[ゆけむり通信Vol.39]

5/11/2000
『ザ・ミュージック・マン THE MUSIC MAN』


『C4U』似の楽しさ

 『ザ・ミュージック・マン』(初演 1957年)は、トニー賞のライヴァル『キス・ミー・ケイト KISS ME, KATE』同様、僕にとっては、オリジナル・キャストの CDを愛聴し、 62年の映画版(日本未公開。演出=モートン・ダ・コスタ Morton Da Costa、振付=オンナ・ホワイト Onna White、主演=ロバート・プレストン Robert Preston 他何人かの出演者など、主要スタッフ・キャストが舞台版初演とダブる)をヴィデオで楽しく観た作品だ。そして、『キス・ミー・ケイト』の場合とは逆に、こちらのリヴァイヴァルにはそれなりの期待を抱いた。
 と言うのは、『コンタクト CONTACT』で調子を取り戻しているスーザン・ストロマン Susan Stroman が演出・振付を手がけたからで、結果として、『クレイジー・フォー・ユー CRAZY FOR YOU』の香りがする楽しい作品に仕上がった。

 誤解がないように言っておくと、『クレイジー・フォー・ユー』の香りがするから楽しいわけではない。『ザ・ミュージック・マン』は、元々が心温まる楽しい作品なのだ。
 それよりも、ここでは、『クレイジー・フォー・ユー』とのプロットの共通点に注目したい。ストロマン起用の裏には、その辺が絡んでいるのではないか、というのが僕の推理だ。

 まず、『ザ・ミュージック・マン』のストーリーをざっと追ってみる。

 時は 1912年。
 音楽教授ハロルド・ヒルと名乗る詐欺師セールスマンが、アイオワ州のリヴァー・シティという小さな田舎町にやって来る。彼のねらいは、少年たちによるブラス・バンドを作ろうというアイディアを町の人々に吹き込み、楽器やユニフォームの代金をせしめて逃げることにある。
 刺激のない毎日を送る純朴な人々は、ハロルドの巧みな話術にたちまちノセられ始めるが、図書館員で自宅でピアノを教える、町で唯一音楽的素養のある女性マリアンだけは疑いを抱いている。逆に、そんな彼女に惹かれたハロルドは、一方で戸別訪問による契約集めをしながら、持ち前の調子のよさでマリアンを口説きにかかるのだが、そうこうする内に、彼女に、心を閉ざしがちな幼い弟ウィンスロップがいることを知る。
 ある日マリアンは、ハロルドの出身地(これは本当のことを言っていた)の教育年鑑を図書館で偶然手にする。動かぬ証拠を見つけたマリアンが、ハロルドの経歴詐称を暴こうとした日、町に似馬車が着く。運ばれてきたのは、町の人々が注文した楽器類。ハロルドがコルネットを取り出してウィンスロップに手渡すのを見たマリアンは、弟のために計画を変えたハロルドの優しさを知り、手にした年鑑から彼に関するページを破りとる。(第 1幕終わり)
 楽器のそろったバンドに演奏を教えたいのはやまやまなれど、方法を知らないハロルドはお手上げ状態。
 そんな折に町に現れたのが、ハロルドに持ち場を荒らされて怒っているセールスマンの 1人。男は、ハロルドの罪状を暴くべく、町の人々が集うパーティ会場の公園にやって来る。一方、ハロルドは、マリアンが自分の正体に気づきながら愛してくれていることを知り、さらに、セールスマンからハロルドの正体を聞かされたウィンスロップの動揺を見て、人生をやり直すことを決心し、逃げるのを止める。
 捕らえられ、広場で町の人々の審判を受けることになったハロルドを、彼が来てから町がどんなに活気づいたかを思い出して、とマリアンが弁護する。しかし彼が約束したバンドはどこにいるんだ!? という反論が起こった時、ヘタクソな演奏が近づいてくる。ウィンスロップはじめハロルドを信じようとする少年たちが、楽器を手に集まったのだ。
 これにて一件落着。

 さて、『ザ・ミュージック・マン』『クレイジー・フォー・ユー』のプロットは、どこが似ているか。

 1). 交通網や情報網が発達していない時代の田舎町に 1人のよそ者がやって来ることから話が始まる。→ハロルド(リヴァー・シティ)/ボビー(デッド・ロック)
 2). そのよそ者が身分を偽っている。→音楽教授/舞台プロデューサー(ザングラーに化けて)
 3). 混乱しながらも、よそ者の言葉にノッて、人々が新しいこと(それもパフォーマンス)に挑戦しようとする。→ブラス・バンド/ミュージカル・ショウ
 4). それが挫折した時、よそ者を愛する女性が、彼によってみんなが変わったと、よそ者を弁護する。→マリアン(第 2幕最後)/ポリー(第 1幕最後)
 5). 最後には計画がうまくいって、主役の男女が結ばれる。

