[ゆけむり通信Vol.30]

6/14/1998
『ウィンド・イン・ザ・ウィロウズ THE WIND IN THE WILLOWS』


ニューヨークの子供がうらやましい

 ニュー・ヴィクトリー劇場は、再開発されつつある“新”42丁目に最初にオープンした、子供向けの作品専用の劇場で、小振りだが落ち着いた雰囲気を持っている。
 Tシャツを着た若い案内係はヴォランティアだろうか。小さい子供用に、座席の上に置いて座高を高くするためのクッションがロビーの隅の棚に並べてあって、必要な人は各自持っていくようになっている、というアイディアに感心する。

 そこで上演されていたのが、『ウィンド・イン・ザ・ウィロウズ』。ことさら子供向けという印象はなく、充分に楽しんだ。

 原作は、スコットランドの作家ケネス・グレアム Kenneth Graham (1859-1932)が自分の息子のために書いたという同名の小説。そのせいか、アメリカ産のホラ話とはひと味違う。なんか、実人生の匂いがしてホロ苦い。

 舞台はスコットランド(なんでしょう、たぶん)の、柳の生い茂る河岸とその周辺の田園地帯。
 そこでのどかに暮らすモグラ、ネズミ、アナグマ、そこに少しばかりエキセントリックなヒキガエルが加わって物語は展開していくのだが、彼らの擬人化のされ方は、『ライオン・キング THE LION KING』の場合と違って半端じゃない。服を着ているだけでなく、ボートを漕いだり、自動車に乗ったり、果ては法廷に引きずり出されて人間の判事の裁きを受けたりもする。

 以前 TV で、ミュージカルではないアニメとして、この物語がオンエアされているのを観たことがあるのだが、その法廷に被告として立つことになるヒキガエルが、すごく自己中心的でイヤなやつとして描かれていた(そもそもヒキガエル toad という英語には“いけすかないやつ”という意味がある)。そのため、全体に陰鬱な印象を受けた覚えがある(絵柄の問題もあったのだが)。
 しかし、少なくともこのミュージカルにおいては違った。
 ヒキガエルのせいでみんなが大騒ぎに巻き込まれるという話自体は同じなのだが、騒ぎを起こす裏には、彼の寂しがり屋で繊細な素顔が垣間見えて、愛嬌すら感じるようになる。話の中心となるヒキガエルが、そんな魅力的なキャラクターとして描かれていたので、ホロ苦いのはホロ苦いが楽天的な空気が漂う、なごやかな舞台に仕上がっていた。

 見どころは、アンサンブル(イタチたち、あるいはその他の動物たち)のダンス・シーン(振付/アンソニー・サラティーノ Anthony Salatino)。
 特に、まるで川の精か何かのように無言で柳の葉陰に隠れながらヒョコヒョコと奇妙な動きを見せていたイタチたちが、自分たちだけになった時に見せた、野性を感じさせるワイルドでシャープなダンスは印象的だった。

 楽曲はオーソドックスなスタイルで、きっちりと歌い上げるものが多かったが、残念ながらあまり記憶に残っていない。
 いつもの観劇パターンと異なるこの時間(正午開演)、こちらがまだ集中力を欠いていたのかもしれない。

 魅力的だったのが、装置(ボーワルフ・ボリット Beowulf Borritt)。
 川に覆いかぶさるように垂れ下がっている柳の葉を表現するのが、天井から床にこすれるように何本も吊り下げられた大きな吹き流し状の円筒形の布で、柳に見えるよう全体に緑色の細かい短冊状の布を貼り付けてある。その揺らぎ方や重みが、柳の葉の鬱蒼とした感じを出していて見事。
 おまけに、そいつを、なんだか黒子のような動きをするイタチたちが引っぱって動かし、舞台の印象を変化させてみせるのも効果的。
 ボートや馬車や自動車も、抽象と具象の境目に立つような絶妙なデザイン。しかも決してチープじゃない。

 そう。装置のみならず、どこを取ってもチープじゃない。普通のロングラン作品と同じ水準を目指している。子供向けとは言え、ブロードウェイ劇場街のど真ん中で上演するにふさわしい質の高さだった。
 作ったのは、シラキュース・ステージ Syracuse Stage という非営利の組織で、シラキュース大学演劇学部が協力(案内係は彼らか?)。
 こんな舞台を気軽に観られるニューヨークの子供たちが、本気でうらやましくなった。

 ところで、この作品についてのデータを持っていないのでオリジナルが何年にどこで上演されたのかわからないのだが、クレジットを見ると、作曲・作詞のダイアン・アダムズ・マクドウェル Dianne Adams McDowell とジェイムズ・マクドウェル James McDowell (夫妻?)は2人ともアメリカ人のようだから、原作と違ってミュージカルはアメリカ産なのかもしれない。
 クレジットには他に、脚色・作詞で、今回演出を振付のサラティーノと共同で手がけているジェラルディン・クラーク Gerardine Clark の名前が書かれているが、それが今回の舞台に関するものなのかオリジナルからのものなのかはわからない。
 この辺、調べてみますが、情報お持ちの方がいらしたら、ぜひご教示ください。よろしく。

(8/1/1998)

 「ブロードウェイ PART2」大平和登(作品社)によれば、この作品の世界初演は 1983年 7月 26日、ワシントンのフォルジャー劇場において、ということなのだが、……楽曲作者、脚本家が別人だ! 別物なのか?
 謎が増えてしまったぞ。

(8/18/1998)

 ロンドン初演は 1990年 12月であることが判明。ところが、またまた楽曲作者が別人。
 いくつものヴァージョンがあるということか???

(8/30/1998)

Copyright ©1998 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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