[ゆけむり通信Vol.36]

11/20/1999
『コンタクト CONTACT』


抑圧のダンス・パフォーマンス

 『クレイジー・フォー・ユー CRAZY FOR YOU』で振付家として名を成したスーザン・ストロマン Suzan Stroman が演出も手がけた“野心作”が『コンタクト』(脚本/ジョン・ワイドマン John Weidman)。
 と言っても、同じ振付家出身のグラシエラ・ダニエル Graciela Daniele の“野心作”とは、自ずから色合いが違う。ダニエル作品が、鋭い異邦人の視線と深い血の記憶を感じさせるのに対して、ストロマンの方は――。オッと、結論を急ぐのはよして、ここでは、彼女の振付が以前から内包していたものがクッキリと表に出ていて面白かった、とだけ言って先に進もう。

 まずは、“ダンス・プレイ”と呼ばれている『コンタクト』のスタイルについて書いておく。
 “ミュージカル”と呼ばれない理由は、出演者が歌わないことと、音楽が既成のレコーディング作品であることの 2つ。では、表現のスタイルとして革新的に新しいかというと、そういうわけでもない。僕には、“ダンス・パフォーマンス”に若干のセリフを加えたもの、という風に見える。
 ストーリー性のある“ダンス・パフォーマンス”は“バレエ”も含めて過去にもあったわけだし、そこに少しばかりのセリフが加えられたからといって、改めて別の呼び名を作るのは混乱の元だ。僕は、“ダンス・パフォーマンス”と呼んでしまってかまわないと思う。
 近づくトニー賞のカテゴリーの話をすれば、昨シーズンの『スワン・レイク SWAN LAKE』がミュージカル部門で扱われたのだから、『コンタクト』も問題なくミュージカル部門だろう。

 この作品のもう 1つの特徴として、 3つの短編(3本目はやや長いが)のオムニバスという上演形態がある。これも、ブロードウェイの作品としては近年では珍しいが、過去になかったわけではないし、ましてや、“ダンス・パフォーマンス”の上演形態として考えると、しごく当たり前のものということになる。
 ただし、その 3つの短編が、時代設定も違うし内容的にも関係がなさそうに見えるのだが実は根底でつながっている、というあたりが、この作品ならではの面白さだろう。その、 3つの短編の底に横たわっているものこそ、ストロマン作品がこれまでも密かに抱えていた彼女の核とも言うべきもので、それが今回、こうしたオムニバス形式を採ることで逆にクッキリと見えてきたのだ。

 さて――。
 ここから先、ストーリーの説明、及び、若干の謎解きに入ります。で、ですね。この作品、予備知識なしに観てもわかりやすいし、その方が間違いなく楽しめるはず。ですので、観るつもりがある人には、一見の価値あり! と断言して、ここでこの文章を読むのを止めることをオススメします。

 よろしいでしょうか?

 3部構成の第 1、 2部が第 1幕に、第 2幕が丸ごと第 3部になっていて、順を追って時代が新しくなり、上演時間も長くなる。

 第 1部「Swinging」。
 (プレイビルによれば)1767年のフランス、森の空き地。
 こぢんまりしたすり鉢状劇場の舞台に、「The Swing(ブランコ)」というタイトルの付いた油絵が置いてある。描かれているのは次のような光景。
 大きく揺れるブランコ。それに乗る若い女性。その足元に半ば横たわって女性を見上げる洒落た身なりの若い男。後ろの木陰でブランコを押しているらしい男。
 暗転すると、その絵は消え、絵と同じ構図で 3人の役者が登場する。
 どうやら、ブランコ遊びをしている男女が貴族で、ブランコを押している(こちらも若い)男は従者らしい。明らかにイラついている従者。そんな存在など目に入らないかのように戯れる貴族の男と女。ところが、貴族の男がいなくなった隙に、女は従者を誘惑する。
 こうした“奔放”なやりとりが、セリフなしのエロティックなダンスで表現される。
 しかし最後に、その“奔放”さが屈折したものだったことがわかる。戻ってきた貴族の男に、従者が金を渡すのだ。実は、本当は貴族の男が従者になりすまし、従者に貴族の役をやらせていたわけだ。

 第 2部「Did You Move?」。
 1954年、クイーンズのイタリアン・レストラン。
 楽しげにディナーを楽しむ人々の中に、やたらに不機嫌な夫と気遣わしげな笑顔の妻がいる。夫のいらだちを知ってか知らずか、テーブルの間を踊るようにすり抜けていくウェイターは、夫のオーダーをしばしば見過ごす。そのたびに夫は腹を立てて大声を上げる。なんとか気分を和らげようと妻が何か話しても、夫が妻に向かって言うのは、高圧的な「Don't talk!」「Don't smile!」「Don't move!」だけ。
 そんなわけで、夫がテーブルを離れてもジッと座っているしかない妻なのだが、しかし、 1人になると彼女の中で音楽が流れ始め、夢想が始まる。
 ……彼女は自由。テーブルを離れ、音楽に乗って、ウェイターや客たちと軽やかに踊り続ける。……
 それも夫が戻るまでの、つかの間の幻。
 ところが、そうしたことを繰り返す内に、何かにつけてわめき立てる夫が騒ぎに巻き込まれ、撃ち殺されてしまう。解放された妻は、喜びに包まれて踊る!
 ――が、それも彼女の夢想だった。夫は戻ってきて席に座り、彼女は……もう夢想すら出来ない。

