[ゆけむり通信Vol.29]

3/18/1998
『サウンド・オブ・ミュージック THE SOUND OF MUSIC』


スノウボールの中のザルツブルク

※お手数ですが、まず東京版の観劇記を先にお読みください。

 ステージに下ろされた幕には天使たちが描かれている。その天使たちに支えられるように、幕の中央には大きなスノウボールが浮かび、ガラス球の中には背後にアルプスを頂くザルツブルクの街が見える。
 スノウボールの雪が舞い始めると劇場の灯が落ち、『サウンド・オブ・ミュージック』の幕が上がる。
 そこに出現するのはスノウボールの中の世界。緩やかに内側に弧を描きながら両袖に重層的にそそり立つ、アルプスの山々を思わせる絵の描かれたボード群によって、舞台はガラス球に覆われている印象を与えられている。
 その意図は、1つには幕のスノウボールに描かれた絵によってザルツブルクという街の景観というか地理的特徴をあらかじめ見せておくことにあるだろう。そして、もう1つは半世紀以上昔の話であるという距離感の設定ではないだろうか。

 ブロードウェイ版リヴァイヴァルの『サウンド・オブ・ミュージック』は、そのように美しく巧みなセット(ハイディ・エッティンガー[旧姓ランデスマン] Heidi Ettinger[Landesman])に彩られた、上品な工芸品の手触りを持つ完成度の高い舞台に仕上がっている。
 主要スタッフの何人かが『秘密の花園 THE SECRET GARDEN』と重なっていると言えば、雰囲気をわかってくださる方もいるかもしれない。

 今回のリヴァイヴァル、楽曲はオリジナル舞台版+映画版、構成はオリジナル舞台版に準じるという変則のスタイル。したがって、修道院からトラップ家に向かう時にマリアは「I Have Confidence(in Me)」を歌うが、子供たちに紹介されてすぐに「Do-Re-Mi」も歌う。ただ、構成がオリジナルに準じているわけだから、印象は東京 98年の山田和也版に近い。オープニングも、マリアの歌うテーマ曲ではなく教会のコーラスだし。
 だが、そのオープニングのコーラスが終わらない内に聞き慣れた「The Sound of Music」のイントロが流れ始め、教会のセットが左右にはけて高原が姿を見せるに及んで、彼我のミュージカルのリズム感の違いを見せつけられる。
 宮本亜門が映画版に準じた演出を試みた最大の理由は、あの印象的な高原でのオープニングを舞台的に再現したかったということだと思う。確かに、オリジナル舞台版のように教会から始まると、次に来るマリアの登場のインパクトが(映画を観た目には)弱くなる。山田版でも、教会のシーンが一旦終わって、改めまして、という感じでマリアが登場するのでノリが悪い。
 そのハードルを、今回のブロードウェイ版は、前の曲の後ろに次の曲の頭を重ねるという大胆な編集感覚で軽々とクリアしてみせたわけだ。
 しかも、そのアイディアによって、テンポがよくなっただけでなく、暗い教会から明るい高原への転換の鮮やかさというプラスの効果も生まれ、マリア登場の印象が際立った(演出 / スーザン・H・シュルマン Susan H. Schulman)。
 これを僕は演出上のリズム感だと考えるのだが、とにかく一瞬たりともダレさせまいという強力な意志を感じて、ただただ頭が下がる。しかし、気まぐれなブロードウェイの観客を相手の真剣勝負であってみれば、欠かすことの出来ない戦略でもあるわけだ。

 そのようにキリッと締まった舞台でマリアを演じるのは、歌のうまさには定評のあるレベッカ・ルーカー Rebecca Luker。『オペラ座の怪人 THE PHANTOM OF THE OPERA』のクリスティーンはともかく、『秘密の花園 THE SECRET GARDEN』のリリー、94年リヴァイヴァル『ショウ・ボート SHOW BOAT』のマグノリアと、ブロードウェイではオリジナル・キャストで主役を演じてきている。演目からわかるように硬いイメージの役が多く、今回もその延長線上で、おそらくジュリー・アンドリュース Julie Andrews を意識してのキャスティングだと思われるが、映画版のイメージに負けることなく見事に大役をこなしている。
 トラップ大佐役のマイケル・シベリー Michael Siberry はロイヤル・シェイクスピア・カンパニーのメンバー。芝居好きの人には知られてるんじゃないでしょうか。柄といい演技力といい歌といい申し分なし。
 これ以上特筆しないが、キャストがとにかくうまい。子供たちの歌のうまさなんて、思わずうなってしまうほど。

 演目的には安全パイとも言えるリヴァイヴァルではあるが、贅肉をそぎ落とした演出、魅惑的な装置、そしてブロードウェイの底力を見せつける上質のキャストによって、50年代の“超”名作はスノウボールの中に見事によみがえった。

 余談ですが、僕が映画版を観たのは小6か中1ぐらいだった。もちろん感動しました。が、今ヴィデオで見直してみると、ちょっとドラマ部分がかったるい。それに、こんなに長くなくてもいいんじゃないかと思う。インターミッション付きだったなんて忘れてた。簡潔な舞台版を観た後だと余計にそう思う。
 そう思いながらも、要所要所では感動してしまうんですね(笑)。やっぱ歌の力でしょう。

(5/1/1998)

Copyright ©1998 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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