それぞれの人生それぞれのゲキもは!

郁さんの場合

●その1:1994年秋 『パッション PASSION』

 マチネに『パッション』を観る土曜日。午前中知り合いの家に遊びに行き、ぎりぎりの時間にチケットを取りにホテルに帰ってきました。
 チケットをジャケットのポケットに入れ、トイレに行き、部屋を出ようとして何気なくポケットに手を入れると、チケットが入っていない! どこへ行ってしまったのだ! さっき自分で劇場を確認し、スーツケースからチケットを出したのに。
 あらゆるポケットに手を突っ込んだけれども入っていない! bath room を探してみても、ない! そんな! 諦めるのか?! しかし $55あまり(確か)のチケットをそう簡単には諦められない!!
 そう思って、もう一度隅から隅まで探すと……なぜかチケットはトイレの便器の中に浮いていました……。
 どうしよう、今から乾かしている時間なんてない。しかもこんなチケット出すのが恥ずかしい……。でも $55! タオルでたたき、床に転がっていた友達のドライヤーで熱風を当てたものの、乾くまで待っていられない! ショーは始まってしまう! 結局、びしょびしょにぬれたチケットを再びポケットに押し込み、劇場までの数ブロックを、人混みを掻き分け、ものすごい勢いで走ったのです。
 “早く早く! 始まっちゃうよ!”と手招きしてくれている入口の人。が、私の差し出したビショビショのチケットに目が点。
 でも、これは確かにチケット! ということで、“Ooooh, this is wet!”と叫びながら、苦労して半券を切ってくれたのでした。そして私はと言えば、恥ずかしさで下を向いたまま“Sorry......”と呟き、中へ消えていったのでした。

●その 2:1997年秋 『ザ・ライフ THE LIFE』

 『ザ・ライフ』も土曜日のマチネでした。
 朝、友達と 3人で China Town へ飲茶に行ったのですが、もう時間がない! と気づいて地下鉄の駅に走り、慌てて乗ろうとしたその時、友達 2人が乗り込んだ車両のドアが、私の目の前で閉まってしまいました。取り残された私は次の電車に乗り、 2人を追います。
 次の駅で待っていてくれているかも、と思いましたが 2人は見あたらず、電車を降りて探すほどの時間もなかったので、そのまま劇場の最寄り駅へと向かいました。しかし、その駅にも 2人はいません。もしかして劇場に行っているかも、と思い、走って行ってみると、すでにショーは始まっていて、友達はいない!
 どこへ行ってしまったのだ!? しかもチケット 3枚は私が持っている! 待っていても来るかどうか分からない! 私はショーが観たい! と凄まじい勢いで考えたあげく、入口のおじさまに事情を説明し、“2 JAPANESE GIRLS”がやってくるからということを強調してから box office に 2枚のチケットを預け、私は中に入ってしまいました。
 果たして彼女たちは劇場の場所が分かるだろうか( 1人はミュージカルを見るということしか分かっていない。もう 1人は『ザ・ライフ』というタイトルだけは知っている)。劇場にたどり着いたとしてもチケットを預けてある事が分かるだろうか。でも、おじさまに JAPANESE!!! と強調しておいたから、彼女たちが劇場の前でモソモソしていれば気づいてくれるだろう。だけど……。などと客席に着いてからも隣の 2つの空席を横目に考えていました。
 しかし! 彼女たちはやってきた!
 『ザ・ライフ』の看板を偶然見つけ、それを目指して走り、苦手な英語をしゃべる代わりにガイドブックのカバーの余白に、“私たちの友達が中にいる!”という内容の凄まじいメッセージを書き、入口のおじさまの目の前に、その表紙を突き出したらしい。
 私は intermission にストーリーを解説してあげることで彼女たちに謝ったのでした。

●その 3:1998年春 『ライオン・キング THE LION KING』

 『ライオン・キング』が開幕して間もない頃、TIME 誌に劇評が載りました。縫いぐるみを着た役者達が舞台を駆け回るのかと幻滅していた私は、その記事の中の写真を見て“これは絶対に見なくっちゃ!”と心を変えました。
 そして年末、翌年(つまり今年)の業務日程カレンダーをもらって GW に大型の休みがある事を確認し、その日のうちに N.Y. に住んでいた友達に頼んで 5か月近く先のチケットをゲットしたのでした。
 他のショーも予約し、送られてきた『ライオン・キング』のチケットを眺めてワクワクしていた 4月下旬のある日のことです。ミーティングに出た私は突如先輩から、 GW に仕事をすることは出来ないかと聞かれ、絶句しました。
 私の旅行計画を察知していた先輩は、予定があるなら無理しなくてもいいよ、と言ってくれましたが、その仕事は我がグループの今年 2つある大仕事のうちの 1つであり、また、日本人から、“いいよ、無理しなくて”と言われてもその言葉を素直に受け取る事ができなかった私は、泣く泣く出発 1週間前に旅行をキャンセルしたのでした。アメリカ人や中国人に、“いいよ、行っておいで”と言われたのなら、きっと喜んで飛び立ってしまったのでしょうが、日本人魂(?)のある私のこと、涙を呑んで『ライオン・キング』を諦めたのです。
 さて、自分が行けないのはともかく、 $75 もしたチケットはもったいない。お金がどうこうというより、そう簡単に取れない貴重な『ライオン・キング』のチケットが紙屑になるかもしれない。私が座るはずだった席が 1つだけ空席になる! そう思うととても悲しく、 N.Y. にいる友達に勧めたり、社内で GW に N.Y. に行く人がいないかと血眼で探し回ったりしたのですが、受け取ってくれる人が見つからず、チケットはとうとうゴミとなってしまったのでした。

 郁さん、お説教してもいいですか(笑)。
 その 1。観劇前は余裕を持って劇場に向かうこと。
 その 2。当日のチケットは、その日ホテルを出る時に絶対に落とさない場所に身につけておくこと。
 これ、「ゲキもは」者の鉄則です。
 もう 1つ付け加えるとすれば、寝過ごさないこと(ハーイ。笑)。

 それにしても『ライオン・キング』のチケットはもったいなかったですねえ。僕なら迷わず仕事を蹴りますが(笑)。でも、『パッション』のチケットなら僕も仕事を取ります。過去、唯一途中で帰りたくなったブロードウェイ・ミュージカルが『パッション』だったんです。
 ところで郁さんは、帰国子女? あるいは、お勤め先が外資系? なんか、そんな雰囲気のお話に思えました。
 今度『ライオン・キング』のチケットが不要になった時は、すぐにご連絡ください。即、引き取って N.Y. へ飛びます(笑)。

 郁さん、ありがとうございました。

(8/20/1998)

Copyright ©1998 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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