[ゆけむり通信Vol.32]

1/2/1999
『リトル・ミー LITTLE ME』


主演コンビが絶妙の再演作

 ブロードウェイ初登場の『グッバイ・ガール THE GOODBYE GIRL』(93年)が成功しなかったマーティン・ショート Martin Short。『ガイズ・アンド・ドールズ GUYS AND DOLLS』(92年)のトニー賞主演女優賞受賞以来パッとしなかったフェイス・プリンス Faith Prince。この 2人のキャスティングを(実際に決めたのはジム・カーナーン Jim Carnahan という人だが)考えたのは誰なんだろう。この組み合わせが決まった時、舞台の成功は約束された。そう思わせるほど、主演 2人の個性の絡みが絶妙なミュージカルだった(2月 7日までの限定公演)。

 『リトル・ミー』の初演は 1962年。スタンリー・グリーン Stanley Green の「Broadway Musicals SHOW BY SHOW」によれば、人気コメディアンであったシド・シーザー Sid Caesar のために書かれたという。
 どういうことかと言うと――。
 この物語は、“舞台と銀幕の大スター、ベル・ポワトリン”の回想録で、田舎の貧しい小娘だったベルが 7人の様々な男性に出会うことで人生の階段を上っていく、というもの。その 7人の男性すべてをシーザーが 1人で演じたら面白いだろう、というのが企画のスタートであったらしいのだ。
 様々な文献を読む限りでは、この目論見は当たったようで、上演回数こそ 257回と多くはないが、作品自体は成功作として評価されている。

 そして、その評価は、今回の舞台を観て充分に納得がいった。
 マーティン・ショートが、シーザーが演じたという 7役を演じ分ける、文字通り“七”面六臂の大活躍。 7人のキャラクターのそれぞれがいちいち面白く、おかしい。さらには驚くべき早変わりも見せ、さり気なく『シカゴ CHICAGO』の「All That Jazz」の振り真似も見せ(どちらもオリジナル振付がボブ・フォッシー Bob Fosse)、といった具合で、コメディアンとしてのパワー全開。
 僕の席は前の方の通路側だったのだが、 2幕の後半、ショートが通路から現れて、たまたま僕の真横で芝居をした。その時に感じたエネルギーのほとばしりは、こちらがひるむほど。どんなアドリブをかますかわからないから実は身構えながら観ていたことを告白しておこう(笑)。
 熱演だが空回り気味だった『グッバイ・ガール』の時と違って、ミュージカル舞台をすっかり自分のものにしているように見えた今回のマーティン・ショート。すでに若いとは言えない年齢だが、これからも楽しみだ。

 そのショートが生きた理由の 1つが、共演のベル役フェイス・プリンスにあるのは明らか。
 『ガイズ・アンド・ドールズ』で、あの悪達者と言ってもいいネイサン・レイン Nathan Lane を向こうに回して、“受け”の演技で彼を凌いだ不思議に可愛い存在感が、ここでも魅力を発揮。縦横無尽に動き回るショートを柔軟に受け止め、舞台に 1本芯を通した。
 ところで、こちらでも触れたように、 62年のオリジナル舞台ではベル役の女優は老若 2人いたのだが、今回はフェイス・プリンス 1人だけ(ちなみにタイトル曲「Little Me」は、オリジナルでは主演女優 2人によって終盤に歌われたが、今回は開演直後にプリンスが男性コーラスを従えて歌った)。同じメイクで年取ったベルも若いベルも演じて何の違和感もないところに、彼女の“不思議に可愛い存在感”が表れてもいるのだが、それはそれとして、この配役の最大の意図はやはり、ショートとプリンスとのバランスを同等にしようというところにあったと思う。放っておけばどこに飛んでいくかわからない空気の抜ける風船のようなショートの相手は、重かろうが軽かろうが丸かろうが四角かろうがスッと受け止めて瞬時に形を整えるウォーターベッドのようなプリンス 1人でなければならなかったのだ。
 しかし、この人の、うまそうに聞こえないけどうまい歌や、動けそうに見えないけど動けるダンスはいいなあ。

