[ゆけむり通信Vol.28]

12/13/1997
『サンシャイン・ボーイズ THE SUNSHINE BOYS』
12/14/1997
『プロポーザルズ PROPOSALS』


ニール・サイモンの新旧2作

 ミュージカルではなくプレイだが、ニール・サイモン Neil Simon 作品を2本観た。97年の新作『プロポーザルズ』と25年前の新作『サンシャイン・ボーイズ』
 プレイを観ることはめったにない。と言うのは、[理由1] とりあえずミュージカルを優先するから、[理由2] 僕の英語力では理解できない度合いが高いから。
 でも、ニール・サイモンは映画や戯曲集で早くから日本に紹介されていたし、それらを観たり読んだりしてきたという経過もあって親しみがあり、できれば観るようにしている。と言っても過去に観たのは、『噂 RUMORS』『ヨンカーズ物語 LOST IN YONKERS』『23階の哄笑 LAUGHTERS ON THE 23RD FLOOR』の3本で、しかも『噂』なんて全然わからなかった。
 が、それなりに英語力も向上してきたようで(笑)、今回の2作には心動かされた。

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 『プロポーザルズ』は、プレイビルの紹介記事などで“ロマンティック・コメディ”と呼ばれている。何組かのカップルの愛情が、時に滑稽に、時にほろ苦く描かれていく。

 ペンシルヴェニアの山中にある2階建ての古い家。前にたたずんでいるのは黒人の家政婦クレマ。彼女が思い出すのは 50 年代のある夏のこと。
 ここに住んでいたのは、バートとジョシーのハインズ父娘。活動的だった母親のアニーは家を出て、今はヨーロッパで別の家庭を持っている。そのアニーが久しぶりに訪ねてくる、というのが主軸となる話だが、ジョシーをめぐって錯綜する若者たちの恋愛話もある。
 舞台に現れるジョシーは、すでにステディのケンに交際を止めたいと告げている。ケンの親友レイに惹かれ始めたことに罪の意識を感じてのことだ。ところがそこにレイが現れ、ケンに対するジェシーの仕打ちを非難する。さらにややこしいことに、ジョシーと婚約したつもりの自惚れイタリアン、ヴィニーまでやって来る。もう1人、レイとつき合っているトロい女の子サミーも加わって、若者たちの関係は混迷を深めていく。
 ハインズ家の家族同然のクレマは、そんなゴタゴタを苦笑しながら見ていたが、はるか昔に自分を捨てて出ていった亭主ルイスが尾羽打ち枯らした様子で帰ってくるに及んで、傍観者ではいられなくなる……。

 もっぱら、若者たちの恋模様はどうなっていくのだろうという興味で舞台は進んでいくが、そして実際そこのところでハラハラしながら笑わせられるが、作者がじっくり描こうとしているのは2組の(元)夫婦で、これまた笑わせられつつ切々と胸に迫るものがある。
 まあ、若者たちと2組の(元)夫婦とは、“結婚”の“使用前”“使用後”みたいなもの。ただし、ダイエット用品やシークレット・ブーツとは違って、“使用後”が“使用前”よりいいとは限らない。
 臆病になったり大胆になったりしながらも生涯の伴侶を求める若い世代の情熱と、現実の結婚も知り、自分の限界も知り、近づいてくる死の影にも怯える人たちが抱く愛情とは自ずから異なる。そして、どちらがいいということもない。なぜなら、それは誰もがいずれは通っていく道の途中にすぎないのだから。
 なんて、ちょっと“感傷”が入るのは、回想っていうスタイルのせいもある。そこには、50年代という、アメリカがまだまだ幸せだった時代へのノスタルジーもあるように感じる。
 そういう意味では、サイモンならではのピリッと辛い部分が、やや希薄だったかもしれないが、僕はしみじみと感動した。

