[ゆけむり通信Vol.25]

5/31/1997
『タイタニック TITANIC』


装置よりも歌が救ったトニー賞作品

 見どころは装置だけなんて言われているが、そんなに悪くない。と言うか、力作ですよ、これは。

 というのは観た直後の感想。

 ところが、こちらにも書いた通り発表直前に風向きが変わり、獲っちゃいましたよ、トニー賞ミュージカル作品賞。
 そうなると、それほどのものか? と思ってしまう人情の複雑さ。ま、消去法ならそれもあるか、というところでしょう。

 1912年、4月10日にスコットランドからニューヨークに向けて処女航海に出た豪華客船タイタニックが氷山にぶつかり海の藻屑と消えるまでの、6日間の物語。
 事故の遠因となるドラマが艦長室を中心に進行する一方で、1等から3等にまで分かれた客室でも、それぞれの境遇での人間模様が描かれていく。
 そして事故が発生。全員の人生は一瞬交錯し、やがてバラバラに散っていく。

 いいのは、まずモーリー・イェストン Maury Yestonの楽曲、それにジョナサン・タニック Jonathan Tunickのオーケストレイション。

 冒頭、タイタニックの設計者が自画自賛の歌を歌うと幕が上がり、人々がタイタニックへ乗り込む長いシーンが始まるのだが、ここがスケールの大きな組曲になっていて見事。
 乗組員が1人2人と集まり始め、やがて3等客室、2等客室、1等客室と乗客がそろってくる。みな一様にタイタニックの偉容に感嘆する、と同時にこの航海への思いを歌う。歌を通して登場人物を紹介しながら、いくつかのドラマを予感させ、かつ、タイタニックの豪華さを実感させていく。
 そう、ここではタイタニックの姿は全く見えない。なのに、この乗船シーンが終わるころには、観客はその巨大な姿を観たような気になる。
 演出(リチャード・ジョーンズ Richard Jones)とうまく連携した音楽の功績だ。

 第2幕、救命ボートに乗る人と残る人とに分かれるシーン(救命ボートが足りないからです)でも、同様の組曲的展開で様々な別れを綴れ織りのごとく見せて鮮やか。こちらは後半だけに、それ以前に歌われた歌を繰り返し使って、ドラマに奥行きを持たせることも忘れていない。

 個々の楽曲では、新天地を求めて移民を決意した3等客室のアイルランド人たちが互いの熱い夢を語り合う「Lady's Maid」、こちらのイヴェントでも歌われた、燃料室で働く男のラヴレターを通信士がモールス信号で送るユニークで切ない恋歌「The Proposal」、沈みゆく船に残った老夫婦が変わらぬ愛を静かに歌う「Still」などが印象に残る。
 特に「Lady's Maid」は、彼らの多くがアメリカを見ることすらできないのがわかっているだけに、胸にしみる。

 ただし、ドラマの描き方は中途半端。幕切れもあっけない。
 限られた時間の中で、多くの人間ドラマを描くのが困難なことはわかるが、モーリー・イェストンが前回手がけた『グランド・ホテル GRAND HOTEL The Musical』のようによく出来た例もある。まあ、あれは、その前によく出来た映画があったわけだが。
 と注文をつけつつも、人間と同時に船のドラマも描かなければいけないわけで、なおかつ、大仕掛けな装置の展開も考慮に入れなければならない。そうしたもろもろを考え合わせると、よくまとめたという言い方も出来る。
 脚本ピーター・ストーン Peter Stone。

 役者で印象に残るのは、前もって観ていたということもあるが、燃料室の男ブライアン・ダーシー・ジェイムズ Brian d'Arcy Jamesと通信士マーティン・モラン Martin Moran、好奇心旺盛な中年主婦を演じてドラマの芯の1つになったヴィクトリア・クラーク Victoria Clark、それを慈しむように見守る冴えない夫ビル・ブエル Bill Buell、憎まれ役の金持ちを演じてカーテンコールでブーイングを受けたデイヴィッド・ギャリスン David Garrison。
 その他、多くの役者は2役3役をこなし八面六臂の活躍。衣装替えの大変さはレヴューでの宝塚トップ・スター並か。それだけでも称賛に値するが、多少せわしない感じがするのも確か。

 装置は――。
 沈没の場面については、とにかくすごいと聞いていたのが逆効果だったのか、あまり驚かなかった。が、考えてみれば大したものだ。エチケットとして詳しくは書きませんが(とは言え、いろんなところでバラされてますが)、大きな期待を抱かずに観に行けばそれなりの感銘は受けると思います。
 ただし、装置に頼りすぎる部分もあり、転換が激しすぎて途中からうるさく感じた。

 ところで、観る時には、座席の位置は慎重に選ぶこと。出来ればフロント・メツァニン(2階席前方)中央。オーケストラなら本当に中央。前すぎず後ろすぎず右すぎず左すぎず。舞台全体が楽に見渡せて、ある程度距離のある席。“がいい”んじゃなくて、“でないとダメ”です。
 なぜかと言えば、位置によって、いろいろと見えなかったりするんです。装置のスケールに比べて劇場が小さいんですね。ご注意を。

(6/8/1997)

Copyright ©1997 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

[ゆけむり通信Vol.25 INDEX]


[HOME]