[ゆけむり通信Vol.32]

1/6/1999
『オン・ザ・タウン ON THE TOWN』


古びた内容を救えなかった振付

 映画では『踊る大紐育』という邦題で知られる『オン・ザ・タウン』は、 97年夏、パブリック・シアターによる恒例のシェイクスピア・イン・セントラル・パーク公演の流れで 1か月間リヴァイヴァル上演され、その好評を受けて昨年秋、ロングランを目指したブロードウェイ上演に入ったが、残念ながら早々と(1月 17日)クローズする結果となった。
 その原因は、キャラクターやストーリーに現代性がないこと、そして振付の説得力の乏しさにあったと思う。

 朝 6時。ニューヨークの港。
 24時間の休暇を与えられて上陸する仲のいい水兵 3人、オジー、チップ、ギャビー。
 初めて乗った地下鉄で、ギャビーが、ポスターの女性“ミス地下鉄”に一目惚れ。 3人で手分けして彼女を探すことになる。その途中で、チップはタクシー運転手のヒルディに惚れられ、オジーは生物学者(?)のクレアと惹かれ合う。ギャビーも偶然(!)“ミス地下鉄”アイヴィに出会うことが出来、 3つのカップルは夜の街へ。
 ところが、アイヴィが突然ゆくえをくらます。見栄を張ってギャビーには明かさなかったが、実は彼女、コニー・アイランドのバーレスク・ダンサーで、その夜も休むわけにいかなかったのだ。
 で、なんだかんだで事情がわかって、一同コニー・アイランドへ。彼らのおかげで迷惑を被った連中も一堂に会してその後を追い、混乱の内に大団円。
 翌朝 6時。港で女たちとの別れを惜しみ、船に帰っていく 3人の水兵。入れ替わるように、新たな水兵たちが上陸してくる。

 1944年暮れにブロードウェイに登場した『オン・ザ・タウン』は、ジェローム・ロビンズ Jerome Robbins (振付)が、その年の初めにレナード・バーンスタイン Leonard Bernstein (作曲)と組んで作ったバレエ組曲『ファンシー・フリー FANCY FREE』を元に、ベティ・カムデン Betty Comden & アドルフ・グリーン Adolph Green (作詞・脚本)の参加を得て完成させたミュージカル。

 というのはよく知られた話だが、ポイントになるのは、 1944年という上演年。
 アメリカの勝ちが見えてきてはいるが、第 2次大戦まっただ中。主人公の 3人の水兵という設定はタイムリーなもので、 24時間の外出許可を与えられた彼らが憧れのマンハッタン(+コニー・アイランド)でつかの間の自由を味わうという物語に、観客も大いに共感を覚えたはずだ。
 しかし、ストーリーは必ずしも緊密に作られているわけではなく、むしろ、“ニューヨーク観光名所巡り”というコンセプトのスケッチ集という印象。登場人物のキャラクターもそれほど深くは描かれていない。それを、優れたダンス・ナンバーが支える――と言うより、ダンス・ナンバーをスケッチでつないでいくという発想か。とにかく、話としては他愛ないし、理屈っぽく見ればご都合主義でさえある。
 それでも、 44年という時代の空気の中では、ロビンズの振付やバーンスタインの音楽の斬新さもあって、 OK だったのだ。と思う。
 それから 50余年。風俗部分が古びて目新しさがなくなった分、今回の舞台では、そうした脚本の弱さが露わになった。

 それを救うべき立場にあった新たな振付は、残念ながら並みの仕上がり。その場その場をこなすのみで、舞台全体をリフレッシュするほどの力はなかった。
 担当したキース・ヤング Keith Young は、プレイビルの経歴を読むと、もっぱら音楽畑の人で、これがブロードウェイ・デビュー。初演時の主要スタッフ 4人もブロードウェイ・デビューだったことを考えれば無謀な起用とは言えないが、結果を見るとやはり失敗だったと言わざるを得ない。

 巨大な橋のセットを生かすためだったのかもしれないが、ガーシュウィンという大きな劇場を選んだのもミスだったと思う。ここの舞台では、少々の人数を並べてもこぢんまり見えてしまうから。
 タクシー運転手役を快演したリー・デラリア Lea DeLaria のアクの強さすら、なんだか拡散していくようだった。

 演出のジョージ・C・ウルフ George C. Wolfe にとってはブロードウェイで初の挫折か。今春のオープンがアナウンスされた、オフでの彼の次回作ミュージカル『ワイルド・パーティ THE WILD PARTY』の情報が途切れたままなのが気になるところだ。

(4/30/1999)

Copyright ©1999 Masahiro‘Misoppa’ Mizuguchi

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