[ゆけむり通信Vol.32]

1/5/1999
『フォッシー FOSSE』


主人公不在のダンスの饗宴

 『シカゴ CHICAGO』の大ヒットで再び脚光を浴びている故ボブ・フォッシー Bob Fosse。彼が振り付けた、いわゆる“フォッシー・スタイル”のダンスが次から次へと登場する『フォッシー』は、予備知識がなくてもレヴェルの高いダンスを楽しめるし、オリジナルをなんらかの形で知っていれば 2度おいしい、一見の価値ありのショウ。
 なのだが、まだプレヴュー(オープン 1月 14日)だったせいか、ダンサーに若干のミスがあった。
 そしてもう 1つ、ショウ全体の求心力の弱さを感じたのも事実だ。

 共同原案・再生振付というクレジットでプレイビルに載っているチェット・ウォーカー Chet Walker の紹介記事によると、ウォーカーは 1986年、生前のボブ・フォッシーその人と共に、『フォッシー』の構想を最初に練ったという。
 1986年と言えば、死の前年。フォッシーが『ビッグ・ディール BIG DEAL』のトライアウトで苦戦していた頃だ。
 その時に考えていたショウのコンセプトが、今回と同じように自身の振付家キャリアの集大成的なものだったとしたら、死を予感していたということかもしれない。
 ともあれ、そのチェット・ウォーカー、『エイント・ミスビヘイヴン AIN'T MISBEHAVIN'』の原案・演出や『ミス・サイゴン MISS SAIGON』『ビッグ BIG』などの作詞を手がけたリチャード・モルトビー・ジュニア Richard Maltby, Jr.(演出・共同原案)、フォッシーの愛弟子だったアン・ラインキング Ann Leinking(共同原案・共同振付・共同演出)、未亡人グウェン・ヴァードン Gwen Verdon (芸術監修)といった面々は、亡きフォッシーへのリスペクトを胸に、その未完の“遺作”を練り上げ、絶妙のタイミングでブロードウェイに送り込んだ。

 プレイビルで見る限り、再現されているダンス・ナンバーで最も古いのは、 53年の映画『キス・ミー・ケイト KISS ME, KATE』の「From This Moments On」(映画でのフォッシーの初振付シーンとして知られる)だが、これより古い年代が記されているのが、映画『イースター・パレード EASTER PARADE』で知られる「I Love a Piano」に乗せたダンス。このナンバーのダンスの要素は様々な TVショウに出演した時のフォッシー(一部、最初の妻ナイルズとのデュオ)からインスパイアされたものだ、と書かれているから、変則ではあるが、これも“再現”と言えば言えるのか。その TVショウの最も古いものが 49年。
 そこから数えて、最後のブロードウェイ作品となった 86年の『ビッグ・ディール』まで 38年。フォッシーの放ってきたヒットは数多く、しかも、舞台、映画、 TV と多岐にわたる。
 が、こうしてズラリと並べられると、やはりハイライトになるのは、「Steam Heat」(『パジャマ・ゲーム THE PAJAMA GAME』)であり、「Big Spender」(『スウィート・チャリティ SWEET CHARITY』)であったりする。

 ここで 1つ、仮説を提出しておく。

 ボブ・フォッシーのダンスは、緩い構成のドラマをまとめ上げる時に最も力を発揮するのではないか。

 オリジナルの舞台を 1本も生で観たことのない僕が、こんなことを訳知り顔で言うのはおこがましいのだが、ご容赦いただきたい。
 しかも、その論証は来月の再見後までお預け。平に、平ににご容赦を(笑)。

 ただ、今の段階で言えるのは、『フォッシー』の求心力の弱さは物語性のなさから来ているのではないか、ということ。
 例えば『ジェローム・ロビンズ・ブロードウェイ JEROME ROBBINS' BROADWAY』のように、水先案内人であるナレーターが登場すれば、かなり印象が違ったものになるはず。
 しかし、そうした明快で、ある意味安易な道を、この舞台のスタッフは選びたくなかったのだろうという気はする。
 ジェローム・ロビンズはフォッシーの才能にチャンスを与えた先達で、共に手がけた舞台もあるくらいだが、ロビンズの作品に比べると、フォッシーの作品群は、時代の違いもあるが、より混沌としているように見える。そうした空気が、今回の『フォッシー』からも漂ってくる。

 ともあれ、もう 1度、観る。
 「3度観たが、どんどんよくなった」と、生のフォッシー作品をずっと観てきた大平和登氏が言っているのだから。

(4/21/1999)

※次回の同演目観劇記はこちら

Copyright ©1999 Masahiro‘Misoppa’ Mizuguchi

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