[ゆけむり通信Vol.41]

11/4/2000
『フル・モンティ THE FULL MONTY』


男とは何か、裸になって考えた

 00- 01年シーズンの先陣を切ってブロードウェイに登場した『フル・モンティ』(10月 26日オープン)。 97年の同名イギリス映画を、舞台となる町をイギリス北部のシェフィールドからニューヨーク州バッファローに移し替えて、舞台ミュージカル化したものだ。
 脚本がテレンス・マクナリー Terrence McNally(『蜘蛛女のキス KISS OF THE SPIDER WOMAN』『ラグタイム RAGTIME』)だとわかった時点で、それなりにまとまった作品になるだろうと思ったが、予想通りのかっちりした仕上がり。今シーズンの新作としては上位に属する出来だろう。ただし、予想を上回る素晴らしさ、とまではいかなかった。

 ストーリーは、ほぼ映画の通り。
 製鉄会社の操業停止で失業した男たちが、女性客専門の男性ストリップが人気なのを目撃し、自分たちも同じ手でひと山当てようと考える。とりあえずオーディションで 6人のメンバーをそろえ、準備に入るが、それぞれ抱えている問題があって、空中分解しそうにもなる。が、家族の励ましもあり、最後には全員で“フル・モンティ(真っ裸)”のステージに挑む。

 自信を失いかけている男たちが、“身”を裸にするために妻や子の前で“心”も裸にせざるを得なくなり、自分を見つめ直しながら新たな生き方を獲得していく。ってことで、夫婦あるいは家族再生のドラマのようにも見えるが、マクナリーのホンネは、マチズモ machismo 批判じゃないだろうか。
 男らしさとは何か。そんなことにこだわる必要があるのか。
 僕には、脚本が最も温かく描いているのは、ゲイのカップル(6人の中の 2人)のように思えた。

 ともあれ、そうした市井の人々の決して派手ではないドラマを、よく出来た映画を元にしているとは言え、きちんと見せ場を備えたミュージカル・コメディに仕上げたのは、やはりマクナリーの功績だろう。
 特にうまいと思ったのは、映画ではラジカセに任せていたリハーサル音楽の代わりに、リハーサル・ピアニストを連れてきたこと。これで、“バックステージもの”の匂いが強まって舞台ミュージカルとしての魅力が増えたし、そのピアニストが年のいった業界通の女性だってことで、 6人グループに対するシニカルかつコミカルな視点を導入することも出来た。こういう人物が 1人いると、素人連中がドタバタしながらもそれなりにレヴェルアップしていくことに説得力が加わる。

 デイヴィッド・ヤズベク David Yazbek の書いた楽曲もいい。
 基本にファンキーな R&Bテイストがあって、ビート感が強い。それが、ブルーカラーの街のぶっちゃけた気分を出しているし、舞台に今日的な印象を加えてもいる。そうした中に、シンガー・ソングライター的な感触のバラードが時折交じって、しんみりした心情を伝える。さらには、陽気なラテン・ナンバーも 1曲用意されていて、華やかでユーモラスな彩りを添える。
 器用さを持つと同時にアメリカン・ミュージックの魅力の核もつかんでいるように見えるヤズベクは、(ジャズのテイストはないものの)ミュージカル楽曲作者の位置取りとして、サイ・コールマン Cy Coleman の後を継ぐ存在になるのではないかという気がする。

 そうしたよさを備えた『フル・モンティ』は、笑えて泣けるミュージカルとして、興行的にも成功を収めつつある。もちろん、一見の価値充分にあり、とオススメしておく。

 が、もの足りないのだ。
 なぜか。
 “あの”、一気に異次元へ連れ去られ、気がつくとうれし涙が出ているような、ワクワクするショウ場面に欠けるからだ。
 この作品でショウ的に最も盛り上がるシーンは、ホース役が男性ストリップのオーディションで歌う「Big Black Man」か、男たちがダンスのトレーニングをするのにバスケット・ボールのルーティンを使う「Michael Jordan's Ball」だと思うが、どちらも現実の枠内での出来事にとどまっている。前者は、年のいったしょぼいオヤジがファンキーに踊りまくるという意外性はあるものの、あくまでオーディション内のことなので、不思議さはない。後者も、なかなかダンスの勘をつかめない男たちに、バスケット・ボール(映画ではサッカー)をイメージさせてノセるというアイディアはあるが、それもやはりダンスのトレーニング中のことであれば、まあ、ありえない話ではない。
 それで充分だ、という観方もあると思う。確かに。最後には“フル・モンティ”も用意されているわけだし。
 でも、僕は観たかった。現実のドラマからミュージカル的に非現実の世界に飛躍して、映画版の面白さを超える瞬間を。
 ないものねだりでしょうか。

 抽象的に工場街をイメージさせる装置(ジョン・アーノン John Arnone)の数々は、アイディアがあるが、ややチープな印象。デフォルメされた車やベッドも、同じテイストで作られているのだと思うが、なぜか予算不足を思わせる。

 華々しいスターはいないが、キャストは柄に合っていて、みんなうまい。
 中で一番ウケるのは、ホース役のアンドレ・ド・シールズ Andre De Shields と伴奏ピアニスト役のキャスリーン・フリーマン Kathleen Freeman というベテラン 2人。
 シールズは、資料によれば『ウィズ THE WIZ』『エイント・ミズビヘイヴン AIN'T MISBEHAVIN'』のオリジナル・キャストだった人で、最近では短期間で終わって見逃した『プレイ・オン! PLAY ON!』にも出ていたようだ。とぼけた味わいは昔風だが、それがここではうまく生かされている。
 プレイビルによれば、フリーマンは、「100本を超える映画と数百本の TVショウに出ている」らしいが、ミュージカル・ファンに最も知られているのは、 MGMの『雨に唄えば SINGIN' IN THE RAIN』だろう。この舞台では、第 2幕冒頭の男性陣を従えたナンバーで貫禄を見せてくれる。
 『DUETS』のエミリー・スキナー Emily Skinner も出演していて、前述した陽気なラテン・ナンバーを歌う。中堅の実力派として、確実に地歩を固めつつあるということだろう。

 なお、この作品については、観劇の先輩カイルア山本さんの簡明な感想がこちらに載っています。

(3/23/2001)

Copyright ©2001 Masahiro‘Misoppa’ Mizuguchi

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