[ゆけむり通信Vol.34 & 42 & 43]

5/8/1999
『シカゴ CHICAGO』
2/10/2001
『シカゴ CHICAGO』
4/10/2001
『フォッシー FOSSE』


ビビのクールなダンサー魂

 ※過去の『シカゴ』の観劇記は、 1 2 3 4 5 6 7、で、
 『フォッシー』の観劇記は、 1 2 3、でお読みください。

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 99年 5月の『シカゴ』は、カレン・ジエンバ Karen Ziemba のロキシーの見納めだった。
 『シカゴ』を去った彼女は、この年の秋、ミッツィ・E・ニューハウスで限定公演の幕を開ける『コンタクト CONTACT』に出演して結局トニー賞を獲ることになるわけだが、『シカゴ』でのジエンバは、すでに『スティール・ピア STEEL PIER』でオリジナル・ブロードウェイ・キャストの主演を経験していたにもかかわらず、ツアー・カンパニーからスタートし、 3人目のロキシーとしてブロードウェイ入りするという経緯もあってか、イマひとつ正当な評価を得ていなかったような気がする。例えば、ロンドンのオリジナル・キャストにすぎない――と言っては失礼か、ともあれミュージカル女優としての力量がジエンバに勝るとは思えない――ウテ・レンパー Ute Lemper が鳴り物入りで(ブロードウェイに大看板が出た)ブロードウェイに迎えられたのに比べると。
 しかし、ダンスにやや難のあった メリル・ヘナー Marilu Henner からロキシー役を引き継ぎ、ヴェルマ役ビビ・ニューワース Bebe Neuwirth と五分に渡り合って、質的に苦しくなりかけた『シカゴ』の舞台を再び盛り上げたのは紛れもなくジエンバであり、オリジナル主役の 1人として最後まで残ったニューワースが去った後も、さらにその後を受けたレンパーが降板した後も出演し続けた、その功績はけっして小さくない(そのあり方は、 2代目ヒロインとして最後まで踊り続けた『クレイジー・フォー・ユー CRAZY FOR YOU』の時のよう)。
 さて、99年 5月、ジエンバ以外の主要キャストは次の通り。ヴェルマ=ナンシー・ヘス Nancy Hess、ビリー・フリン=ブレント・バレット Brent Barrett、エイモス・ハート=P・J・ベンジャミン P.J.Benjamin、ママ・モートン=メイミ・ダンカン・ギブズ Mamie Duncan-Gibbs、メアリー・サンシャイン=R・ビーン R. Bean。
 前回新たに加わっていたビリー・フリン役とメアリー・サンシャイン役以外が全員交替。観劇後のメモに、「ヴェルマの演技が派手に(野暮ったく)なり、そのダンスの技術に問題がある」ことと、「ママ・モートンが貫禄不足である」ことが書かれている。もっとも、そうした不満は、“最高だった頃に比べると”という注釈つきのものではあるが、ヴェルマ役ナンシー・ヘスがロングラン開始時以来のヴェルマ&ロキシー両役のスタンバイであり、ダンカン・ギブズが元々は女囚の 1人を演じるアンサンブルのキャスト兼ヴェルマやママ・モートンのアンダースタディだったことを思えば、この頃かなりキャスティングに苦労していたことがわかる。
 とにもかくにも、そうした時期の看板役者として使命を全うしたジエンバに、改めて拍手。

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 それから約 1年 9か月の間ご無沙汰した『シカゴ』を今年 2月に再び観たのは、ちょうどビビ・ニューワースが復帰していたから。
 ニューワースのヴェルマを観るのは、 98年 9月 28日のこの特別公演以来。正規の舞台で言えば同じ年の 6月 13日以来だから、実に 2年 9か月ぶりになる。

 [このリヴァイヴァル『シカゴ』のような 10年に 1本ともいうべき舞台の場合、その充実度が非常に高い分、ちょっとしたバランスの乱れで並のヒット作程度の印象になってしまうということだ。それでも実は、けっこうよく出来た舞台なのだが、最初の凄みを知っていると物足りなさを感じてしまう。
 特に『シカゴ』は、役者に関しては、主役 4人の個性と技が傑出していて、なおかつアンサンブルのダンサーたちのレヴェルも高いという、個人芸の集成のような舞台だったから、それを維持していくのは大変なことだろうとは思っていた。]