 どうでしょう。似てませんか?
 おまけに、どちらも群舞のショウ場面が多い。ここは、『クレイジー・フォー・ユー』を成功させたストロマンに任せてみようじゃないか、と考えたとしてもおかしくない(もし、マイク・オクレント Mike Ockrent が元気だったら、彼に演出を頼んだのだろうか?)。
 プロデューサーに『クレイジー・フォー・ユー』のエリザベス・ウィリアムズ Elizabeth Williams が名前を連ねているのも、その裏付けのように思える。

 で、初めにも書いたように、ストロマンの起用は一応の成果を収めている。
 特に振付。
 例えば、序曲の演奏を、舞台上の汽車のセットにバンドを乗せてやらせるなんて楽しいアイディアは、ストロマンならでは。しかも、指揮者に向けてバトンがオーケストラ・ピットから飛んで出てくるという小技もある。
 ダンスの大きな見せ場である体育館や図書館のシーン(第 1幕)、公園のシーン(第 2幕)では、心おきなくテクニックの引き出しを全開にして、久々に『クレイジー・フォー・ユー』を彷彿させる、弾ける群舞を展開。体育館では小道具が少なめだったが、図書館では本を使って得意のハラハラさせる振付も見せる。
 ハッピーエンドの後の派手なカーテン・コールも、もちろん用意されている。
 では演出はどうかと言うと、テンポはいい。転換などもうまい。
 が、コメディの演出に粘りが足りない気がしたのは、こちらが『クレイジー・フォー・ユー』のイメージを追いすぎたせいか。典型的コメディ・リリーフである市長夫人(ルース・ウィリアムスン Ruth Williamson)など、必ずしも生かし切れていなかった気がするのだが。この辺、主演 2人とのバランスの問題があるかもしれない。

 主演は、クレイグ・ビアーコ Craig Bierko(ハロルド)、レベッカ・ルーカー Rebecca Luker(マリアン)の 2人。
 ビアーコはもっぱら映画畑で活躍してきた人で、ブロードウェイの舞台初出演。柄は合っているし、熱演だが、やはり愛される悪人であるこの役には、もう少し懐の深さがほしい。ダンスもイマイチ。
 ルーカーも、生真面目で芯が強いというイメージはいいのだが、悪人を許して愛してやる包容力は、あまり感じられない。もちろん歌はうまいが。
 そんなわけで、この 2人、水準には達しているが、この作品の主演としては強力とは言いがたい。主演に余裕がないと、脇のコメディ部分もビシッとキマらない、ということは考えられる。
 いずれにしても、ここが、今回のリヴァイヴァルの唯一にして最大の弱点だろう。

 しかし、脚本も書いたメレディス・ウィルスン Meredith Willson による楽曲のアイディアは素晴らしい。言葉の選び取り方とリズムの生かし方、リズムとメロディとの融合のさせ方など、実に独創的で、今聴いても新鮮。
 汽車のリズムに合わせたア・カペラの(まさに)ラップ「Rock Island」、言葉の速射砲「Trouble」、ピアノの練習曲が歌になる「Piano Lesson」、マリアンとライブラリアン(図書館員)の語呂合わせ「Marian The Librarian」、ハロルドの出身地を奇妙なワンワードのように歌う「Gary, Indiana」など枚挙にいとまがない。
 しかもバラードはシンプルで美しいし(「Till There Was You」他)、男性クァルテットの使い方はうまいし(「Sincere」他)。
 名作のゆえんだ。

 今回の『ザ・ミュージック・マン』が古びていない理由には、こうした楽曲の素晴らしさと、もう 1つ、初演の時にすでに、描かれている時代が懐かしい過去だったということがあると思う。言ってみれば、 92年に 30年代を描いた『クレイジー・フォー・ユー』と同じだったわけで、だからこそストロマンが起用された……というのは牽強付会(けんきょうふかい)すぎますでしょうか(笑)。
 でも、逆に、『クレイジー・フォー・ユー』のストーリーを作る時に『ザ・ミュージック・マン』を参考にしたってことはあるんじゃないか? 元ネタが『ガール・クレイジー GIRL CRAZY』とは言え、けっこうストーリー違ってるし。どうだろう(と妄想はふくらむ)。

 共同演出/レイ・ローデリック Ray Roderick、共同振付/タラ・ヤング Tara Young のクレジットあり。

(6/5/2000)

Copyright ©2000 Masahiro‘Misoppa’ Mizuguchi

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