[ゆけむり通信Vol.32]

1/8/1999
『サイド・マン SIDE MAN』


人生もそれほど悪くない

 ラウンダバウト劇場での限定公演の後、ブロードウェイでのロングランに入った『サイド・マン』
 同じラウンダバウトの製作した『キャバレー CABARET』のエムシー役を演じるために去った、限定公演時のナレーター役ロバート・セラ Robert Sella に替わって、ゴールデン劇場の舞台にはクリスチャン・スレイター Christian Slater が登場。ストレート・プレイの中でも注目度の高い作品になっていた(現在は再びセラが出演中)。

 とは言え、ミュージカルを優先させる僕の観劇予定にストレート・プレイが入ることはめったにない。この舞台も、雪で帰国便が飛ばないというアクシデントがなければ観ることはなかったかもしれない。
 しかし、観てよかった。
 つらくはあっても、生きてることは、そんなに悪くない――そんな風に思わせてくれる作品だった。

 なんてことを言いながら、ここで正直に告白しておくと、上に書いたように、その日の朝 JFK へ向かい、手続きを済ませてからの待ち時間約 2時間半、定刻に飛行機に乗り込んでから待つことさらに 5時間、結局飛ばずに寒風の中をタクシーの列に約 1時間並んでマンハッタンへ舞い戻るという事態の後だったので、劇場 2階席の暖かさの中で時折誘惑の手を差し伸べてくる睡魔からは、「ゲキもは」魂を誇る僕であっても完全に逃れることは出来なかったのであります。
 ンなわけで、いろいろと見逃しているのは間違いないのですが、それでも感銘を受けたというあたりに、この舞台のよさがあるとご解釈いただきたい(笑)。

 舞台上の“今”は 1985年。ナレーターである青年クリフォードの案内で、観客は、その“今”と、クリフォードの両親たちがまだ若かった 1950年代とを行き来する。そこで語られるのは、ビッグ・バンドのサイド・マンだったクリフォードの父親と、結婚して主婦になった母親、そしてバンドの仲間たちの人生。

 面白いのがバンド・マンたちのキャラクターで、彼らの気ままな人生観と曰く言いがたい仲間意識とが、不思議に懐かしい温かさを生む。気分は、映画『ブロードウェイのダニー・ローズ BROADWAY DANNY ROSE』の冒頭で芸人連中がカーネギー・デリに集ってしゃべっている、あの感じに近い。
 ミュージシャン気質も巧みに描かれているようで、偶然同じ日にこの舞台をご覧になっていたピアニストの島健氏によると、夭折した伝説のトランペッター、クリフォード・ブラウン Clifford Brown(主人公の名前の出所だ)のラスト・レコーディングを、同時代に生きた若い彼らが雁首そろえて聴き入るシーンなど、かなり“わかっている”感じだったそうだ。
 男連中が気ままな分、現実のつらさを引き受けてみずみずしさを失っていく母親役を演じたエディ・ファルコ Edie Falco は、この作品がラウンダバウト劇場にかかる以前のオフ上演でこの役をやっていた“オリジナル”・キャスト。熱演に拍手が湧いていた。
 半分眠ってた観客として言えるのは、このぐらいでしょうか(笑)。

 脚本ウォーレン・ライト Warren Leight のアイディアと技の勝利だと思う。
 演出マイケル・メイヤー Michael Mayer。
 ニール・パテイル Neil Patel による 50年代的ノスタルジーに満ちたセットは印象的だった。

(5/4/1999)

Copyright ©1999 Masahiro‘Misoppa’ Mizuguchi

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