[ゆけむり通信Vol.28]

12/10/1997
『ストリート・コーナー・シンフォニー STREET CORNER SYMPHONY』


半端な懐かしのヒット・パレード

 “THE 60's MEET THE 70's AT THE INTERSECTION OF POP AND SOUL!”と劇場の看板には書かれてある。60〜70年代のヒット曲を、簡単なドラマ仕立てとコンサート・スタイルで、時代を追って聴かせるショウで、出演者は8人。
 今度日本にもやって来る、ジェリー・リーバー&マイク・ストーラー Jerry Leiber & Mike Stoller の楽曲を集めたショウ『スモーキー・ジョーズ・カフェ SMOKEY JOE'S CAFE』が出演者9人ながらロングランを続けていることに刺激を受けたとおぼしい(たぶん)。

 率直に言って、わざわざブロードウェイの舞台に乗せるほどの質の高さも、豪華さもない。仮にオフだったとしても、刺激に乏しいかもしれない。
 にもかかわらず、それなりに楽しんだ。
 と言うのも、当日の朝劇場でのみ販売される20ドルのチケットで観たからで(この情報はニューヨーク・タイムズに載っていた)、フルプライスのチケットで観ていたら怒ったかも。

 ざっと流れを説明すると――。
 まず、60年代初頭から中期のアメリカ。スモール・タウンの街角(ストリート・コーナー)で恋の鞘当てに夢中の若者たち。やがて、その内の1人に徴兵の知らせが来る。
 次は60年代後半だが、抽象的な舞台設定のサイケデリックな世界。華やかな装いの裏にベトナム戦争の影が見え隠れし、国内では権力による武力弾圧事件が起こる。苦しみと癒やしの時。
 70年代はノンストップの、ソウル・ショウ的コンサート・スタイル。
 ――と、ここまで休憩なしの全1幕。

 説明が荒っぽく聞こえるかもしれないが、実際の展開が荒っぽいのであります。
 凝った筋書きも、ひねった演出も、シャレた振付もない(原案・演出・振付 / マリオン・J・キャフィ Marion J. Caffey)。過去、僕の観た中で最もアイディアのないブロードウェイのショウだった。

 ことに2番目のシークエンス。サイケデリックな60年代後半のシーン。
 ここの演出は乱暴だった。
 薄暗い中に星条旗がバックいっぱいに現れるだけという、簡素なと言えば聞こえはいいが印象としてはチープなステージ。これをライティングの変化でなんとか見せるのだが、ドラマ的なポイントは、フラワー・ムーヴメントの幻想が破れ暴力的で過酷な現実に直面する、というところ。
 この表現があまりにもイージー。
 具体的には、役者たちがスライ&ザ・ファミリーストーンの「I Want To Take You Higher」を歌っているところ(意図したのは“ウッドストック”のイメージか)で激しい銃声が響き渡り、1人倒れる。そして CSN&Y の、と言うよりニール・ヤングのプロテスト・ソング「Ohio」が怒りを込めて歌われる。
 おいおい、高校生でも考えつくぞ、これなら。

 実はここ、初めは、白い軍服の男たちが登場してヒッピーたちを撃ち殺す、という演出だったらしい。その時にバックの星条旗の一部も打ち抜かれていたという(道理で、星条旗の端の方がかがってあったはずだ)。
 それが過剰だということで表現を抑えたのだろうか。ブロードウェイだから?
 逆に、それが残っていたら何かを表現できたのだろうか?

 このあたりに象徴的に表れているように、作品のねらいが中途半端なのだ。
 懐かしく楽しいヒット曲満載のレヴューにするのか、歴史の再評価を当時の楽曲を通して行なうのか、変革の時代を生きた人たちのドラマを描くのか――。
 それがはっきりしていないから、表現も曖昧になるし、適切なアイディアも出てこない。

 それでも“それなりに”楽しめたのは、楽曲のアレンジが単なる懐メロに終わらないシャープなものだったせい(オーケストレイション・編曲 / ダリル・ウォーターズ Daryl Waters、ヴォーカル編曲 / マイケル・マッケロイ Michael McElroy)。
 中でも、究極の不倫ソング「Me And Mrs. Jones」を男性カルテットで歌ったアレンジが秀逸。

 出演者にはまずまずの実力者がそろい全員めいっぱいの熱演を見せるので、それにも客席は沸くが、演出・振付がダメなために結局は力を発揮しきれない形になってしまって、かわいそう。

 とにかく金のかかっていない舞台の中で、照明(ジュールズ・フィッシャー&ペギー・アイゼンハワー Jules Fisher & Peggy Eisenhauer)は見事でした。
 

 ところで、当日売りの20ドルチケットって、どこの席だったと思います?
 驚くなかれ、これが最前列のど真ん中。しかも、オーケストラ・ピットがないので、文字通りかぶりつき。目の前にはサブのスピーカーまであるし。
 これはこれで、なかなか苦しかったっス……。

(1/12/1998)

Copyright ©1998 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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