[ゆけむり通信Vol.30]

6/14/1998
『スウィート・チャリティ ザ・コンサート
SWEET CHARITY The Concert』


初夏の夜の夢

 日本のボクシングのリング・アナウンサー風に言えば、今回の“メーン・エベント”。これを観たくてニューヨークまで飛んだ。
 エイズのための 2つの基金、American Foundation for AIDS ResearchBroadway Cares / Equity Fights AIDS の募金を目的とした“チャリティ”のための『スウィート・チャリティ ザ・コンサート』
 たった 1回だけ行なわれたこの特別公演は、“初夏の夜の夢”。舞台上には“超”を付けても大げさじゃない豪華出演者がズラリとそろって、素晴らしい芸を披露してくれた。

 1966年に開幕したオリジナルの『スウィート・チャリティ』は、演出・振付を手がけたボブ・フォッシー Bob Fosse が、出産休養明けの妻グウェン・ヴァードン Gwen Verdon のために企画したミュージカルだと言われている。作曲サイ・コールマン Cy Coleman、作詞ドロシー・フィールズ Dorothy Fields、脚本ニール・サイモン Neil Simon。油の乗り切ったスタッフとヴァードンの好演で愛すべき作品に仕上がった(っつっても、もちろんその舞台は未見だが)。
 アラン・ジェイ・ラーナー Alan Jay Lerner の「ミュージカル物語」によれば、 [一九六五-六年のヒット作はたった三本だけ] で、608回の上演を数えた『スウィート・チャリティ』は 3つ目として挙げられている。
 ちなみに、残る 2つは『ラ・マンチャの男 MAN OF LA MANCHA』『メイム MAME』で、それぞれ 60年代で 3番目と 5番目のロングランを記録するメガ・ヒットだった(振付のフォッシー以外、トニー賞はこの2作が独占)。

 ストーリーは、フェデリコ・フェリーニ Federico Fellini 監督映画『カビリアの夜 NIGHTS OF CABIRIA』の舞台をニューヨークに移し替えたもので、主人公のチャリティは、男の客の相手をして踊るボールルームのダンサー(「Ten Cents a Dance」の世界ですね)。いつか今の暮らしから抜け出そうと思っているが、気のいい彼女は今日も男にだまされ、金だけ盗られてセントラル・パークの池に突き落とされる。ところが、偶然有名映画スターと知り合ったあたりから運勢が上向いてきて、堅気の青年オスカーと恋に落ちる。プロポーズされたチャリティは、ダンサー仲間から祝福されて結婚届けを出しに行くが、彼女の職業を知ったオスカーは最後になって後込みしてしまい、全てはご破算になる。それでもチャリティは気を取り直して、また生きていこうと自分を励ます。

 コンサート形式の上演というのは、要するに、装置を簡略化して芝居はセリフのやりとりに留め、歌を中心に進めていく舞台で、同じリンカーン・センターで行なわれたスティーヴン・ソンダイム Stephen Sondheim の『フォリーズ FOLLIES』コンサート版をヴィデオでご覧になった方はイメージがわかるかと思う。
 ステージにはドーンとフル・オーケストラがいて、演技は舞台の前方でのみ行なわれる(やはりコンサート形式のリヴァイヴァルとしてシティ・センター“アンコールズ!”シリーズに登場した『シカゴ CHICAGO』のセットも、そこから発想されているはず)。
 まずは、そのフル・オーケストラを従えて、リスペクトの大きな拍手の中登場したサイ・コールマンが、ピアノで前奏曲を演奏して舞台は幕を開ける(幕はないが)。

 で、物語が始まって、冒頭、前述したようにチャリティは池に突き落とされる形で舞台下に落ちるのだが、再び舞台に這い上がってきた時に、アレッと思う。なんだかひと回り大きくなっている!?
 って、早い話、人が入れ替わっているのです。

 実は、チャリティを演じる女優は、 5人! もいるのであります。

 その顔ぶれは――、デビー・アレン Debbie Allen、ドナ・マケクニー Donna McKechnie、ビビ・ニューワース Bebe Neuwirth、チタ・リヴェラ Chita Rivera、そしてグウェン・ヴァードンで、全員がチャリティ役経験者。
 アレンが演じたのはトニーのリヴァイヴァル作品賞を獲った 86年版。マケクニーはフォッシー最後のプロダクションとなった 87年の国内ツアー版。ニューワースが演じたのは地方公演版だが、アレンがチャリティ役の 86年ブロードウェイ版でダンサー仲間ニッキーを演じてトニー賞獲得。リヴェラもチャリティを演じたのはツアーだが、69年のシャーリー・マクレイン Shirley MacLaine 主演の映画版でニッキーを演じているのはご存知の通り。
 そんな流れからか、ニューワースとリヴェラは今回ニッキー役も受け持っているが、さらにニューワースはやはりダンサー仲間のヘレンまでも演じるという大車輪(ということはつまり、“あの”「Big Spender」のダンサーの列にビビとチタの両方がいる!)。
 とにかくこの個性豊かなスター女優 5人が、入れ替わり立ち替わりチャリティとして登場して、歌い踊るわけだが、時には複数のチャリティが同時に舞台上で踊ったりもするというサーヴィス振り。しかも、見せ場の 1つである、チャリティ、ヘレン、ニッキーが 3人で踊る「There's Gotta Be Something Better Than This」の場面でも結局はチャリティ役 3人が踊っているわけで、もう何と言うか、お祭り状態だ。

