[ゆけむり通信Vol.43]

4/7/2001
『ベルズ・アー・リンギング BELLS ARE RINGING』


主演女優の芸にシビれる

 ザ・フェイス・プリンス・ショウ!
 リヴァイヴァル『ベルズ・アー・リンギング』は、 92年版『ガイズ・アンド・ドールズ GUYS AND DOLLS』でのトニー賞受賞(ミス・アデレード役)でスターになったフェイス・プリンス Faith Prince の魅力が全開になった、楽しくて心温まるミュージカル・コメディ。ミュージカル・ファン必見、と言っておこう(この舞台を観てプリンスの魅力がわからなかったら、自分のミュージカルを観る目もまだまだだなと思った方がいいです)。

 フェイス・プリンスは、『ガイズ・アンド・ドールズ』以降、当たらなかったストレート・プレイ(タイトル失念)や、ドナ・マーフィ Donna Murphy の後を受けた“私”役で『王様と私 THE KING AND I』に出演していたが、どちらも未見。前者はあっという間に終わったからだが、後者は、マーフィで観て作品が気に入らなかったのでプリンス版は観なかった。後者についてさらに言えば、とても適役とは思えなかったし、有名作品のリヴァイヴァルの主役を 2番手で受けるってどうなんだろう、と、まあ、彼女の事情も顧みずに、考えたりもした。
 そんな風に必ずしも活躍の場に恵まれているとは言えなかったプリンスが復活の兆しを見せたのが、ラウンダバウト劇場の限定リヴァイヴァル『リトル・ミー LITTLE ME』。“七”面六臂の活躍でトニーの主演男優賞を得たマーティン・ショート Martin Short を相手に、見事なコメディエンヌぶりを発揮。一級のミュージカル女優としての実力を見せつけてくれた。
 そんなところに今回の『ベルズ・アー・リンギング』出演の話。初演の主演ジュディ・ホリデイ Judy Hollyday とイメージがダブるだけに(もちろんホリデイの舞台は観ていないが、やはり彼女が出た映画版はヴィデオで観た)、それなりに期待していたのだが、期待をはるかに上回る出来。やっぱりプリンスはブロードウェイ・ミュージカルの女王の 1人だ、と実感した。

 舞台は 1956年(初演の年)のニューヨーク。
 留守電もなかった時代なので、電話応対サーヴィス(電話秘書って感じか)が繁盛している。ダウンタウンのアパートメントの一室で営業しているスザンサフォン(スーの経営するアンサーフォン=スーズ・アンサーフォン→スザンサフォン)もその 1つ。
 そこで働く、気のいいエラは、困っている顧客がいると、なんとか力になってあげたいと思わずにいられない。
 中でも、劇作家のジェフは気になる存在。締め切りが迫っているのに仕事が進まず悩んでいるジェフを、エラは、母親的存在を演じつつ電話を通じて日々慰めていた。ところが、当の締め切り日、ジェフは酔っぱらって眠り込んでしまいエラのウェイクアップ・コールにも応答しない。心配になったエラは、気が気じゃなくてジェフの部屋まで出かけていく。
 かくして 2人は出会い、恋に落ちるわけだが、自信のないエラは、自分の素性を偽ってしまう。エラのおかげで仕事もうまくいったジェフは、エラを業界のパーティに誘うが、有名人の名前が飛び交うパーティで疎外感を味わったエラは、自分はジェフにはふさわしくないと考え、黙って去っていく。
 エラを探すジェフは、ひょんなことから、同じように自分の運命を変えてくれた不思議な女性を捜している男たちに出会う。そして、彼らの話をつなぎ合わせているうちに、共通項としてスザンサフォンが浮かんでくる。
 ダウンタウンへ急ぐジェフ。そこには、ニューヨークを離れようとしているエラがいた……。
 このメインのラヴ・ストーリーに、スザンサフォンを売春組織だと勘違いしてエラを尾行する捜査官たちや、スーに取り入ってスザンサフォンを競馬のノミ行為に利用する男や、エラの啓示によってショウビズの世界に飛び込む歯医者などが絡んで(それぞれのショウ・ナンバーもあって)、コムデン&グリーン Betty Comden & Adolph Green の脚本は観客を飽きさせない。

 とは言え、半世紀近く前のお話、本質的にのんびりしてはいる。
 が、スザンサフォンの TVコマーシャルの導入部で 50年代気分を印象づけて以降徹底してその様式を貫く舞台デザイン(ミッド・センチュリーというやつですな。担当リカード・ヘーナンデス Riccardo Hernandez)と、主要登場人物たちの愛すべき個性とが、“新鮮な懐かしさ”という逆説的な雰囲気を醸し出して、古さを感じさせない。
 そして、なによりフェイス・プリンスの芸が、このリヴァイヴァルを“活きた”舞台にしている。

