[ゆけむり通信Vol.31]

10/1/1998
『キャバレー CABARET』


災厄の後の新キャスト

前回の観劇記は、こちらをご覧ください。

 近隣のビルの事故(工事用に外壁に設置されていたエレヴェーターが倒れた)で一帯が封鎖されたため、一時公演を中止せざるを得なかった『キャバレー』
 無事に再開したものの、すでに主要オリジナル・キャストの内、トニー賞で主演女優賞を獲ったナターシャ・リチャードソン Natasha Richardson、個人的には最も強い感銘を受けたメアリー・ルイーズ・ウィルソン Mary Louise Wilson が去り、主演男優賞受賞のアラン・カミング Alan Cumming は休暇中。助演男優賞のロン・リフキン Ron Rifkin と、アメリカ人ブラッドショウ役のジョン・ベンジャミン・ヒッキー John Benjamin Hickey だけが残っていた。
 そんなわけで、今回は、替わったキャストの話を。

 アラン・カミングの代役という(注目度も高いが)リスクの大きい役を引き受けたのは、同じラウンダバウト劇場製作のストレート・プレイ『サイド・マン SIDE MAN』の主役だったロバート・セラ Robert Sella。
 93年のリヴァイヴァル『マイ・フェア・レイディ MY FAIR LADY』でイライザに恋するフレディを演じていたことからもわかるように、素顔(って文字通りの顔のこと。性格までは知りません)は穏やかな好青年。それが、短く刈り込んだ髪を金髪に染め、エキセントリックなメイクを施して、怪しいエムシーになりきる。
 表情や動きはカミングのイメージそのままで、違和感はない。演技も歌も確かで、そういう意味では全く問題ない。
 が、あのカミングの、爬虫類的なと言うか血の滴るようなと言うか、そういう生々しさは、セラにはさすがにない。そして、どちらかと言えばアンダーグラウンドな印象の強いこの舞台にあっては、その微妙に危ない感じというのがけっこう重要なのかもしれない。
 カミング降板後のキャスティングが舞台の命運を握っていそうだ。

 ナターシャ・リチャードソンの替わりにサリー・ボウルズを演じたのは、映画畑のジェニファ・ジェイソン・リー Jennifer Jason Leigh。
 リチャードソンが、線の細い、根は純情なイギリス娘を、ほどほどの成熟感も漂わせながら演じたのに対して、リーのサリーは、小娘という印象。何にもわかってないのにわかってるつもりで、でも不安だから突っ張って、そうした緊張感に耐えられない精神がしだいにボロボロになっていく、そんな小娘。
 だから、エムシー役と違って、こちらは別のキャラクターを作り上げた感じ。それはそれで面白かった。
 ただし歌は、リチャードソンとは別の形でヘタ。でもまあ、たかだかキット・カット・クラブの歌手なんだからヘタでもおかしかないよ、と友人矢崎に言ったら、劇中の設定としてはそうだがプロの舞台としての水準てものがあってしかるべきだろう、という意味のことを言われた。もっともだ。

 メアリー・ルイーズ・ウィルソンと入れ替わったのは、ブレア・ブラウン Blair Brown。
 経歴を見るとミュージカルの人ではないようだが、歌も立派。ただ、前述したように僕にはウィルソンの印象が強かったので、無難という風にしか思わなかった。

 前回は 2階席(メザニン)だったので気づかなかったことが 1つ。
 ご存知のように『キャバレー』の劇場、 1階はほとんどがテーブル席なのだが、そこには 1つずつランプが置かれている。このランプ、ただの雰囲気作りではなかった。
 ステージ上がキット・カット・クラブのショウになる時に灯り(つまり客席はキット・カット・クラブの客席になり)、芝居になる時には消えるのだ。
 劇場を改造した意味が、よりはっきり見えた。

 それにしても観客の年齢層が高い。おまけに“観光客度”も高いように感じた。
 劇場を移転してどうなるのかわからないが、この先、公演はあまり長くは続かないんじゃないだろうか。未見の方はお早めに。

(11/28/1998)

Copyright ©1998 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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