[ゆけむり通信Vol.32]

1/4/1999
『賢い旅行者が知っておくべき秘訣集
SECRETS EVERY SMART TRAVELER SHOULD KNOW』


パッケージ旅行的平凡さ

 あるテーマに沿って書かれた“ショウ場面入りスケッチ(日本で言うところのコントに近い)集”というスタイルのミュージカル・レヴューがある(本来“レヴュー”というのはそういうものらしいが)。一貫したストーリーを持つ、いわゆるブック・ミュージカルが主流になる前は、ブロードウェイでも多く作られていたようだが、今ではもっぱらオフに登場する。
 上演中のもので言えば、『アイ・ラヴ・ユー、ユー・アー・パーフェクト、ナウ・チェンジ I LOVE YOU, YOU ARE PERFECT, NOW CHANGE』がそうで、テーマは、結婚をめぐる男女の思いのすれ違い。『フォービドゥン・ブロードウェイ』シリーズもそうだな。こちらのテーマは、もちろんブロードウェイ・ミュージカル。

 『賢い旅行者が知っておくべき秘訣集』(直訳)もそのスタイルのショウで、タイトルがそのままテーマになっている。
 オフのこの種のショウはよくまとまっていることが多く、そんなところにもアメリカン・ミュージカルのノウハウの厚みを感じるが、この作品も例外ではなく、スケッチごとに笑いを取り、全体の構成も悪くない。しかし、破綻がないのと同様に興奮もない。何か“熱”のようなものが感じられない、印象の薄い舞台だった。

 原因は題材そのものにあると思う。
 旅行にまつわるトラブルやおかしな出来事は、時にカルチャー・ギャップをえぐり出して興味深いが、この舞台に登場するのは、あくまでアメリカのホワイトカラー白人的視点から見て笑えるエピソード。気分としては、 50年代から 60年代半ば頃のアメリカの TV ヴァラエティ・ショウといった感じなのだ。
 そうした色合いは、ミッドタウンの外れにあるレストラン・シアターでの上演という条件と密接に絡み合っていると思われる。こういう内容のショウだからこうしたレストラン・シアターでの上演を望んだのか、こんなレストラン・シアターの出し物だからこういう内容になったのか――どちらが卵で、どちらがニワトリかはわからないが。

 出演者は男女 2人ずつの役者+ピアニスト&ベーシスト(このベーシストが、第 1幕、第 2幕、それぞれ 1曲ずつ自作曲を渋く歌ってウケた)。こんな小規模なショウでも、とりあえずみんな達者なのには、いつもながら驚く。とは言え、さすがに華はないが。
 各幕の最初と最後は全員が登場するが、その他の場面はだいたい 1人ないし 2人で演じられる(3人というのが第 2幕に 2回だけある)。おわかりだと思うが、出ていない間に衣装替えをしなければならないからだ。

 基本的には、旅行者が出会う様々な状況をおかしく描いた“ショウ場面入りスケッチ”が並んでいるわけだが、それらをまとめ上げるのに、観客を乗客に想定したフライトというコンセプトを使っている。そのため、時折、客席に向けて機長からのアナウンスが入るという趣向を用意してある。
 そのコンセプトに沿って、航空会社への電話予約がうまくいかない、というネタも繰り返し登場する。受け付ける相手とやりとりのズレがエスカレートしていくという内容。
 印象に残った場面は、始まってすぐ、タイトル曲を全員で歌った後のナンバー「Naked in Pittsburgh」。今までそこで歌っていた男の 1人が、いきなり股間にバスタオルを当てただけの姿で登場したのに驚いた。つかみは OK ってことですか。
 もう 1つは、ノエル・カワード Noel Coward の『私生活 PRIVATE LIVES』をもじった「Private Wives」。『バッファローの月 MOON OVER BUFFALO』で演じられたパロディを観ていたのでわかったが、元ネタとして引用されることが多いのだろうか。それともオリジナルが浸透しているのか。でなきゃ、観光客相手のショウで使ってもウケないと思うのだが。

 こういうショウなら日本でもすぐに作れそうに思うのだが、実際にはなかなかそうもいかない。と言うのも、この規模にもかかわらず、例えばスケッチと楽曲の作者だけで、 13人が参加していたりするからだ。
 どんなに小さなショウでも、プロとして作るからには可能な限りいいものを作ろうとする姿勢。学ぶべきは、これだと思う。

(4/10/1999)

Copyright ©1999 Masahiro‘Misoppa’ Mizuguchi

[ゆけむり通信Vol.32 INDEX]


[HOME]