 珍しく役者の話から入ったので、舞台のイメージがつかめてないと思いますが(笑)、大雑把な印象を言うと、『クレイジー・フォー・ユー CRAZY FOR YOU』をギュッとコンパクトにした感じ。よけいわかんないか(笑)。
 ミュージカル・ナンバーとギャグの詰まった芝居部分とが隙間なく並んでいて、しかもミュージカル・ナンバーにもギャグがある。そういう舞台。
 脚本を担当したニール・サイモン Neil Simon の手腕が光る(サイモンの自伝には、彼がシーザーの 1人 7役を提案した、と書いてある)。今回も手を加えたんだろうな、きっと。なにしろベル役が 1人になってるんだし、曲の順序も一部入れ替わってるし。

 コンパクトな印象になるのは、舞台が広くないのとキャストが多くないためだが、すり鉢を縦に半分にした形の劇場の底にある半円状のこぢんまりした舞台を見事に生かした装置(デイヴィッド・ギャロ David Gallo)が、その規模の小ささをプラスの要素に転じている。
 白い舞台の背景を隠すように、やはり白い、高さ 3メートルぐらいの壁状の装置が舞台幅いっぱいに立っている。その中央部分は直径 2メートルほどの円柱状になっていて、装置全体は、ちょうど円形ホールを挟んで左右両翼を持つ邸の小型模型のように見える。
 両翼の平たい壁にはそれぞれに観音開きの扉があり、ドーナツ状に切られた床が、その左右 2つの扉部分を通る“動く円形歩道”として自在に回転する。この回転床に載って人や小道具が出入りすることで、場面が換わり、話が進んでいく。さらにもう 1つ、円柱部分の正面が、円周に沿って左右にスライドして開く扉になっていて、ここからも唐突に人や物が登場する。
 仕掛けは単純なのだが、何が出てくるかわからない楽しさに満ちているわけで、このビックリ箱的装置、限られた空間に多彩な印象を与え、しかもテンポのよい展開を促すのに大いに貢献した。同時に、主演のマーティン・ショートだけでなく、人数の関係から同じ役者が何役もこなさざるを得ないというマイナス要素を、あの役者は次はどこからどんな役で出てくるのだろう、という楽しみに昇華する役割も果たした。
 この真っ白な舞台に様々な表情を与えるプロジェクション(ジャン・ハートリー Jan Hartley)や照明(ケネス・ポスナー Kenneth Posner)の仕事ぶりも美しかった。

 トータルに言えば、主演 2人の扱いも含めて、演出(振付も)のロブ・マーシャル Rob Marshall が誉められるべきなのだろう。振付家としてよりも演出家としての彼の方が楽しみに思える、と言ったら失礼だろうか。

 しかし、この作品は楽曲が素晴らしい(作曲サイ・コールマン Cy Coleman、作詞キャロライン・リー Carolyn Leigh)。成功作の多いコールマンの作品の中でも、粒ぞろいという点では最高なんじゃないかという気がする。

 主演の 2人以外の役者では、ブルックス・アシュマンスカス Brooks Ashmanskas、ピーター・ベンスン Peter Benson、マイケル・マッグラス Michael McGrath、クリスティン・ペディ Christine Pedi らが数役をこなして大活躍だったが、彼らを抑えて、ハイライト・ナンバー「I've Got Your Number」を歌い踊ったマイケル・パーク Michael Park が目立った。
 個人的には、ベルの母役と、ベルの最初の夫になるはずだった相手の母役(結婚を妨害)を演じたルース・ウィリアムスン Ruth Williamson(『ガイズ・アンド・ドールズ』でプリンスと共演)と再会出来たのがうれしい。どうも僕は、美人じゃない人の妙な色気ってのが好きなようです。

「書いては書き直し REWRITES」酒井洋子訳(早川書房)

(2/8/1999)

Copyright ©1999 Masahiro‘Misoppa’ Mizuguchi

[ゆけむり通信Vol.32 INDEX]


[HOME]