 クレマ役のL・スコット・コールドウェル L. Scott Caldwell が、抑制の利いた演技で要所を押さえて全体を引き締めた。
 老いを迎えつつある奔放な女アニーを味わい深く演じたケリー・ビショップ Kelly Bishop は『コーラスライン A CHORUS LINE』のオリジナル・シーラ。
 その夫バートは、軽さと苦さを併せ持つディック・ラテッサ Dick Latessa 。『ウィル・ロジャース・フォリーズ THE WILL ROGERS FOLLIES』『くたばれ!ヤンキース DAMN YANKEES』『ローマで起こった奇妙な出来事 A FUNNY THING HAPPENED ON THE WAY TO THE FORUM』などのミュージカルでも活躍している人だ。
 若者たちの中では、もうけ役とは言え一歩間違えば嫌みになりかねないヴィニーを愛嬌たっぷりに陽気に演じたピーター・リニ Peter Rini が目立った。

 演出は『ラヴ!ヴァラー!コンパッション! LOVE! VALOUR! COMPASSION!』のジョー・マンテロ Joe Mantello 。
 装置のジョン・リー・ビーティ John Lee Beatty の手がけた古い2階家を中心にした、シンプルだが美しく効果的なセットは、トニー賞もの。

 残念ながら1月11日にクローズ。76回の上演は、サイモンのブロードウェイ作品としては『FOOLS』(1981)の 40回に次ぐ短さとなった。

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 『サンシャイン・ボーイズ』は、すでに評価の定まった名作だ。映画化、TV 映画化もされ、翻訳も出されている(早川書房「ニール・サイモン戯曲集U」酒井洋子訳)。

 かつて人気を誇った老コメディアン2人が、TV のスペシャル番組のためにコンビを復活させることになる。
 ところがこの2人、コンビ解散の経緯もあって非常に仲が悪く(おそらく、それ以前からよくはないのだろうが)、おまけに、老いる自分に対するいらだちもあるものだから、再会してもいがみ合うばかり。
 いったい、番組はうまくいくのか?

 ウォルター・マッソー Walter Matthau とジョージ・バーンズ George Burns(アカデミー最優秀助演男優賞)の映画版(監督ハーバート・ロス Herbert Ross )をヴィデオ観たことがあるが、やや冗漫な印象だった。舞台はさすがに、キリッと締まった構成。なるほど、こういうことかと、傑作の傑作たるゆえんを確認したしだい。
 主演は、ウィリー・クラークがジャック・クラグマン Jack Klugman (つい最近まで日本でもやっていた TV ドラマ『(邦題失念)QUINCY, M.E.』の主役)、アル・ルイスがトニー・ランドール Tony Randall 。『おかしな二人 THE ODD COUPLE』の TV シリーズで共演し(最近、『THE ODD COUPLE RETURNS』という続編も作られたらしい)、アメリカ国内、ロンドン、オーストラリアの舞台公演も行なった、アメリカではおなじみのコンビだ。
 そういう意味では、安定した興行を見込める芸術座的出し物なのかもしれないが(そして、事実そういう客層だったが)、そこまで含めてニール・サイモン芝居の魅力。達者な主演2人のやりとりを楽しんだ。

 昨年暮れに出た「ニール・サイモン自伝 書いては書き直し REWRITES A Memoir」酒井洋子訳(早川書房)は、サイモンの創作過程や公演の裏話などが細かく書かれた興味深い本なのだが、残念なことに『サンシャイン・ボーイズ』については、ほとんど触れられていない。けれども、読み物としてもさすがの出来なので、一読をオススメします。
 特に、タイトルに違わず演出家やプロデューサーとの話し合いの末に幾度も幾度も推敲を重ねる作者の姿は、プロフェッショナル作家の厳しさを見せつけて、シビレる。その神々しさに、読んだら目のつぶれる劇作家の方々もいらっしゃるんじゃないでしょうか(中でも日本のミュージカル作家の方は)。

 ところで、ピーター・フォーク Peter Falk 、ウディ・アレン Woody Allen の TV 版『サンシャイン・ボーイズ』をご覧になった方がいらしたら、どんなだったか聞かせてください。ヴィデオとか見せていただけるとうれしいのですが(笑)。

(3/7/1998)

Copyright ©1998 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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