[ゆけむり通信Vol.45]

11/11/2001
『イレイン・ストリッチ/アット・リバティ Elaine Stritch/AT LIBERTY』


ワン&オンリーの伝説的“現役”女優

 イレイン・ストリッチ。
 彼女がブロードウェイの伝説的スターだということは、生で初めて観た時にすでに知っていた、と、こちらに書いた。が、今回のステージを観て思い知ったね、自分の知っていたことが伝説のホンの片鱗にすぎなかったことを。
 例えば、若い頃、『コール・ミー・マダム CALL ME MADAM』でエセル・マーマン Ethel Merman の代役をやってた(これだけでも、すごいけど)時の話。
 ブロードウェイでマーマンの代役をやっていたストリッチは、同時期にニューへヴンのシューバート劇場の舞台に立ってもいた。役者たちは、いつどの仕事に就けるかわからないから、どんどんオーディションを受けるわけで、場合によってはダブル・ブッキングになる。そんな時、普通の役者ならどちらかを選ぶのだけれど、ストリッチはこう考える。「開演前にマーマンが無事楽屋入りするのを確認してから愛車の MGを飛ばせば、マンハッタンからニューヘヴンまで○○分でたどり着ける!」そして両方をとったわけだ。休演日以外毎日、ハドソン川を越えて猛スピードで行ったり来たりする、忙しいけれども充実した生活を続けるストリッチ(小型のオープンカーで疾走する若き日の姿。想像するだけでシビレる)。
 ところが、好事魔多し。 1952年、記録的なブリザードがやって来る。途方に暮れるストリッチ。さあ、どうする。
 最終的にストリッチは、ニューへヴンの劇場の袖で「ついに自分の出番だ」と期待に胸ふくらませていた自分の代役(がもちろんいるわけです)をがっかりさせることになるのだが(そのことを話す時の“してやったり”といううれしそうな顔!)、詳しい事情はオンの引越し公演(@ニール・サイモン劇場 2月 6日〜5月 26日)でご確認あれ。

 ワン・パースン・ショウ『イレイン・ストリッチ/アット・リバティ』は、そんな知られざるエピソードと所縁(ゆかり)の歌とで綴る、女優イレイン・ストリッチの一代記。
 中央で分かれた赤い幕は中程から左右に引き上げられ「ハ」の字に開く。床と壁はむき出しのまま。そこに 1人現れるストリッチは、トレードマークのタイツ姿。セットと呼べるのはシンプルなイスだけ。
 そのイスに掛けたり、寄りかかったり、イスをどかして 1人で立ったりしながら、不機嫌そうに話をし、 1曲歌うと、その辺りをグルッと(時にはイスを抱えて)ひと周りして中央に戻り、また不機嫌そうに次の話を始める。ただ、それだけの舞台。この素っ気ない感じを、ジョージ・C・ウルフ George C. Wolfe らしいザックリした演出と見るか、ストリッチがそこにいれば特別な演出はいらないという判断と見るかは意見の分かれるところかもしれないが、結果的には、自分の人生を舞台上で語るという虚実皮膜の極とも言えるパフォーマンスに、これまた無作為だか作為だかわからない真実味を与えている。
 ここでひとつお断りを入れておくと、“不機嫌そう”というのはストリッチのいつもの表情。僕の記憶に間違いがなければ、このステージで彼女は最初から最後まで 1度も笑わなかった。自分がジョークを言って観客が大笑いした時にも。

 そんな風に、言ってみれば淡々と語られる彼女の人生は、語り口とは裏腹に波瀾がいっぱい。浮き沈みの激しいこと。それもこれも、冒頭に紹介したエピソードからもわかるように、そのアグレッシヴな生き方ゆえ、という気がする。イレイン・ストリッチがどんな魅力を持つ女優なのかということを全く説明しないで来たが(笑)、予備知識なしでこの舞台を観たとしても、ストリッチがアグレッシヴな生き方をしてきている人だということだけは少なくともわかるはず。あ、声が個性的だってこともわかるか(笑)。歌がうまいってことも。
 最後にもう 1つ、今回の舞台で披露された、彼女のアグレッシヴさを示す、やはり若い頃の、ちょっと笑えるエピソードを紹介して観劇記を締めよう(細かい部分の記憶は怪しいです)。
 ストリッチが初めてブロードウェイのショウに出ることが決まった日。喜んでお母さんに電話したら、「で、何を歌うの?」と訊き返される。せっかくショウに出るのに歌わないなんて、と言われたストリッチ。ただ後ろで踊ってるだけの端役だったのにもかかわらず、早速プロデューサーに掛け合う。そしてホントに歌をもらってしまうのだ。
 やっぱり、こうでないとスターにはなれないんだろうな。
 もちろん、その時の歌もちゃんと聴かせてくれる。オリジナルの振付で。笑えます。

(1/31/2002)

 ちょいと情報追加。
 その後、この公演を“完全録音”した 2枚組の CDが登場した。
 この観劇記を書いたパブリック・シアター内ニューマン劇場でのライヴ録音で、収録したのは最終公演直前の 1月 10日から 12日までの舞台。たくさん録っておいて、いいところを選んで編集したのだろう。
 “完全録音”なので、上記のエピソードももちろん出てくる。聞き直したが、間違ってなかったようで、ひと安心(笑)。
 とりあえず、ヒアリングに自信のない方は、予習にも使えますね。ニール・サイモン劇場での公演は 5月 26日まで。ぜひどうぞ。
 あ、もちろん、ご覧になる予定のない方も一聴の価値ありです。

(4/20/2002)

Copyright ©2002 MIZUGUCHI‘Misoppa’ Masahiro

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