[ゆけむり通信Vol.27]

9/18/1997
『オールウェイズ…パッツィ・クライン ALWAYS...PATSY CLINE』


アメリカのお嬢、甦る

 [アメリカの美空ひばりみたいな人ですからね。時代的には笠置シズ子なのかな。今でもボックスセットとか、売れてるみたいだし。男ならハンク・ウィリアムス、女ならパッツィ・クラインって感じなのかもしれないです。
 10年以上前になりますが、ジェシカ・ラング(だったと思う)主演で、パッツィ・クラインの伝記映画『スイート・ドリームス』とゆーのがありました。このサントラが、歌はそのままでオケだけ新たに録り直したとゆーものらしく、わたしがカントリーにはまった最初のきっかけになったのですよ。あと、映画も泣けるんです。今はもうビデオとかも手に入らないのかなぁ、もう一度みたいと思っているのですが。]

 オフで始まった『オールウェイズ…パッツィ・クライン』について書くにあたって、佐野元春のみならずカントリー・ミュージックにも詳しい能地祐子氏に問い合わせのメールを差し上げたところ、間髪入れずにご回答願えたのだが、その回答メールの一部がこれ。

 そうかあ、美空ひばりかあ。どうりでアメリカ人の中高年層に受けてたはずだ。
 「プレイビル」によれば、[1932年、パッツィ・クラインはヴァージニア・パターソン・ヘンズレーとして、ヴァージニア州ウィンチェスター、有名なセナンドー渓谷にほど近い小さな町で生まれた。初舞台は4歳の時で、タップ・ダンス・コンテストに出て優勝。1960年、伝説的なグランド・オール・オプリーのメンバーとなる。63年3月5日、飛行機事故により30歳で死亡]。で、[さらなる情報は我々のWebサイトでどうぞ]ですと。

 アドレスは、[http://www.alwayspatsycline.com.]。

 でも、こういう伝記ミュージカル作らせたりすると、アメリカのうまさが際立つねえ。ロンドンものの安易な作りとは雲泥の差。ソックリならいいでしょう、という『バディ BUDDY』がブロードウェイでコケたのも、しかたのない話だ。

 パッツィの人生をストレートに描いたりせず、観察者の目を設定するというアイディアに、そのうまさが表れる。それも、夫や恋人や家族の目じゃない。
 脚本・演出のテッド・スウィンドリー Ted Swindley がパッツィの人生を語らせるために持ってきたのは、ルイーズ・シーガーという実在のパッツィ・ファンだ。

 ルイーズは、離婚を経験しながらも1人でバリバリ生きてきたテキサス女性だが、ふと人生に寂しさを感じることがあった。そんな時彼女に生き甲斐を与えてくれたのが、ラジオから流れてきたパッツィの歌だった。
 ヒューストンにやって来たパッツィのショウを観に行ったルイーズは、偶然パッツィ本人と言葉を交わしたのをきっかけに親しくなり、手紙のやりとりなどしながら友情を温め続ける。彼女の死をラジオで知る日まで……。

 ――という2人の交流を、ルイーズがキッチンでラジオを聴きながら思い出し、観客に向かって語り始める。

 ルイーズ役とパッツィ役の2人で演じられるこのミュージカル。目玉はもちろん、『バディ』同様パッツィの歌の再現だ。だが、パッツィの人間像を描き出しつつ歌を劇的に並べていこうとすると、間に説明的ドラマが必要になってくる。で、結局、歌もドラマも中途半端などっちつかずの出来になったりする。
 それを解決しているのが、語り手のルイーズの存在だ。
 全ては彼女の回想だから、時間的な飛躍も自在だし、面倒くさい部分は端折ってセリフで説明してしまえる。結果、非常にテンポのいい展開が生まれる。
 おまけに観客は、ルイーズと一緒にパッツィと友達になり、素顔のスターを垣間見るという貴重な(追)体験をしてしまうことになる(なにしろ元が実話だというふれこみですから)。

 とにかく、ルイーズ役のマーゴ・マーティンデイル Margo Martindale がうまい。
 パッツィ役トリ・リン・パラゾーラ Tori Lynn Palazola が20曲以上を歌いまくって、半ばパッツィ・クライン・コンサートの感もある作品だが、マーティンデイルの演技らしからぬ演技が、作者がねらったに違いない、1本筋の通った、それでいて軽やかな、親密感のあふれる楽しい舞台を作り出していた。

 パラゾーラの歌も決して悪くないが、新聞などには“パッツィ・クラインには及ばない”という評も出たそう。しょうがないよね、美空ひばりなんだから。
 バックの6人のバンド(フィドル/ギター、ギター、ペダル・スティール・ギター、ピアノ、ベース、ドラムス)は達者。

 思い切って転換をなしにして、舞台上に、コンサート会場(マイクの取り替えでナッシュビルになったりヒューストンになったりする)、ラジオ局、レコーディング・スタジオ、ルイーズのキッチンを共存させた、巧みなデザインの装置も、見事な職人技(クリストファー・ピッカート Christopher Pickert)。
 ネオンサインなどを生かした照明も効果的だった(スティーヴン・クアンド Stephen Quandt)。

 こうしたこぢんまりしたミュージカルから学ぶことって多いんじゃないでしょうか、日本の製作者のみなさん。

(10/7/1997)

Copyright ©1997 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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