としては、映画『ライオン・キング』でのディズニーの態度には、どーしても釈然としない所があるのです(もっとも、『ライオン・キング』のチケットは御存知のとおり手に入るわけもなかったのですが)。そして、手に入りにくいと評判の、『レント』『シカゴ』『キャバレー』を、しどろもどろの英語で電話してチケットをとりました。

 とにかく良かったのが、『シカゴ』『ノイズ/ファンク』
 『シカゴ』を観て、酔狂どころか、本当に来て良かった。そう思って感激冷めやらずホテルに返ってくると、電話にメッセージが残ってました。翌日の『キャバレー』の公演はキャンセル、ついては、他の日に振り替えるか、払い戻しにするか、連絡乞うとのこと。どなたかが「ゲキもは」で、なんで日本から行くのにアメリカ国内の連絡先なんか聞かれるんだとおっしゃってましたが、こういうワケなんですね。
 振り替えなんか出来るはずもないので、当然キャンセルすることにして、さて、貴重な明日の午後はどうしよう? その時思い出したのが、あ、MISOPPA さんが、『ノイズ/ファンク』をどこかで推してたな、ということでした。『キャバレー』はアラン・カミングも降板していたので、結果として、『ノイズ/ファンク』が観られて、良かったと思います。
 ブロードウエイで初めてミュージカルを観て感じたのは、役者やスタッフの、妥協なしの真剣さが生み出す、快い緊張感でした。観客の多くもまた、いい意味で高い要求を持って観にきているので、『シカゴ』『ノイズ/ファンク』、とくに後者では、客がばんばん拍手や喝采で舞台を盛り上げていき、役者が的確にそれに答えて、観劇って、こんな楽しい、幸福な「出来事」だったんだと思い直しました。この二つの舞台、甲乙つけがたく、また、つける必要もないのですが、私には、『シカゴ』のウテ・レンパーが、その役柄と彼女自身の存在感が一体化していて、圧倒的でした。

 『タイタニック』は、多少英語が分からなくても話が分からないわけはないからという安心感(?)と、ロゴ入りTシャツが、ちょっと面白い土産になるかな(つまり、え?タイタニックってミュージカルもあるの?という反応を期待しての)という不純な(?)動機で選びました。何といっても舞台装置が見所ですが、私の場合、前日に METの十八番『アイーダ』の、これでもかという超豪華な、そしてけして成金趣味でない美しいステージを観たばかりだったので、正直言って拍子抜けでした。
 オペラついでに言っておくと、四季の『オペラ座の怪人』を観て感じたのは、ファンの方には申し訳ないのですが、「こんなオペラまがい」というものでした。映画『ジーザス・クライスト・スーパー・スター』を高校生の時に見たのが、私がミュージカルに惹かれるようになったきっかけなのですが、そう思って観てみると、『キャッツ』にしても、ロイド・ウェバーのミュージカルには、どこかクラシック音楽へのコンプレックスが匂っているように感じられるのですが。同じロンドン勢の『レ・ミゼラブル』にも同様の「匂い」が感じられて、今回、ロンドンものをはずしたのは、実は、そういった理由もあります。(MISOPPA さんも指摘していましたが)特に『レ・ミゼラブル』などは、日本の役者のほとんど「無調音階」のような歌で演られると、もう見るも無惨な「オペラまがい」になってしまって、おまけに、作曲者の名前がシェーンベルクじゃ、シャレにもならない。いったい、この不快感は、作品そのものから来るのか、それとも日本の役者の責任なのか………。
 そんなこんなで、日本ではミュージカルからすっかり遠ざかっていたのですが、『シカゴ』『ノイズ/ファンク』を観て、そうだよ、そうだよ、ミュージカルは、これでなくっちゃ、とすっかりうれしくなりました。
 話を『タイタニック』にもどすと、二幕の中途で「照明に問題が生じました」のアナウンスがあって 10分ほど芝居がとまってしまうという間抜けなハプニングがあったりして、印象が薄くなってしまいましたが、帰国後、CDを聴いて、ブロードウェイで観た時の感激(序曲が鳴った時、体がふるえました)を新たにしました。中には、聴いていて涙ぐんでしまいそうな曲もあって、ひょっとしたら、このミュージカル、実際に舞台を観るよりもCDを聴いている方が感動的なのかな、と思ったりもしました。
 皮肉はさておき、素晴らしい音楽を改めて聴きながら、タイタニックが目指した地ニューヨークでこのミュージカルを観るというのは、やはり格別のものがあるなアという、当日抱いた感慨もまたよみがえってきました。回りの客の、その先祖の多くは、タイタニックを含めた無数の船で、ここアメリカにやってきたのですから。批評家の評判の芳しくない、このミュージカルの人気も、そんな所にあるのではないでしょうか。

 『レント』も、その舞台であるニューヨークで観るということに、やはり格別の感慨がありました。冬の初めとも思えない暖かさだった日本からやってくると、ひとり旅のニューヨークはしみじみと寒く、舞台上も、また、寒々とした冬のニューヨーク。その谷底でもがく彼や彼女たちの話。ブルース・スプリングスティーンがおとなしくなって以来、久しぶりに、ストレートに心に響くロックを聴くなと思い、明日はもう日本に帰るのかという感傷も混じって、すっかり舞台にひきこまれて観ていました。
 自分自身は、もう、彼らよりも、タイタニックの船上で息子に「心配ないから」と別れを言う父親の姿に、ほろりとさせられてしまう歳になっていて、自分の過去を反芻する感じなのが残念。でも、そういうことを、ありありと思い出させる力が、この音楽にはある。当日は、ほとんど代役の人が演じていましたが、その懸命な様子が必死に生きる登場人物たちと重なって、熱っぽい舞台になっていたように思います。
 舞台がはねてホテルまでの返り道、夜のマンハッタンは、既にところどころクリスマスのデコレーションが施され、寒さに震えながら(ニューヨークの寒さをナメて、けっこう薄着だったんです)きらきら光るツリーを眺めていると、そこに今見たばかりの『レント』の舞台や歌が重なり、本当に来て良かったと改めて思いました。

 次にこんな機会が訪れるのは、いったい何時になるか分かりませんが、とりあえず、一人異国で「アート三昧」してきた罪滅ぼしにと、『シカゴ』の来日公演の、女房と私、二人分のチケットを早々に購入しました。

 ENO さんのブロードウェイ初体験記を読んで僕がいちばん感動したのは、奥様の「一人で旅行でもしたらァ」のひと言です(笑)。
 既婚の海外「ゲキもは」者にとって、連れ合いをどうするか、は最大の悩みの 1つではないでしょうか(想像。笑)。だからこそ僕は、国内で充実したミュージカルが観られる日が 1日も早く来ることを願ってやまないのであります(けっこう本気)。
 日本の劇場にカップルが少ないのは、習慣の違いとか開演時間の問題とかいろいろありますが、根本的にはパートナーを誘って行くに足る舞台が少ないからじゃないでしょうか。

 『シカゴ』の来日公演は、連れだって出かけられる数少ない機会です。ENO さんに倣って、みなさんお試しあれ。

 ENO さん、ありがとうございました。

(2/1/1999)

Copyright ©1999 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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