 フェイス・プリンス。
 美人ではない。プロポーションがいいわけでもない。若くもない。さらに言えば、押し出しもけっして強くない。
 しかし、不思議な可愛さがあり、陽性の色気もある。そして、 [うまそうに聞こえないけどうまい歌や、動けそうに見えないけど動けるダンス] (『リトル・ミー』の観劇記より)――言い換えると、これ見よがしではない、けれども実は魅力的な芸の持ち主。
 ちょっと他にはいない、スターらしくないスターなのだ。
 そんなプリンスにとって、僕の知る限り、今回がブロードウェイで初めての 1枚看板。これまでは、主演級ではあっても、必ず同クラスの相手役の男優がいて、彼女は受けに回っていた(それはそれで見事なのだが)。だから、名前も、男優が左で彼女は右(『王様と私』なんて、ドナ・マーフィの時はマーフィが左なのに、プリンスに変わってからは、王様役ルー・ダイヤモンド・フィリップス Lou Diamond Phillips の方が左になってる!)。
 それだけに、プリンス自身も、一見いつも通り飄々としているようだが、やはり熱のこもり方が違う。『プロデューサーズ PRODUCERS』のネイサン・レイン Nathan Lane と争うぐらいに出番が多いのだが(元々この作品は、コムデン&グリーンがジュディ・ホリデイのために書いた)、その全てのシーンで、プリンスはオーラを放っている。
 これ見よがしでない人がオーラを放ってるんですよ。それがどんなにすごいことが気づかずに、マーラ・シャーフェル Marla Schaffel を主演女優賞に選んだドラマ・デスク賞選考委員の観る目を疑うね。
 閑話休題(笑)。
 とにかく、プリンスは、歌に踊り(陽気な「Mu-Cha-Cha」やロマンティックな「Just in Time」)にコメディ演技にと大活躍で、ジェフはじめ劇中の男たちを幸せにしていくエラ同様、客席の僕らを幸せな気持ちにしてくれる。
 そんなプリンスが劇中最高に輝くのが、人のいいエラが密かに恋をあきらめて、ジェフの前から姿を消すことを決意し、「The Party's Over」を歌う時。ことさら思い入れを見せるでもなく淡々と歌われる、その歌の悲しみの深さに、胸が熱くなる。半ばスタンダード・ナンバーとなっているこの楽曲を、映画版でのホリデイの歌唱も含めて、これまで何度か聴いてきたが、今回ほど素晴らしく聞こえたことはなかった。ブラボー。

 ジェフ役のマーク・クディッシュ Marc Kudisch は、パブリック・シアター版の『ワイルド・パーティ THE WILD PARTY』にも出ていたが、『美女と野獣 BEAUTY AND THE BEAST』のガストン、『ハイ・ソサエティ HIGH SOCIETY』のジョージ・キトリッジ(オリジナル・キャスト)、『スカーレット・ピンパーネル THE SCARLET PIMPERNEL』(彼の出た第 3版は未見)のショーヴランという過去の役柄からわかるように、底の浅いマッチョな悪役が似合うタイプ。なので、イマひとつロマンティックさに欠けるが、役柄にはあっているし、プリンスを引き立てるキャスティングと考えると納得はいく。
 しかし、そのクディッシュを含め、デイヴィッド・ギャリスン David Garrison(ノミ屋)やベス・ファウラー Beth Fowler(スー)、マーティン・モラン Martin Moran(歯医者)他、実績のある役者が脇を固めてはいるものの、全体にキャスティングが地味な印象は否めない。が、『シカゴ CHICAGO』『スウィング! SWING!』のケイトリン・カーター Caitlin Carter はじめ力のあるアンサンブルが、いくつもの役に扮して大活躍する舞台は、(多くの役者を使えないという台所事情もあるだろうが)カンパニーのまとまりがよく、活気がある感じがして、僕は好きだ。
 どちらにしても、この舞台はフェイス・プリンス・ショウなので、彼女以外にスターは必要ない。それで充分満足出来るだけの芸を、プリンスは見せてくれているのだ。

 演出は、これがブロードウェイ・デビューのティナ・ランドー Tina Landau。
 僕は彼女の名前を、楽曲作者アダム・ゲーテル Adam Guettel とのつながりで知った。現在までのゲーテルの代表作『フロイド・コリンズ FLOYD COLLINS』(未見)の脚本・演出・補作詞がランドーで、ちょうど 2年前に観たゲーテルの 1夜だけのコンサート『イヴニング・ウィズ・アダム・ゲーテル AN EVENING WITH ADAM GUETTEL』(観劇記未アップ)の演出も彼女だったのだ。そのコンサートの 4日前に観たオフの意欲作『ドリーム・トゥルー DREAM TRUE』(観劇記未アップ!)の演出もやはりランドーで、そこでは脚本と作詞も手がけていた(作曲リッキー・イアン・ゴードン Ricky Ian Gordon)。
 そんなわけで、オフを中心に活動していたランドーだが、上記のような作品とは打って変わった半世紀前のオーソドックスなエンターテインメント作品を、テンポよく楽しく仕上げているのは立派。特に場面のつなぎなど、例えば『ジェイン・エア JANE EYRE』などとは対照的な舞台転換のローテクさ(人力主体)を逆に生かして、随所にアイディアを盛り込み(ダンスやギャグをスケッチ的に挿入)、軽快に舞台を運んでいる。
 これからを期待させる演出家の 1人であることは間違いない。

 最後にもう 1度。フェイス・プリンスの『ベルズ・アー・リンギング』、ミュージカル・ファン必見です。

(5/30/2001)

Copyright ©2001 Masahiro‘Misoppa’ Mizuguchi

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