[ゆけむり通信Vol.32]

1/3/1999
『ピーター・パン PETER PAN』


安定飛行少年

 日本でも、すっかり定番ミュージカルと化した『ピーター・パン』(日本版のタイトルは、なぜか中黒なしの『ピーターパン』)。
 原語版を観るのは初めてだが、手慣れた作りで淀みがなく、今では珍しい 3幕構成でも飽きることはない。“ホリデイ・シーズンに家族そろって安心して楽しむブロードウェイ・ミュージカル”としては文句のつけようがない出来。

 ショウ場面がストーリー展開の中に絶妙に配置された脚本のよさについては、今さら言うまでもないだろう。
 マーク・チャーラップ Mark Charlap(作曲)+キャロライン・リー Carolyn Leigh(作詞)、ジュール・スタイン Jule Styne(作曲)+ベティ・カムデン Betty Comden & アドルフ・グリーン Adolph Green(作詞)による、楽しく情感豊かな楽曲もいいし。

 しつけに厳しく、体面を気にするダーリング家の父親を演じる役者が、ネヴァーランドではフック船長になるというキャスティングも、今となっては何でもないようだが、うまい。
 さらに、母親も人魚に、メイドはタイガー・リリーにと、大人たちはみんな、ネヴァーランドで姿を変えて現れるが、何年か後に再びダーリング家を訪れたピーターを迎える成長したウェンディを演じるのも母親役と同じ役者であるのは、そうでなくちゃ、と思った。
 僕の観た日本版では、この役、ウェンディ役者がそのまま衣装を替えて演じていたが、それでは観客の驚きがなくなる。「母親がいる」と思って観ているところにピーターがやって来て、それが実は大人になったウェンディであることがわかる、という驚きが。

 主演のキャシー・リグビー Cathy Rigby は、アップの写真を観ればオバサンだが、舞台で動いている限りにおいては、永遠の少年=ピーター・パン以外の何者でもない。
 プレイビルによれば、元々は体操選手で、 2度のオリンピック出場経験を持ち、アメリカ人として初めて世界選手権でメダルを獲得。国際大会の獲得メダル数 12(金が 8)。
 ミュージカル・デビューは 81年、『オズの魔法使い THE WIZARD OF OZ』のドロシー役。その後、主にリヴァイヴァル作品に次々に出演。 91年にブロードウェイ上演された“35周年記念版”『ピーター・パン』に出会った彼女は、 90-91年のトニー賞で主演女優賞にノミネート。作品自体もリヴァイヴァル作品賞にノミネートされている。
 その 35周年記念版も、おそらくブロードウェイ上演の前後に国内をツアーしていたと思うが、今回のプロダクションも昨シーズンたっぷりと国内ツアーをこなしてからブロードウェイ入りした様子(さらに、この限定公演の後再びツアーに出て、 4月から 8月まで再びブロードウェイに戻ってくる予定)。
 世界レヴェルの体技を持ち、ミュージカル女優としても充分に経験を積み、ピーター・パン女優として今や累積最長飛行を誇るリグビーであってみれば、観ている側が安定感を覚えるのも当然だ。演技も自然で魅力があるのだが、とにかく当たり前のようにスッとフライングに移るのに、少なくとも僕は驚いた。

 おそらくツアー・キャストがほぼそのままなのだろう、地方公演やツアー中心の活動をしてきた役者が多く、ブロードウェイのスター級はいないが、フック船長(ダーリング氏)役のポール・シューフラー Paul Schoeffler、ダーリング夫人(人魚)役のバーバラ・マックロー Barbara McCulloh はじめ、脇役も達者。子供たちもうまい。中に、西原理恵子氏が愛してやまない(反語的表現)『アニー ANNIE』映画版でアニーを演じたアイリーン・クイン Aileen Quinn がいることに、プレイビルを読んで気づいた。

 主演のリグビーと同時に、主要プロデューサーも、 35周年記念版と同じこの舞台。多分にリヴァイヴァルのリヴァイヴァルという要素が濃いが、それでも、振付は一新した、とプレイビルにある。
 手がけたパティ・コロンボ Patti Colombo の努力の成果が最もよく表れていたのが、ピーターや子供たちが、タイガー・リリー率いるインディアンたちと歌い踊る楽しいナンバー「Ugg-a-Wugg」。この大騒ぎから、次の心に沁みる「Distant Melody」への流れが、この作品のクライマックスだと思う。
 しかし、タイガー・リリーはいいなあ。ディズニー版でもタイガー・リリーがいちばん好きだった。次はもちろんティンカー・ベル。

 なお、このプロダクションのフライング担当は、有名な FOY ではなく、 ZFX Flying Illusions, Inc. という会社だった。

 蛇足だが、“35周年記念版”の 35という数字は、今回の舞台の大元であるジェローム・ロビンズ Jerome Robbins 考案版(メアリー・マーティン Mary Martin 主演)ブロードウェイ初演からの年数を指すのだと思うが、それは 1954年だから、 35周年記念版が 1991年上演だと、どうにも計算が合わない。 1989年から国内ツアーを始めたと解釈するしかないが、どうなのだろう。
 さらに蛇足。『ピーター・パン』のブロードウェイ上演最長記録は 79年のリヴァイヴァルだが、これに主演したサンディ・ダンカン Sandy Duncan が、 5月末からカレン・ジエンバ Karen Ziemba の後を受けてロキシー役で『シカゴ CHICAGO』に登場の予定。

(3/30/1999)

Copyright ©1999 Masahiro‘Misoppa’ Mizuguchi

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