[ゆけむり通信Vol.28]

12/12/1997
『サイド・ショウ SIDE SHOW』


誇り高きミュージカル、散る

 『ドリームガールズ DREAMGIRLS』『タップ・ダンス・キッド THE TAP DANCE KID』をヒットさせた作曲家ヘンリー・クリーガー Henry Krieger が、満を持してブロードウェイ公開したミュージカルが『サイド・ショウ』
 トッド・ブラウニング Tod Browning の映画『フリークス FREAKS』に出演したことでも知られる実在のシャム双生児ヒルトン姉妹を主人公にして、挑戦的な、質の高い舞台を作り上げた。

 1920代のアメリカ。
 “フリーク・ショウ”で見せ物扱いされていたデイジーとヴァイオレットのヒルトン姉妹は、バディという男に見出され、プロモーターであるジェフによってヴォードヴィルの世界に引き抜かれる。その可憐さと歌のうまさで人気を得、ブロードウェイのショウにも出演して大きな成功を収めた2人は、それぞれジェフとバディに恋していた。
 男たちも彼女たちを愛しており、楽天的なバディはヴァイオレットにプロポーズする。不安がるヴァイオレットだが、デイジーの勧めもあって承諾。公開の2組合同結婚式をやろうとバディは盛り上がるが、ジェフの態度は煮え切らない。愛は愛として、やはりシャム双生児との結婚生活には二の足を踏むのだ。
 それぞれに葛藤を抱えながら、4人は結婚式当日を迎えるが、ヒルトン姉妹をフリーク・ショウ時代から陰で支えてきたジェイクがヴァイオレットへの愛を告白しながら2人の元を去っていったのが引き金になり、今度はバディが弱気になって、自分はヴァイオレットには相応しくないと言い始める。
 そこに MGM からトッド・ブラウニングが映画出演の話を持ってやって来る。結婚で話題が沸騰するヒルトン姉妹の人気をお借りしたい、と。
 それなら私たちが結婚しましょう、とデイジーはジェフに持ちかける。人々はシャム双生児の結婚に興味があるだけで、どっちが結婚するかなんて気にしちゃいないんだから、と。
 で、ミスター・ブラウニング、その映画のタイトルは?
 『フリークス』!

 これまで舞台では誰も描いてこなかったショウ・ビジネス世界の知られざる部分にスポットライトを当てた、文字通りのバック・ステージ・ミュージカル。
 根底に大衆に対する厳しい批判が潜んでいて、観客は緊張し、居心地が悪くなる。
 しかし同時に、音楽は力強く豊かで、展開はスピーディ、装置は豪華でこそないが最大限効果的に見せようとするアイディアに満ちている。そして、ちりばめられたショウ場面はノスタルジックな香りを漂わせつつシャープ。そのため、舞台からひと時も目が離せない。
 力作すぎて肩が凝ると言う人がいてもおかしくないが、完成度と同時に志も高いこの舞台、僕は強く支持したい。

 見終わった夜そう思ったにもかかわらず、チケットの売れ行き悪く、残念ながらこの舞台、1月3日にクローズとなった。ニューヨーク・タイムズの初日評も絶賛だったらしいのに。

 “大衆に対する厳しい批判”を含むと書いたが、その批判とは、大衆は本質的に異端者に対して差別的であり、異端者を傷つけることについて無責任である、ということだ。そして、大衆を観客に、異端者を芸能者に置き換えると、この作品の苦い部分がよりはっきり見えてくる。
 こうしたザラザラした感触は、ブラック・エンタテインメントが傍流たらざるをえなかったことへの抗議を含んだ 『ジェリーズ・ラスト・ジャム JELLY'S LAST JAM』や、その後継作『ブリング・イン・ダ・ノイズ / ブリング・イン・ダ・ファンク BRING IN 'DA NOISE/BRING IN 'DA FUNK』 にも通じる。
 そうした部分を抱え込んでなお、ショウ・ビジネスの力を肯定し、観客を信頼しようとする姿勢が根本にあることも、それらの作品と共通している。
 こうしたねじれがあればこそ、手応えのある一級の舞台が出来上がったとも言える。

 苦渋に満ちたドラマの最後に、ヒルトン姉妹は、哀感を漂わせつつも力強く「I Will Never Leave You」と2人で生きていく決意を歌い上げる。そしてカーテンコール。シャム双生児を演じた2人の役者が役の姿のまま最後に登場し、拍手に応えた後、さりげなく、フッと左右に離れてみせる。
 その時、舞台の世界と現実世界が一瞬溶け合って濁り、観客はエアポケットに落ちた時のようなめまいを感じる。そして自分が劇場の客席に座っていることに気づいて、ようやく自分たちがヒルトン姉妹の人生から解放されたことを知り、安堵と奇妙な虚脱感を覚える。
 それほど、『サイド・ショウ』の世界は濃密であり、時に甘美ですらあった。

 この作品に携わった全ての人々に心から拍手を送りたい。あなた方の才能と勇気は僕の心に深く刻み込まれました。

 なお、1月3日のクローズ発表後、この作品のファンたちが続演を求めて働きかけを始めるという異例の出来事があり、プロデューサーも資金集めに動いたりして別の劇場での再オープンも噂されたが、最終的に23日、断念が公式表明された。

(1/25/1998)

Copyright ©1998 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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