[ゆけむり通信Vol.28]

12/ 9/1997
『スカーレット・ピンパーネル THE SCARLET PIMPERNEL』


テイストの不統一

 中央に一輪の紅はこべが大きくあしらってある幕は、ペンで描いたような線で陰影を表わした作り物めいた趣。幕前にはチープな感じのシャンデリアが2つ下がっている。このシャンデリア、『オペラ座の怪人 THE PHANTOM OF THE OPERA』のように劇中で生かされるわけでもなく、始まると、幕と共にスルスルと上がって隠れていく。
 開演前のこの装いの意図がなかなかわからなかったのだが、最後になってようやく理解できた。
 オペレッタだ。それも、イギリスでギルバート&サリヴァン William S. Gilbert & Arthur Sullivan が確立した軽喜歌劇。
 作者たちは、あの幕とシャンデリアで、これはオペレッタのようなミュージカルですよ、と言っていたわけだ。

 でも、わかんないよ。
 『レ・ミゼラブル』かと思う重苦しい出だしだし、冒険活劇かと思っていたら、しんねりむっつりした夫婦愛の話になるし。で、結局は笑ってすませよう的オペレッタでした、って言われてもねえ。

 まあ、その前に簡単にストーリーを説明しておこう。

 1794年フランス。革命の中心となったジャコバン党による粛正の嵐が吹き荒れ、今日もまた貴族たちが断頭台の露と消えていく。
 その頃イギリスでは、1組の夫婦が誕生しようとしていた。新郎は若い貴族パーシー、新婦はフランスの歌姫マルガリータ。ところが、1通の手紙からパーシーは、マルガリータとフランス警察のショーヴランとの間に何かあるのではないかという疑いを抱き、彼女と距離を置くようになる。
 一方パーシーは、フランスの国情を憂慮し、仲間と共に海を渡って断頭台に向かう貴族を救う。その時名乗った名が、スカーレット・ピンパーネル――紅はこべ。
 必死になってその正体を追うフランス警察の疑いの目はパーシーらにも向くが、軽薄に振る舞ってごまかしている。ところが、仲間の1人であるマルガリータの弟が計略に引っかかってフランスで捕らえられる。
 パーシーらが紅はこべと通じていると見たショーヴランは、マルガリータを脅して紅はこべを誘き出そうとするが、パーシーは見事に裏をかく。その時パーシーは、マルガリータの自分への愛を知る。
 散々翻弄されたショーヴランは、自分を裏切ろうとした(って、そりゃアンタの思い込みだろ、ショーヴラン)マルガリータをも捕らえ、彼女ら姉弟をおとりにして紅はこべ捕獲作戦を敢行する。2人に逃げられた振りをして追跡し、一味を一網打尽にしようというのだ。
 そして、この作戦、まんまと成功して紅はこべを捕らえたかに見えたのだが……。

 この、見えたのだが……、の後だ、あーオペレッタか、と思ったのは。

 (この後に書くのは物語のオチです。ご注意を)

 捕らえられた紅はこべことパーシーは、マルガリータと共にその場で断頭台にかけられる。ついにやったと喜ぶショーヴラン。
 ところが、そこにニヤニヤしながら現れるパーシーとマルガリータ。死んだはずだよ紅はこべ。口にはしないが、その表情はまさしく「なーんちゃって」だ。
 実は、紅はこべ一味はショーヴランのさらに裏をかき警察隊に紛れ込んでいて2人を助けた、というのが種明かしで、最終的にはショーヴランが猿ぐつわをかまされて紅はこべとして当局に突き出されるというところで話は終わる。

 端からこの軽喜劇テイストならいいんです。
 でも、前述したように、最初は『レ・ミゼラブル』的重苦しさだったし、パーシーとマルガリータが愛に苦悩したりするところにはシャレのかけらもないし。
 ショーヴランなんて、途中から性格が変わったように見えてしまうくらいだ。怖い悪役からお間抜けな小悪党に。おかげで、演じるテレンス・マン Terrence Man もやりにくそう。ブロードウェイ版オリジナル・ビースト、オリジナル・ジャヴェール役者には完全な役不足だった。
 そんな風だから、観ている方は、最後の「なーんちゃって」に到って、それはないだろって気になる。マジメにやれって感じ。
 だいたい、パーシーとマルガリータが断頭台にかけられるところを見せないでおいて実は生きてましたなんて、田舎芝居もいいとこ。

 テイストの不統一。
 直接の原因は脚本(ナン・ナイトン Nan Knighton)にあるが、要するに企画のねらいが定まってないってことだ。

 『ジキル&ハイド JEKYLL & HYDE』を一応軌道に乗せたとおぼしい作曲家フランク・ワイルドホーン Frank Wildhorn には、すでに熱心なファンが付いているそうで、続けて本作も成功させて第2のアンドリュー・ロイド・ウェッバー Andrew Lloyd Webber を目指したかったところだろうが、前作ほどには記憶に残るメロディもなく、野望も一時頓挫かと思われる。
 ヒロインのクリスティン・アンドレアス Christine Andreas の歌が不安定に聴こえるのもマイナス要因。
 ただし、ショウ場面としては、紅はこべ一味が最初にフランスへ乗り込む「Into The Fire」での、イギリスのクラブハウス→帆船→フランスの広場、というダイナミックな場面転換と、ウェールズ皇太子をからかう「The Creation Of Man」のユーモラスな振付とが、一見の価値あり。

(12/24/1997)

 次回の観劇記は、こちら

Copyright ©1997 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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