[ゆけむり通信Vol.26]

6/10/1997
『ローマで起こった奇妙な出来事 A FUNNY THING HAPPENED ON THE WAY TO THE FORUM』


触媒ウーピーが生み出す化学反応

 [『ローマで起こった奇妙な出来事』は、ネイサン・レイン Nathan Lane(主演)、ジェリー・ザックス Jerry Zaks(演出)という、大ヒットした92年の『ガイズ・アンド・ドールズ GUYS AND DOLLS』コンビによる4年振りのミュージカル・コメディで大いに期待したが、ちょっと裏切られた。]

 というのが、昨96年5月6日に観た時の感想。
 以下、こういうリポートを書いている。

 [紀元前200年のローマ。自由の身になりたい奴隷(レイン)は、若い主人が娼婦に一目惚れしたのを見て、仲を取り持つから解放してくれと頼む。承諾を得たレインだが、次々に予想外のピンチが訪れて、果ては命まで落としそうになる。が、そこはコメディ、急転直下のハッピーエンドで幕。
 というお話で、“次々に予想外のピンチが訪れて”起こるドタバタのスピードが命という、正真正銘のスラップスティック。

 レインはじめ芸達者がそろっていて、出演者は献身的な動きを見せる。
 殊に、コリィ・イングリッシュ Cory English 、レイ・ロデリック Ray Roderick 、ブラッド・アスペル Brad Aspel の黒子のようなショーティ3人組は、得意の体技を生かして大活躍。
 演出の点では、話の上で顔を合わせると困る人の組み合わせが何組もあって、その出し入れのタイミングが笑いの大きな要素だが、その捌きはさすがにうまい。
 と、スラップスティックのツボは押さえられているのだが、物足りないのだ。

 1つには、幕開けの有名な「Comedy Tonight」以外に決定的なショウ場面がない。
 もう1つは、レインが狂言回しの役も兼ねることで割に常識的になっていて、持ち味のエキセントリックさが生かされていないんじゃないか。そのせいで全体の予定調和感が強まって、スラップスティックの魅力である狂騒的な感じが薄らぎ、こぢんまりした舞台になったのではないだろうか。]

 ともあれ、『ガイズ・アンド・ドールズ』でスターになり映画出演も相次いだネイサン・レインの知名度と熱演で約1年の公演を続けた『ローマで起こった奇妙な出来事』は、レインの後釜にウーピー・ゴールドバーグ Whoopi Goldbergを選んだ。
 知名度から言えば申し分ない。と言うか、スーパースターと言っていい。
 初登場は今年の2月11日。4か月の契約は延長されていたが、最終出演日は7月13日と決まった。

 レインからゴールドバーグにバトンタッチして変わったのは何か。

 観客とのコミュニケーション、だ。

 例えば、遅れてきた客への軽口。
 前述のオープニング・ナンバー「Comedy Tonight」が終わったところで、遅れた客が席に案内されるのだが、彼らに向かってゴールドバーグは言う。
 「あら、1曲目は終わっちゃったわよ。もうやんないのよ。残念ねえ。渋滞に巻き込まれたの? それともレストランの席を離れられなかったの?」
 これ、いつものことらしいが、完全にスタンダップ・コミックのノリ。

 もともとこの役は主役であると同時に狂言回しでもあるので、観客に向かってしゃべるのだが、そのスタンスが、レインとゴールドバーグでは微妙に違う。

 レインは俳優だが、ゴールドバーグはスタンダップ・コミック。
 レインは舞台上の役者側代表として観客に接しているが、ゴールドバーグは役者と観客との間に立って、両方との距離を測りながら演じている。
 レインの時は役者が一体になって完成度の高さを目指したのに対して、ゴールドバーグの出ている舞台はもっとライヴな感じ。ゴールドバーグを触媒にして、観客と役者が、あるいは役者同士が、生々しく反応し合っている。そんな印象。

 ゴールドバーグが生み出すそうした要素が、どちらかと言えば今日性に欠けるこの舞台をうまく活性化させた。
 実は、ゴールドバーグは、脚本にある芝居部分に関してはレインに比べると押し出しが足りない感じで弱いのだが、それを補って余りあるアドリブ部分のノリ。レインにもアドリブはあったが、客との直接交渉に関してはゴールドバーグに一日の長があった。
 もっとも、それ以前に観客のゴールドバーグに対する期待感がものすごく、導入部分で彼女が幕前に出てくるや拍手の嵐、嵐、嵐。彼女独特のクネクネダンスをちょっと見せただけで大受け。という状況なのではあるが。

 とは言っても、ショウ場面が弱いという印象に変わりはない。こればかりは役者の力だけではどうしようもありませんな。
 あ、ショーティ3人組は健在でした。

 初演は1962年。作詞家スティーヴン・ソンダイム Stephen Sondheimが初めて作曲も行なった作品でもある。

(7/1/1997)

Copyright ©1997 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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