[ゆけむり通信Vol.25]

5/29/1997
『スティール・ピア STEEL PIER』


ダンスにしばられたダンス・ミュージカル

 トニー賞主演女優賞ノミネーションのカレン・ジエンバ Karen Ziemba、助演男優賞ノミネーションのジョエル・ブラム Joel Blum――に限らず、全ダンサーが大変な運動量で熱演するが、残念ながら大きな実は結ばなかった。

 開演前、幕代わりに舞台を覆っているのは、「GREETINGS FROM STEEL PIER 1933」というロゴ。大恐慌時代のアメリカ(奇しくも『アニー ANNIE』と同じ年)。スティール・ピアというのはアトランティック・シティの地名らしい。
 そこで行なわれているのは、“マラソン・ダンス”。男女のペアが何日もかけて踊り続ける競技で、最後まで踊り抜いたペアは多額の賞金を手にできるというふれこみ。会場には観客が入り、競技の模様はラジオで中継される。

 マラソン・ダンスに参加するためにスティール・ピアにやって来たリタ。急遽彼女のパートナーになる曲芸飛行士ビル。競技の主催者で実はリタと結婚の約束をしている野心家のミック。
 この3人をめぐるドラマが、華やかな装いとは裏腹な悲惨な現実が待つマラソン・ダンスに参加せざるをえなかった男女の様々な人間模様を背景にしながら描かれていく。

 そう、このアイディアの元になっているのは、映画『ひとりぼっちの青春 THEY SHOOT HORSES, DON'T THEY?』の世界だ。
 ただし、そのことがどこにも明記されていないことからもわかるようにストーリーそのものは異なっていて、ある程度予想したことだが、結末はあちらほど厳しくない。ごぞんじだと思うが、あちらでは、疲れ果てたヒロインに乞われてパートナーが彼女を撃ち殺す。

 このミュージカルの最大の誤算は、素材の選び方にあったのではないか。
 ダンス・ミュージカルにするためにマラソン・ダンスを選ぶ。そのせいで逆にダンス場面の印象が広がりを失ってしまった。
 ミュージカルにおけるダンス場面の魅力は、ドラマ部分からの非日常的な飛翔にある。それが、マラソン・ダンスというドラマの側の枠でイメージを限定された。いくら踊っても、それは悲壮なマラソン・ダンスという競技の中のことなのだ。

 振付のスーザン・ストロマン Susan Stromanは様々なアイディアを繰り出して盛り上げを図った。特に第1幕後半、ダンサーたちが欲望と苦痛の狭間で疲れ果てていく様子をユーモラスな味つけで描いてみせた「MontageU」など、なかなかだった。
 が、全体の重苦しさはいかんともしがたい。
 ヴァレリー・ライト Valerie Wrightと組んだジョエル・ブラムが、ヴォードヴィル的技を駆使してコミカルに踊ってみせても、『ショウ・ボート SHOW BOAT』の時ほど輝かない。

 ドラマを離れて全員が開放的に踊るシーンが1つでもあれば。
 例えば、リタとビルの結婚式の場面。競技のアトラクションとして皮肉に行なわれるこのセレモニー、途中からリタの幻想に入って本当に友人たちに祝福されている結婚パーティになり、華やかなダンスが繰り広げられたら……。
 そんなシーンが1つあるだけで全体の印象がずいぶん変わると思うのだが。

 素材が重かった分、結末がことさら甘く中途半端に見えたのもマイナスだった。
 なにしろ「THEY SHOOT HORSES, DON'T THEY」、小説はベストセラー、映画も秀作だけに、人々に強い印象を残している。ショッキングだったと言っていい。
 それに比べて……、と思う必要はないのだが思うのも人情。やっぱり結末にひとひねりほしかった。

 カレン・ジエンバは初のブロードウェイ・オリジナル主演。質的にも量的にも熱演だ。
 第2幕中盤のソロ・ナンバー「Running in Place」は、長年組んできたジエンバ(ダンサー)とストロマン(振付)がど真ん中に全力で投げ込んだストレートなダンス場面で、息がつまりそうなほどの緊迫感があった。
 ただ、女優としては本質的にコメディエンヌであるジエンバの最良の部分は、今回の役柄では出ていない。それを引き出せるような脚本であればもっといい舞台になった、と思うのは好みの問題か。

 しかし、リタとミックの関係の描き方(純な夢を残した女をいい加減な男がだます)は、あまりにも型にはまっていないか(同じことを『ザ・ライフ THE LIFE』のところでも書きます)。根本は同じでもいい、新たな装いで見せてほしい。そうでないと、陳腐、という言葉を使いたくなってしまいます。
 脚本、デイヴィッド・トンプソン David Thompson。

 ビリング・トップのミック役グレゴリー・ハリスン Gregory Harrison。裏のある人物をシャープに演じて過不足なし。
 ダニエル・マクドナルド Daniel McDonaldは、足元の不確かなビル役をさわやかに演じてみせた。
 疲れた中年女を演じるデブラ・モンク Debra Monkは見せ場も多いが、『カンパニー COMPANY』の時もそうだったように、僕はあまり魅力を感じない。
 ウブな小娘が野望をむき出しにしてエキセントリックに変貌していく姿を印象的に演じたクリスティン・ケノウェス Kristin Chenowethは、鮮やかなブロードウェイ・デビュー。
 ダンサーは総じて優秀だが、グレゴリー・ミッチェル Gregory Mitchellの彫りの深いラテン的な容貌とスリリングなダンスが特に印象に残った。

 ジョン・カンダー&フレッド・エブ John Kander & Fred Ebbの楽曲は平均点の出来。
 「Everybody Dance」「First You Dream」「Steel Pier」などが聴きどころだと思うが、この1曲!という強烈さはない。

 ジエンバ&ストロマンのコンビ、しっかりした脚本のミュージカルでぜひまた出会いたい。

(6/4/1997)

Copyright ©1997 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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