 98年 3月 21日分の観劇記からの引用だが、僕が『シカゴ』のキャストにことさらこだわるのは、そんな理由からだ。
 01年 2月 10日の主要キャストは次の通り。ロキシー=ベル・キャラウェイ Belle Calaway、ヴェルマ=ビビ・ニューワース、ビリー・フリン=クラーク・ピーターズ Clarke Peters、エイモス・ハート=P・J・ベンジャミン、ママ・モートン=マーシャ・ルウィス Marcia Lewis、メアリー・サンシャイン=R・ビーン。
 ニューワースの他にオリジナル・ママ・モートンのルウィスも復帰(と言うか、もしかしたら彼女の場合は一時的に抜けていたというニュアンスなのかもしれないが)。最初に舞台袖で客席に向かって挨拶する役のジョン・ミネオ John Mineo も戻っていたりして、印象としてオリジナル度が高い。
 実際には、この日、舞台に立っていたオリジナル・キャストは、以上の 3人に加えて、マイケル・クバラ Michael Kubala、メイミ・ダンカン・ギブズ(本来の女囚役に復帰)、ジム・ボーステルマン Jim Borstelmann、デイヴィッド・ウォーレン・ギブソン David Warren-Gibson、それにブロードウェイ開幕時はアンダースタディだったミシェル・ロビンソン Michelle Robinson の計 8人。舞台に上がるのが 19人だから、開幕後 4年以上経っている作品にしては多い方だろう。こうして“なじみの顔ぶれ”を再び集めたのは、やはり、ある種の“引き締め”をねらってのことなのだと思うが、結果は、戻ってきた主要キャスト 2人を中心にとてもバランスがよく、(既視感も手伝ってはいるにしろ)安心して観ていられる確かな舞台に仕上がっていた。

 が、そうした“オリジナル・キャストのありがたさ”以上に、今回はビビ・ニューワースの力を再認識した。
 [この人の魅力が今一つわからない] とニューワースについて書いたのは 96年 5月 4日シティ・センターでの観劇記(このサイト開設以前のプリントアウト・リポート)でだが、僕に見る目がなかったってことがあるにしても、彼女も『シカゴ』の舞台を経て一皮むけたのではないだろうか。それ以前に観たニューワースの舞台は、リヴァイヴァルの『くたばれ!ヤンキース DAMN YANKEES』だけだが(その前に彼女はリヴァイヴァル版『スウィート・チャリティ SWEET CHARITY』でトニー賞を獲ってもいたわけだが)、彼女の演じるローラは――漠然とした言い方で悪いが――決め手に欠けた。うまいダンサーではあるのだが、何か迫ってくるものがなかった。そのイメージは、初めて『シカゴ』を観た時にも変わらなかった。
 が……。おそらくニューワースにとっても最高のヒット作であるに違いないリヴァイヴァル版『シカゴ』の屋台骨を背負うことで、彼女の中に何かが生まれたのだと思う。最近の彼女は明らかに“超”のつく一流のレヴェルに足を踏み入れている。
 そんなニューワースの話を次の『フォッシー』のところでするのだが、その前に……。

 この回のロキシー役ベル・キャラウェイは来日公演のロキシー役者。巡り巡ってのブロードウェイ登場だが、あの来日公演の時に感じた彼女のうまさはブロードウェイの舞台でも立派に映え、ニューワースの向こうを張って見劣りしなかったことを報告しておく。
 それから、役者の質のレヴェルはけっこう維持されているものの、観客の質はかなり変化していて、受けるところが開幕当初とはずいぶん違ってきていることも書き添えておく。

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 2月に半分だけ観た(笑)“ベン・ヴェリーン Ben Vereen 参加版”の後を受けて、演出家でもあるアン・ラインキング Ann Reinking が登場、さらに、一時的に復帰していた隣の『シカゴ』から、ビビ・ニューワースも加わって、いよいよ背水の陣の様相を呈してきた『フォッシー』。その、ラインキング&ニューワースの限定版を、ノースウェスト 17便謎の欠航の恩恵を利用して、観た。
 が、ラインキングは休場。それでがっかりかと言うと、そんなことはなくて、ニューワースのおかげでビシッと締まった充実の舞台を堪能した。

