[ゆけむり通信Vol.28]

12/10/1997
『トライアンフ・オブ・ラヴ TRIUMPH OF LOVE』


寓話ミュージカル受難の時代

 プレヴュー・オープン前後からプレイビルオンラインのメンバー宛に40%ディスカウント情報が送られてきていたから、チケットの売れ行きが悪いことはわかっていた。
 ベティ・バックリー Betty Buckley というスターがいながらこの状況というのは、よほど内容が悪いのか。不安がよぎる。そう言えば、ブロードウェイ入り前まではストレート・プレイだったのに、ニューヨークに来るにあたって楽曲を加えてミュージカルにしたという話も聞いていた。

 そんなわけで恐る恐る客席に着いたが、なかなかの完成度。
 どうやら不入りの原因はニューヨーク・タイムズの酷評にあるらしい。そんなにお姫様がお嫌いか、ニューヨーク・タイムズ。『ワンス・アポン・ア・マットレス ONCE UPON A MATTRESS』に続いて、またまた寓話的お姫さまミュージカルの息の根を止めてしまうのか。

 ところは隠棲する哲学者ハーモクラテスの庭。18世紀グレコフレンチ様式に刈り込み装飾された植木が迷路を作っている。
 住んでいるのは、若き学究の徒アギス、叔父ハーモクラテス、叔母ヘシオン、それに従者ハーレクイン、庭師ディマ。そこにやって来るのが、男に扮装した、スパルタ王国の姫レオニドとその侍女コリン。
 愛の不毛を説く叔父叔母の下で純粋培養されたアギスを救うため、レオニドはハーモクラテスとヘシオンを、コリンはハーレクインとディマを、あの手この手で口説いていく。

 ――という、出演者7人の、寓話的で、艶笑とまでは行かないがちょっとエッチな香りのコメディ。元は、17〜18世紀のフランスの劇作家・小説家マリボー Marivaux の戯曲。
 哲学の衣装をまとってはいるが、本質は、『ローマで起こった奇妙な出来事 A FUNNY THING HAPPENED ON THE WAY TO THE FORUM』『スカパン SCAPIN』と同じ。計略を持った人間の周りに入れ替わり立ち替わり人が現れることで生まれる誤解の喜劇だ。

 シンプルだけれども考え抜かれた装置が、まず楽しい。
 舞台中央に小さな円卓(自動的に下がって見えなくなる)。それを後ろから囲い込むように半円状に2層に並んだ庭石(自動的に上下動)。その外側に、人の背より少し高い壁(中央から左右に分かれて動き、左右それぞれに2つずつドアが付いている)。遠景に“18世紀グレコフレンチ様式に刈り込み装飾された”(!?) 植木(ディマがどんどん刈り取っていく)。舞台の額部分には左右に2つずつ窓。
 この装置のあちこちから、登場人物が現れては消える。あるいは人のやりとりを、こっそりのぞいていたりする。
 視覚的にも楽しいと同時に、装置の動きと役者の出入りのタイミングも絶妙で、芸だなあと思う。

 登場する7人のキャラクターもしっかり描き込まれていて面白いし、役者も達者。楽曲(作曲ジェフリー・ストック Jeffrey Stock / 作詞スーザン・バークンヘッド Susan Birkenhead)もクラシカルなものとジャジーなものの使い分けなどうまく、ストレート・プレイに後からくっつけたとは思えない仕上がり。
 なのに、なぜ不評だったか。

 ひとつには、テーマというか素材となっている恋愛談義の扱いに“今の時代”の要素が乏しく、まどろっこしく感じられることが挙げられる。
 もうひとつは、スピード感の欠如、か。例えば『スカパン』などに比べればかなりおっとりした雰囲気で、よく出来てはいるが、コメディとしてはもの足りなさが残るのも確か。
 ニューヨーク・タイムズの記事は読んでないのでわからないが、僕が注文をつけるとすれば、そのあたりだろう。

 前述したように役者はみなうまいが、ヴォードヴィル的な軽やかな動きを見せるハーレクイン役ロジャー・バート Roger Bart、開けっぴろげな侍女役ナンシー・オペル Nancy Opel、不機嫌な庭師役ケヴィン・チャンバーリン Kevin Chamberlin のコンビネーションが楽しかった。
 ちなみに、レオニド姫役スーザン・イーガン Susan Egan は『美女と野獣 BEAUTY AND THE BEAST』のオリジナルのベル役者。

 ところで、この日、ベティ・バックリーが出なかった。
 水曜マティネーだったからその可能性は高かったのだが、 MiL の宮城夫妻の場合は2度観て2度とも彼女に代役が立っていたという。ニューヨーク・タイムズの劇評が悪かったということもあるだろうが、やはりここは起死回生をねらって、看板女優としてめいっぱいがんばってほしかった気がする。
 残念。

 そんなわけで、この舞台、ちょうど今頃ニューヨークで最後の公演を行なっているはずだ。

(1/5/1998)

Copyright ©1998 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

[ゆけむり通信Vol.28 INDEX]


[HOME]