[ゆけむり通信Vol.25]

5/31/1997
『ジキル&ハイド JEKYLL & HYDE』


ツボを押さえた楽曲は職人の技

 トニー賞からはほとんど無視されたものの、『ジキル&ハイド JEKYLL & HYDE』は、長い地方公演の後満を持してブロードウェイに打って出ただけのことはある、よく練られた、完成度の高いミュージカルだった。

 主演ロバート・クチオリ(カッシオリだとばかり思ってました。彼に迷惑をかけた話はこちらで)Robert Cuccioliの熱演が光り、新星リンダ・エダー Linda Ederの鮮やかなブロードウェイ・デビューが印象的だが、ロングランになって役者が替わっても大丈夫だろうと思わせるのが、ツボを押さえた楽曲の巧みさだ。

 レズリー・ブリカッス Leslie Bricusse(詞、脚本も)、フランク・ウィルドーン Frank Wildhorn(曲)による楽曲は、くっきりとした陰影を持ち、あざといほどにメリハリが利いている。印象としては『レ・ミゼラブル LES MISERABLES』『オペラ座の怪人 THE PHANTOM OF THE OPERA』の間に立つという感じ。
 舞台のテイストもそのあたりに近く、それが気に入らないという批評家が多かったのかもしれない。
 しかし、好みは別にして、確実に記憶に残る楽曲をここぞというところで繰り出してくるのは見事。まさに職人芸。

 バーブラ・ストライザンド Barbra Streisandの再来と言われているらしいリンダ・エダー(実際歌い方が似ている)の「Someone Like You」、クリスティアヌ・ノール Christiane Nollによる「Once Upon A Dream」、エダーとノールのデュエット「In His Eyes」、ロバート・クチオリの「This Is The Moment」、ノールとクチオリのデュエット「Take Me As I Am」といった歌い上げるバラードは、型通りではあるがきっちりと聴かせて拍手を呼ぶ。
 その周りに並ぶ、不安を煽るようなサスペンスフルな楽曲の中で、こうした聴かせどころが際立つ仕かけだ。
 個人的には場末の酒場でエダー扮するルーシーの歌う「Good'N'Evil」のような、いくぶんルーズな楽曲の方が好みだが。

 ジキル博士がハイド氏というもう1つの人格を獲得することで破滅していくという、ごぞんじのお話は、ジキルとハイドの行動の因果関係をはっきりと描いてあって、原作を読んだことがないのでどこまでが舞台の創作かはわからないが、すっきりとわかりやすくて好ましい。

 19世紀後半のロンドン。
 才能あふれる若き科学者ジキル(クチオリ)は、人間に備わる善悪2つの別人格について研究している。そのための人体実験を行なうことについて有識者たちに理解を求めるが、保守的な彼らは倫理の問題を持ち出して真っ向から反対する。
 しかし、ジキルはあきらめきれず、自らの体に薬を投与して実験を開始する。美しい婚約者エマ(ノール)にも黙って。
 そんなジキルに強い印象を残したのが、場末の酒場の女ルーシー(エダー)。荒んだ生活を送りながらも無垢な部分を失っていないように見えるルーシーに、ジキルは丁重な態度で接する。
 ところが、薬によってジキルから変身したハイドは、夜な夜なルーシーの元に現れて酷い仕打ちに及ぶ。
 と同時に、ジキルの研究を否定した有識者たちの闇の部分も見、彼らに復讐を始める。殺戮という方法で。そして、屈折した愛ゆえに、ハイドはルーシーをも殺害する。
 次々に起こる殺人事件がロンドンの街を震撼させる中、やがてジキルとハイドの変身はコントロールが利かなくなっていく。
 そして、愛するエマとの結婚式の日、ジキルは、衆人環視の中でハイドに変わっていく自分に恐怖するのだった。

 ジキルとハイドの変身は、メイクアップを変えるわけではなく、髪型と表情と服装の変化で見事に別人になってみせる。
 特に、終盤、変身のコントロールが利かなくなってジキルとハイドが交互に現れ激しい葛藤を見せる場面は、一歩間違えば失笑を買いかねないところを、クチオリが迫真の演技で支える大きな見せ場だ。

 注目のリンダ・エダーは大柄で非常に舞台映えがする。
 前述したようにバーブラ・ストライザンドに似ているところが逆に気になったりもするが、歌には確かに力がある。マンハッタンのレコード店には必ずと言っていいほど彼女の最新CDが大量にディスプレイされていた。
 演技は水準か。

 この舞台は装置と照明も優れている。
 赤と黒を基調にしたやや抽象的なセットは、ゴシック・ホラーのまがまがしいイメージを鮮やかに決定。その中でジキルの実験室の白とちろちろと燃え上がる赤い炎が、ジキルの内に秘めた狂気を表現して効果的。
 決してくっきりとは照らし出さず、必ず何か不吉な感じの影が入ってくる照明も、不安な気分を高めている。

 と、ほめてきたが、「好きか」と聞かれると「嫌いじゃない」という答になるんだろうなあ。
 後は、『レ・ミゼラブル』『オペラ座の怪人』を好きな人がどう評価するかだが、この作品に限っては、トニー賞と縁がなかったことと関係なくロングランするんじゃないかという気がする。とにかく、上記2作をお好きな方にはぜひ観ていただいて、感想をお聞かせ願いたい。
 好みではないがオススメです。

 掲載のCDはオリジナル・キャスト盤でなく、94年録音の、おそらく舞台化に先行した楽曲集。曲目も舞台とは異なるが、ルーシー役はリンダ・エダー。

(6/21/1997)

Copyright ©1997 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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