[ゆけむり通信Vol.25]

5/30/1997
『ザ・ライフ THE LIFE』


人生は陽気な方が楽しい

 まるで路地裏のように汚れたビルの壁と空き地を囲う板塀ばかりが並ぶ、70年代のマンハッタン42丁目。
 下手袖からいかにもチンピラ風の男ジョジョが出てきて、ミッキー・マウスの名前を出しながら清潔で安全になった最近の42丁目を揶揄して観客を笑わせると、するすると板塀が上がっていく。
 ズラリと横一線に並んで姿を現すのは、思い思いのポーズをとっている派手な服装の男と女たち。

 一瞬、『スウィート・チャリティ SWEET CHARITY』の「Big Spender」を連想する。そう言えば『スウィート・チャリティ』も作曲サイ・コールマン Cy Colemanだ。

 そこから2曲、立て続けにイキのいいナンバーが演奏され、エネルギッシュな歌と踊りが舞台上で炸裂した時には、おおこれは! と思った。さすがトニー賞12部門ノミネート。

 が、話が進むにつれて、ちょっと待てよ、という気分になる。
 主人公の娼婦とヒモの関係の描き方(純な夢を残した女をいい加減な男がだます)が、あまりにも型にはまっていないか(同じことを『スティール・ピア STEEL PIER』のところでも書きました)。陳腐、という言葉を使いたくなるほどに。

 クイーンは、いつの日か恋人フリートウッドと2人で泥沼のようなニューヨークを抜け出して、平穏な日々を送ることを夢見ている娼婦。フリートウッドはベトナム帰還兵で、一攫千金を夢見ながらヘロインに溺れているゴロツキ。
 ジョジョにそそのかされたフリートウッドは、バスでニューヨークに着いたばかりの田舎娘メアリーに取り入る。ところがメアリーはしたたか者で、だますつもりのフリートウッドは逆にうまく利用され、捨てられる。
 一方クイーンは、メアリーにのめり込むフリートウッドへの意趣返しで、裏世界の有力者メンフィスの誘いに乗る。それは罠で、結局クイーンはメンフィスの支配下で奴隷のように働かされることになる。
 娼婦仲間ソニアの手引きでニューヨークから逃げだそうとするクイーン。追ってきて、一緒にいてくれと哀願するフリートウッド。ジョジョに導かれて、そこにメンフィスが現れる。
 そして……。って、書いちゃいますよオチを。想像を超えないから。
 隠し持った拳銃でメンフィスを撃とうとしたフリートウッドが逆に殺され、フリートフッドの銃でクイーンがメンフィスを撃つ。ソニアはクイーンを逃がし、その身代わりになるために銃を手に取る。

 このシャレっ気のない“しんねりむっつり”のメロドラマが“しんねりむっつり”の歌を伴って正面切って演じられるので、脇のキャラクターの面白さや楽曲のいい部分も帳消しの気分。
 ホント、いいところは、みんな本筋から外れたところなのだ。

 楽曲で言うと――。

 こちらのイヴェントでも歌われた、ソニア役リリアス・ホワイト Lillias Whiteの「The Oldest Profession」。タイトルからわかる通り娼婦の歌で、さほど特徴のないブルージーな曲だが、開き直った身もフタもない歌詞(作詞アイラ・ギャスマン Ira Gasman)とホワイトの熱唱が大受けして、ショウストッパーになる。

 やはりリリアス・ホワイトが、クイーン役パメラ・アイザックス Pamela Isaacsと歌うゴスペル調の「You Can't Get to Heaven」。『ガイズ・アンド・ドールズ GUYS AND DOLLS』から引っ越してきたように42丁目に現れた救世軍のコーラスに合わせて歌われる、ユーモラスだが感動的、という不思議な1曲。

 ソニアとクイーンを含む娼婦たち7人による、あたしの体はあたしの体という「My Body」。トニー賞授賞式でも歌われたノリのいい曲で、耳から離れない。

 メアリー(ベラミー・ヤング Bellamy Young)絡みの2曲。第1幕でジョジョ(サム・ハリス Sam Harris)、フリートウッド(ケヴィン・ラムゼイ Kevin Ramsey)、怪しげな映画プロデューサーのルー(リッチ・ヘバート Rich Hebert)と歌うアブク銭の歌「Easy Money」。第2幕でスターを夢見てルーとデュエットする「People Magazine」。どちらも軽薄にして軽快な陽気さが印象的。

 それに、前述した冒頭の2曲、「Check It Out!」「Use What You Got」。畳みかけるような前者とよくスウィングする後者。

 いずれも名曲というところまで行ってはいないが、クイーンとフリートウッドの線からズレた、こうした陽性の楽曲の方が際立って見える。

 キャラクターで言うと――。

 『努力しないで出世する方法 HOW TO SUCCEED IN BUSINESS WITHOUT REALLY TRYING』のミス・ジョーンズ役同様に舞台をさらったリリアス・ホワイトは限りなく主役に近いが脇は脇。情に厚い陽気な娼婦はハマリ役。

 トニーの助演男優賞にノミネートされ、僕としては獲らせたかったのがサム・ハリス。狡猾な狂言回しジョジョを生き生きと演じた。

 ウブに見えて、その実したたかなメアリーを演じたベラミー・ヤング。実に印象的なブロードウェイ・デビュー。

 そして、これは完全な脇役だが、老バーテンダー、レイシーを演じたヴァーネル・バグネリス Vernel Bagneris。1994年前後にピアノ1台だけを伴った1人ミュージカル『ジェリー・ロール! JELLY ROLL!』をオフ・ブロードウェイの小さな劇場で自作自演していた才人で、ニューオリンズ出身者らしい独特の粘っこさが歌にも踊り(と言えるか?)にもあり、強い印象を残す(映画『ダウン・バイ・ロウ DOWN BY LAW』にも出ているが、ミュージカル・ファンには奇妙な味の『ペニーズ・フロム・ヘヴン PENNIES FROM HEAVEN』がオススメ)。

 パメラ・アイザック、ケヴィン・ラムゼイは、そんなわけで貧乏クジを引いた形。
 メンフィス役のチャック・クーパー Chuck Cooperには、筋とは関係なくそれほど感心しなかった。

 ただ、第2幕終盤、ニューヨークを去ろうとするクイーンと見送るソニアのデュオ・バラード「My Friend」だけは、本筋の場面だが悪くない。まあ、はっきり泣かせに来たところだが、わかっちゃいても引き込まれる。ホイットニー・ヒューストンが歌いそうな楽曲で、好みではないんですが。
 もっとも、そんなのんびり歌ってないでさっさと逃げろよ、と一方では思ったりもしましたがね。

 クイーンとフリートウッドのメロドラマ、苦さを含んだコメディにすることも出来たと思う。そうすれば全体のトーンが統一されて、サイ・コールマンにしては決め手を欠いた楽曲の分も、勢いでカヴァー出来たんじゃないかと思うのだが。
 残念ながら、ちぐはぐな舞台になってしまった。

 ところで、『スモーキー・ジョーズ・カフェ SMOKEY JOE'S CAFE』でブロードウェイに振付デビューしたジョーイ・マックニーリー Joey McKneelyだが、今回は妙にボブ・フォッシー Bob Fosseを思わせる動きがあり気になった。
 それがいいのか悪いのかわからないが、そこばかりが印象に残るってのは、振付家本人にとっても課題になるんじゃないだろうか。振付のオリジナリティってことを、ちょっと考えてしまった。

(6/20/1997)

Copyright ©1997 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

[ゆけむり通信Vol.25 INDEX]


[HOME]