[ゆけむり通信Vol.34]

5/6/1999
『クレイジー・フォー・ユー CRAZY FOR YOU』


地方公演はのんびりと

 過去の同演目の観劇記は、こちらでお読みください。

 「一番好きなミュージカルは?」と訊かれると必ず答えていたのが『クレイジー・フォー・ユー』。 96年 1月 7日にブロードウェイ最終公演を終えた後も、その気持ちは変わらず、もう 1度観たいミュージカル第 1位の座を占め続けていた。
 その作品がニューヨーク近郊で上演されるとあっては、観に行かないわけにはいかない。意を決して、ニュージャージーの小さな町まで列車で出かけた。
 が、これが拍子抜けするほど近い。わずか 30分で到着する距離で、これならいつでも来られる。機会があったら、みなさんもぜひ。

 さて、わが心のの『クレイジー・フォー・ユー』だが、結論から言うと、ややがっかり。ブロードウェイの舞台に比べると、ずいぶんとのんびりした仕上がりになっていた。

 『クレイジー・フォー・ユー』の命は、絶妙のタイミングによるギャグとダンスの連発にある。よーく考えれば「なんで?」という展開も、疑問を抱かせることなく進めてしまうテンポのよさ。それこそが、ノスタルジックな題材であったにもかかわらず、『クレイジー・フォー・ユー』が、 92年という年にあってもヒットした理由だ。
 しかるに、ここニュージャージーでの公演では、その軽快なノリがなりをひそめ、少しぐらいウトウトしていても話についていけるぐらいの、よく言えばわかりやすい、悪く言うとやや間の抜けた舞台になっていた。
 その理由は、すでに手本となるべきブロードウェイ公演がないという状況下、地方公演のみを繰り返していく中で、演出が地方の観客に合わせて変化していったからだと思われる(クワストさんにヴィデオで見せていただいた 96年のウィチタ公演も、ブロードウェイに比べるとテンポが遅かった)。

 もっとも、その兆候は、すでにブロードウェイのロングラン中にあった。主人公ボビー役が、オリジナルのハリー・グローナー Harry Groener からジェイムズ・ブレナン James Brennan に替わると、演出がクドくなり始めたのだ。
 あくまで飄々としていたグローナーに比べると、ブレナンの演技は粘っこい。
 ブレナンの起用は、『ミー・アンド・マイ・ガール ME AND MY GIRL』つながりと言うか、同作の成功でブロードウェイで名を揚げた『クレイジー・フォー・ユー』の演出家、マイク・オクレント Mike Ockrent の推挙によると思われる。ブレナンは、ロンドン産ミュージカル『ミー・アンド・マイ・ガール』のブロードウェイ版で、ロバート・リンゼイ Robert Lindsay、ジム・デイル Jim Dale というロンドン勢の後を受けて主役を演じていたのだ。詳細は省くが、この、オクレント=ブレナンというコンビになった瞬間、シフトがロンドン方式に切り替わったのではないかと僕は推察する。
 まあ、それはさておいても、公演が長引いて観光客度が上がるのに合わせて、演出の洗練度を、気持ち下げていったということは充分考えられる。少なくとも僕にはそう見えた。

 ミルバーンという、ニュージャージーの小さな町にあるペイパー・ミル・プレイハウスは、リヴァイヴァル主体の劇場で、演目を見ていると、ツアー・カンパニーの招聘ではない独自の上演を数多く行なっているように思える。比較的最近では、ベティ・バックリー Betty Buckley 主演の『ジプシー GYPSY』という、ちょっと魅力的な出し物をやっていた。
 今回の『クレイジー・フォー・ユー』は、前述のジェイムズ・ブレナン演出(出演はしていない)による、なんと 1か月半に及ぶ長期公演。よほど集客力に自信がないと出来ないと思うのだが、その営業努力を反映するように、僕の観た日は、バスを連ねて集まってきた老人の団体客でいっぱい。
 白髪が大半を占める客席を眺めながら、この客層では、ブレナンならずとものんびりした舞台に仕上げざるを得ないか、と妙に納得した。

 今回のボビー役は、前述のウィチタ公演と同じジム・ウォルトン Jim Walton。オフのヒット作『アンド・ザ・ワールド・ゴーズ・ラウンド AND THE WORLD GOES 'ROUND』出演を通じての、スーザン・ストロマン Susan Stroman(振付)人脈だろう。ヴォードヴィルの香りを残した、いいダンサーだが、主役をやるには華がない。
 ポリーは、ブロードウェイでオリジナルのパッツィ(ザングラー・ガールズのボケ役)を演じたステイシー・ローガン Stacey Logan。『美女と野獣 BEAUTY AND THE BEAST』でバベット(羽箒)役だったことからもわかるように、ちょっと色っぽいトボケた役がハマる人で、これまたいいダンサーだが、ソロで歌うことの多いポリー役は(ブロードウェイ時代、アンダースタディだったにもかかわらず)、ぴったりとは言いがたい。
 ローガン以外にもオリジナル・キャストが 3人、ブロードウェイと同じ役を演じていて、うれしかった。ザングラー役のブルース・アドラー Bruce Adler、ボビーの母役のジェイン・コネル Jane Connell、そしてザングラー・ガールズの 1人パトリシア役のアメリア・ホワイト Amelia White。
 もう 1度、全員がオリジナル・キャストの舞台を観たいなあ。あ、ただし、ポリー役だけはカレン・ジエンバ Karen Ziemba で(笑)。

 セットのデザインが細かい部分でいろいろと違っていたこと、フィナーレでボビーとポリーを載せてせり上がっていく装置もなかったことを付け加えておく。

(8/24/1999)

Copyright ©1999 Masahiro‘Misoppa’ Mizuguchi

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