 しかし、そんな中でもグエン・ヴァードンはスペシャルな存在。もちろん観ている側の思い入れもあるのだが、いくら年を取ってもやっぱりこの人こそがチャリティだ、というオリジナルの輝きは失われていない。
 ヴァードンが登場したのは第1幕も中盤過ぎ。映画スターの部屋で歌う「If My Friends Could See Me Now」のシーン。
 もちろん出てくるだけで客席は大騒ぎ。おなじみの歌を歌い終わった時も、拍手拍手拍手なのだが、その歌の後、映画スターの恋人が戻ってきてチャリティはクローゼットに隠れる。ところが、セットがキャスター付きの簡易なものだったため、ちょっと寄りかかる形になった時にズルズル動いて、クローゼットの向きが変わってしまった。よろけるヴァードン。が、潜んでいるのがバレては大変とばかりに、すぐにクローゼットのセットごと元の位置に引き寄せて、何事もなかったようにドア越しに耳を澄ませてみせる。それがまたユーモラスで、劇場は笑いの渦。彼女ならではの一景だった。

 チャリティ役同様複数のキャストがいるのがオスカー役。ジム・デイル Jim Dale、ジョン・マクマーティン John McMartin、ブライアン・ストークス・ミッチェル Brian Stokes Mitchell の 3人が登場する。
 こちらは、経験者はマクマーティンのみ。オリジナル舞台及び映画版でオスカーを演じている。デイルはおそらく、サイ・コールマン作曲のミュージカル『バーナム BARNUM』の主役だったことからの起用だろう。ミッチェルは作品を通じての関係は見当たらないが、とりあえず今シーズン最も旬なミュージカル男優(『ラグタイム RAGTIME』)の 1人であることは間違いない。

 さて、残りの主な出演者を挙げてみよう。

 ヒントン・バトル Hinton Battle。ベティ・バックリー Betty Buckley。ドム・デルイーズ Dom DeLuise。ウーピー・ゴールドバーグ Whoopi Goldberg。ロバート・グーレ Robert Goulet。チャールズ・ネルソン・ライリー Charles Nelson Reilly。メリサ・トメイ Marisa Tomei。 6月 7日にクローズした『ザ・ライフ THE LIFE』(90年代の『スウィート・チャリティ』?)から、チャック・クーパー Chuck Cooper、パメラ・アイザックス Pamela Isaacs、リリアス・ホワイト Lillias White。
 アンサンブルには、その『ザ・ライフ』を中心に、『シカゴ』『ラグタイム』など進行中の舞台からも多数が参加。コッチ、ディンキンズという 2人の元市長が顔を出すのはご愛敬としても、ヴァードンやマクマーティン同様オリジナル・キャストだったという人もいたりして、なんだかすごい。おまけに、ザ・ブロードウェイ・ゴスペル・クワイア The Broadway Gospel Choir という大人数のコーラス隊も登場する。

 怪しげな教祖として大コーラスをバックに「Rhythm of Life」で快演を見せるバトルや、渋いスター俳優に扮して「Too Many Tomorrows」を甘く歌うグーレ、『ザ・ライフ』での役柄そのままに「Baby Dream Your Dream」をデュエットするアイザックスとホワイトのコンビも印象に残ったが、なんだかんだでこれまで出会えなかったベティ・バックリーにいちばん感銘を受けた。
 彼女、ソロではなく、「I Love to Cry at Wedding」で、デルイーズにハーモニーを付けるような形で歌うだけなのだが、その生声(っつっても PA 通してますが)の魅力たるや、さすが、のひと言。大したもんです。
 場面としては、前述した「Big Spender」、そして、フォッシーの振付の技が最も発揮される無言のダンス・シーン「Rich Man's Frug」がやはり見もの。前者は、『ザ・ライフ』のキャストを中心にしたダンサー陣が大人数でズラリと並び、デリケートさにはやや欠けるきらいはあったもののコッテリした迫力があって、客席からは感嘆の笑いを含んだ叫声が起こるほどだった。逆に後者は、緻密な振りを長時間にわたって繰り広げるナンバーで、神経症的な集団の動きが、今の目で観ても刺激的。こういう部分があるから、決してナツメロ的な舞台にならないのだ。

 それにしても、これだけの大人数をきちんと捌いていく演出は見事(ジョン・ボワブ John Bowab)。振付の再現(キャスリン・ドビー Kathryn Doby)と合わせて、拍手を送りたい。まとめ上げるに際しては、ヴァードンの尽力もずいぶんあったようだが。

 しかし、幸福な気持ちで劇場を去りながら思うのは、 1回きりのチャリティのためにこれだけのキャストとスタッフが集まり、お祭り気分とは言え質的にも充実した舞台を作り上げるブロードウェイ・ミュージカル界ってなんて素晴らしいんだろう、ということだ。ここには、ミュージカルに対する愛情と誇りと志と実力が全てある。
 こんな時には、ホントにアメリカ人に生まれたかったと思ってしまいますです、ハイ。

(8/17/1998)

Copyright ©1998 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

[ゆけむり通信Vol.30 INDEX]


[HOME]