 第 3部「Contact」。
 現代のニューヨーク。
 広告代理店の重役である独身の男。人間関係に疲れ果て、帰宅後、高級アパートメントの自室で首吊り自殺しようとする。が、綱が落ちて失敗。
 飲みに出てフラリと入り込んだのは、ダンスフロアのある猥雑な店。客は皆、フェロモンをまき散らして踊っている。
 そこで男が出会ったのが、黄色いドレスを着た魅力的な女。だが、ダンスが得意でない男は、女にマトモに相手にしてもらえない。しかし、思いは募るばかり。ある夜、店で彼女を見つけた男は、意を決してダンスで誘いかけるが、結局は彼女を狙う他の男たちとの争いに敗れ、絶望する。
 ――と思ったところで我に返ると、そこは自室の床の上。今までの出来事は、自殺に失敗して気絶している間に見た妄想だったのだ。
 そこに隣室(階下?)から苦情の電話が入り、電話の主がやって来る。ドアを開けると、それはなんと、黄色いドレスの女そっくりの人。
 これでハッピー・エンドかと思いきや、その場面までも妄想で、実は男の自殺は成功していたのだった……。

 以上のつたない説明で想像がつくだろうか。 3つの短編に共通するもの。
 それは、歪んだ愛、だ。 SM的な、と言い換えてもいい。
 わざわざ従者の姿になって、尋常でない状況で恋人と愛を交わす男。それを楽しむ女。
 異常な嫉妬なのか、妻の自由をとことん奪う夫。欲望を抑えながら、それにひたすら耐える妻。
 妄想の中でしか愛すべき女に出会えない男。
 抑圧された男女の愛――これまで誰も言及したことがないのではないかと思うが、ストロマン作品の根底には、間違いなくこれがある。
 詳述は避けるが、初めて気づいたのは『SONDHEIM A Celebration at Carnegie Hall』というヴィデオを観た時で、収められているのは 92年 6月に行なわれたコンサートなのだが、その振付がストロマン。で、中に、カレン・ジエンバ Karen Ziemba とビル・アーウィン Bill Irwin によるコミカルなナンバーがあり、そのダンスが、『クレイジー・フォー・ユー』の「Naughty Baby」とよく似ていたのだ。女性が愛情表現として男をいじめる。それも、縛ったりなんかして。
 そう思って観ていると、必ずと言っていいほど、そうした傾向が見えてくる。『スティール・ピア STEEL PIER』などは、ある意味、全編その空気で満ちていたと言ってもいい。ただし、ユーモラスな味つけに乏しかったので色合いが違って見えたが。
 おそらくは彼女の中にある資質なのだと思うが、そうした屈折した要素が、ストロマンの振付を、ただ引き出しの多いだけの器用なもので終わらせていないのだ。……と、今回の舞台が一応の成果を収めたから、ファンとしても安心して言える。なにしろ、このところ不調だったから。

 とは言え、僕としては絶賛とはいかない。
 絵をうまく使った第 1部は、短い中にサスペンスもあり、面白い。カレン・ジエンバが悲惨な妻をユーモアを交えて見事に演じ、踊った第 2部は、他の客やウェイターにまで細かい演出が行き届いていて、 3部の中で最高の出来。……なのだが、第 3部が、長く続くクラブのダンス・シーンの途中でややダレる。
 力作、力演であることは認めるが、やはり主演のボイド・ゲインズ Boyd Gaines が本格的ダンサーでないのが痛い。踊れる人が踊れない風に踊るのと、踊れない人が踊れない演技をするのとでは、ダンス全体の調子が違ってくる。なんてのは釈迦に説法だろうが。
 それと、第 3部は、選曲に意外性が乏しかった。
 こうした欠点が大きい劇場(ヴィヴィアン・ボーモント)に移ってどう出るか。修正されるのか。変化は 5月に確かめる。

 出演者では、他に、第 2部の夫と第 3部のバーテンダーを演じたジェイスン・アントゥーン Jason Antoon の印象が強烈。踊らないのに。儲け役と言うべきか。
 ちなみに、黄色いドレスの女は、デボラ・イェイツ Deborah Yates。

 パーソナルな部分を、これまでになくハッキリ見せた演出作品が好評を得たことで自信を持ったに違いないストロマンが、今後どんな舞台を作り出すのか、楽しみだ。

(4/3/2000)

次回の観劇記はこちらを。

Copyright ©2000 Masahiro‘Misoppa’ Mizuguchi

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