 前回の観劇記で、ヴェリーンの存在に疑問を呈して、僕はこう書いた。

 [元々、『フォッシー』という舞台は、スターの存在で客を呼ぶというような成り立ち方をしていないのだ。
 たとえスターであっても、アンサンブルの一員として、そのダンスや歌=芸の力、それに輝く個性までもを、フォッシーの難易度の高いダンス・ナンバーを際立たせるためにだけ発揮して初めて、存在が許される。それが『フォッシー』のユニークさであり、素晴らしさでもある。]

 そして驚いたことに、今回『フォッシー』に出演したニューワースは、文字通り、 [スターであ] りながら [アンサンブルの一員として、そのダンスや歌=芸の力、それに輝く個性までもを、フォッシーの難易度の高いダンス・ナンバーを際立たせるためにだけ発揮して] いたのだ。

 ちなみに、この日ニューワースが演じていたのは、次のシーン。

 開幕早々の [“フォッシー・スタイル”のダンスの断片をモンタージュ的に並べてみせる夢幻的なナンバー] 「Fosse's World」。第 1幕終盤のつなぎのデュオ・ダンス「Walking the Cat」。(開幕直後の『くたばれ!ヤンキース』のコミカルな野球ダンスがカットされた)第 2幕の、男性 2人を従えた「Steam Heat」。同じく第 2幕の、こちらは半ばすぎに登場するスパニッシュ風味の、やはり男性 2人を従えた「Cool Hand Luke」。第 3幕終盤の、今度は女性ダンサー 2人とのナンバー「There'll Be Some Changes Made」。

 ハイライトである「Steam Heat」を含めて、いずれもアンサンブル的なナンバーだ。もちろん、ニューワースはスターであるから、例えば「Fosse's World」では彼女だけが白手袋+白い足首という特別な装いだったりはするが、前回ベン・ヴェリーンが演じたメインどころの役はアン・ラインキングが演じることになっていたので(男女の違いがあるので、半分はオリジナル・キャスト、ユージン・フレミング Eugene Fleming が復帰して演じていたが)、ニューワースの印象はあくまでストイックなアンサンブル。しかし、自信に裏打ちされた存在感と確かな芸(技術)の力が、全体のバランスを崩すことなく出演シーンのレヴェルをワンランク引き上げる。
 一流のスターがストイックにアンサンブルを演じる舞台。観る者にとって、これ以上ぜいたくなことがあるだろうか。あるかもしれないが(笑)、とにかく淡々と難易度の高いダンスをこなしていくニューワースが、クールでかっこいい。
 あの、見た目にも派手で難易度の高い「Steam Heat」の完璧さはもちろん、ゆったりとしたペースで微妙なバランスをとりつつ 3人が見事にシンクロした動きを見せる「Cool Hand Luke」の優雅な身のこなしは、やはり彼女がスペシャルであることを雄弁に物語っていた。
 ここに到って、鈍感な僕もついに、ダンサー魂に満ちたビビ・ニューワースの魅力を思い知りました。

 そうしたニューワースの活躍などもあって、一時的には客足が戻ったかのように見えた『フォッシー』だが、残念ながらクローズを発表。当初は 9月上旬までの予定だったが、その後 8月 25日を最終日とすることになったようだ。
 まあ、わかりやすい物語性がないこと、観客にもある種の緊張を強いること、など観光客受けしにくい要素が多かったことを考えれば、予想以上にロングランしたと言えるかもしれない。それに、ロングランの長さと内容的な素晴らしさとが比例するわけでもないし……。
 ともあれ、ブロードウェイでつかまえられそうにないみなさん、来日公演はちょっと無理してでも観ておいた方がいいと思いますよ。ニューワースが出なくても、ね。

(7/19/2001)

※次回の『シカゴ』観劇記はこちら
※次回の『フォッシー』観劇記はこちら

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