[ゆけむり通信Vol.38]

3/18/2000
『ボミッティ・オブ・エラーズ THE BOMB-ITTY OF ERRORS』


ス“ラップ”スティック・ミュージカル

 オフで上演されている(僕の知る限り、世界初の)本格的ラップ・ミュージカル『ボミッティ・オブ・エラーズ』が楽しい。
 内容は、シェイクスピア『間違いの喜劇 COMEDY OF ERRORS』の現代版で、元々詩的だと言われるシェイクスピアの作品が、現代的ポエトリー・リーディングとも言えるラップによってスピーディによみがえった。

 『間違いの喜劇』とは――。
 昔々、同じ両親から生まれた 2組の双子がいた。彼ら 4人は、幼い頃に離ればなれになったために、お互いのことを全く知らない。でもって、なぜか、双子でない方の 2人ずつがシラキュースとエフィサスという街に、それぞれ主従関係で暮らしている。そのシラキュースに住む 2人が、母親と兄弟を探して旅する内にエフィサスにやって来ることから起こる、勘違いによる大混乱。
 というわけで、これ、ごぞんじロジャース&ハート Richard Rodgers & Lorenz Hart が 1938年に発表したミュージカル『シラキュースから来た男たち THE BOYS FROM SYRACUSE』の元ネタだ。でもって、シェイクスピアが参考にした、さらなる元ネタは、『ローマで起こった奇妙な出来事 A FUNNY THING HAPPENED ON THE WAY TO THE FORUM』『スカパン SCAPIN』の元ネタ同様、紀元前の作家タイタス・マキウス・プラウトゥス Titus Maccius Plautus の作品らしい。
 確かに設定がよく似ていて、ラップという目新しい意匠を取り払って観れば、伝統にのっとったスラップスティック・コメディであることがわかる。舞台上にいくつかある出入り口を使って絶妙のタイミングで役者が登退場、件の双子たちが出会いそうで出会わないという作りなど、まさに定石。
 しかし、上記 2作品よりはるかに安上がりな舞台である『ボミッティ・オブ・エラーズ』が、イキのいい笑いという点でそれらより上を行っている理由の 1つは、 2組の双子はもちろん、その妻や義妹、父、召使いなどの全役を 4人の出演者で演じてしまっていることにある。すれ違いのおかしさに、早替わりの面白さが加わっているわけだ。

 時代を移し替えて新しい脚本を書き、かつ演じているのは、ジョーダン・アレン・ダットン Jordan Allen-Dutton、ジェイスン・カタラーノ Jason Catalano、ジーキュー GQ、エリック・ワイナー Erik Weiner。いずれも若いが、コメディ演技も確かで、スラップスティックの動き・呼吸が、ラップ同様血肉化されている印象。単なる思いつきだけで作り上げた舞台でないことがわかる。
 それを支えるのが、作曲& DJ担当のジャック J.A.Q.。舞台左上方の DJブースで演技を見ながら、演奏及び MCで舞台にグルーヴを与え、会場を煽り、時には演技に参加する。その臨機応変な 1人オーケストラは、舞台ミュージカルになくてはならない自在なノリを見事に生み出している。

 ラップという手法で古典的コメディに新たなリズムを与え、現代的スピード感を持ったミュージカルとしてよみがえらせた『ボミッティ・オブ・エラーズ』。こうして本場で鍛えられた作者=役者たちによってイキイキと演じられているのを観ると、新奇さを超えた新時代ミュージカルの可能性をはらんでいるのがわかる。『ブリング・イン・ダ・ノイズ、ブリング・イン・ダ・ファンク(ノイズ/ファンク) BRING IN 'DA NOISE, BRING IN 'DA FUNK』のような歴史観はないが、画期的なミュージカルであることは間違いない。
 日本のミュージカル関係者が安易に模倣しないことを祈る。

(5/1/2000)

Copyright ©2000 Masahiro‘Misoppa’ Mizuguchi

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