[ゆけむり通信Vol.25]

6/1/1997
『ドリーム DREAM』


見逃したくない充実のレヴュー

 非常に完成度の高いレヴュー。特に、ウェイン・シレント Wayne Cilento振付によるダンス・ナンバーに見どころが多く、トニー賞には見向きもされなかったが、今回観た7本の中ではいちばん楽しめた。

 ジョニー・マーサー Johnny Mercerが作詞した(タイトル曲を含め一部作曲も)楽曲によるショウ、というコンセプトは最近で言えばジョニー・バーク Johnny Burke(詞)の『星にスウィング SWINGING ON A STAR』やリーバー&ストーラー Leiber & Stoller(曲・詞)の『スモーキー・ジョーズ・カフェ SMOKEY JOE'S CAFE』と同じ。特に前者とは、マーサーとバークの活躍時期やフィールドに重なる部分が多いからだろう、ノスタルジックな気分やシーンの作りまで似ている。
 が、その類似がほとんど気にならないのは、緻密さと出演者の多さ(これ、重要)で、ずっとぜいたくな雰囲気の舞台に仕上がっているからだ。

 テイストの違うスター3人(レズリー・アン・ウォーレン Lesley Ann Warren、マーガレット・ホワイティング Margaret Whiting、ジョン・ピッツァレリ John Pizzarelli)を要所要所にバランスよく配して変化をつけながら、全体を、歌って踊れる役者たちがビシッとキメていく。
 とにかく隙がない。巧みなアレンジによって曲が有機的につながっていき、展開に澱みがない。ばかりでなく、場面転換などのいわゆる“つなぎ”の部分も装置や役者の動きがていねいに演出されていて、ダレる瞬間というものがない。
 ウェイン・シレント(演出も手がけた)の手腕だ。

 何と言ってもダンス・ナンバーがよく、どれもテンションが高いが、特に第1幕最後の「Too Marvelous For Words」。
 チャールズ・マッゴーワン Charles McGowanを中心にしたダンサー総出のナンバーなのだが、途中からマッゴーワンだけノリが違うのに気づく。意図的にダンスの質を変えているのだ。
 そのせいで、ちょうど映画『イースター・パレード EASTER PARADE』の「Steppin' Out With My Baby」で、バックにダンサーたちを従えて踊っていて突然フレッド・アステア Fred Astaireだけがスロー・モーションになる時のような、不思議な魅力が生まれた。

 それから、第2幕終盤の「Accentuate The Positive」。
 ナンシー・レメネイガー Nancy Lemenagerが男性カルテットと踊る、テンポの速い動きの激しいナンバーだが、歌詞の一部に(おそらくシンセサイザーに入力された)様々な擬音がはめ込まれていて(原曲もそうなのか?)ユニーク。ダンスにユーモラスなアクセントを与えていた。
 そういう点も含めて、ブライアン・ルイセル Bryan Louiselle、ジーニン・テソーリ Jeanine Tesori、ディック・リーブ Dick Liebらのアレンジやオーケストレイションは賞賛に値する。

 幕切れの「On The Atchison, Topeka And The Sante Fe」で、タップも交えて全員で踊りまくって大団円、というのもうれしい趣向だ。

 スター扱いの3人の内特筆すべきは、歌うジャズ・ギタリスト、ジョン・ピッツァレリだろう。
 弾き語りで、レギュラーのトリオ(ピアノ、ベース)で、ビッグ・バンドの一員として、伴奏者として、純粋な歌手として、はたまた演技者として、多羅尾伴内のごとく変幻自在に現れ、場の空気を変えてみせる。踊りこそ踊らないものの、音楽的にも視覚的にも柔軟な対応の出来る彼がいたからこそ、逆にダンスを中心に据えたレヴューが構成できたのだと思う。
 その活躍に敬意を表して、彼の最新CDをここに紹介。

 マーガレット・ホワイティングは有名なクラブ歌手らしく、貫禄たっぷり。父リチャード・ホワイティング Richard Whitingは前述の「Too Marvelous For Words」の作曲家で、マーガレットはジョニー・マーサーから直に歌唱指導を受けたという。
 第1幕半ばに悠然と登場して渋く歌う「One For My Baby」の味わい深さ、ピッツァレリとデュエットする「In The Cool, Cool, Cool Of The Evening」のさらりとした軽快さ。
 このショウの、いわば重石として、欠かせない存在感を示した。

 レズリー・アン・ウォーレンは1964年版『シンデレラ CINDERELLA』(王妃役がジンジャー・ロジャース Ginger Rodgersのやつ)でシンデレラを演じていた人。
 そう言えば似てる(って当たり前だ)、と思いながらプレイビルを読んでいたら、『ヴィクター/ヴィクトリア VICTOR/VICTORIA』の映画に出ていたとある。記憶にないので確かめたら、出てた。舞台でレイチェル・ヨーク Rachel Yorkがやった情婦役。だけど、わかんないよ、あのメイクとカツラじゃ。
 でも、と言うことは、映画『ヴィクター/ヴィクトリア』では新旧のシンデレラが共演していたわけですね。
 閑話休題。
 歌は、うまいって言うんじゃないけれど、そうちょうど『ヴィクター/ヴィクトリア』の情婦役のイメージにかなり近い。甘ったるくてヘタするとイヤミになる、そのスレスレのところでとどまって魅力にしている。そんな感じ。
 体が柔らかく、ダンサーたちに混じってかなりの踊りもこなす。悪くない。
 トップ・スター扱いだから知名度でもいちばんなんでしょう。
 って、歯切れ悪いですか?
 なんかちょっと、こわいんです、整形美女的な感じが。それだけ。

 スター以外もシレントの緻密でダイナミックな演出・振付によく応えてみんな素晴らしいが、そんな中、こちらのイヴェントでもソロで歌ったジェシカ・モラスキー Jessica Molaskeyがコミカルな個性を発揮して印象に残った。
 特に、ラヴ・バラード「I Remember You」を、中年女に扮してとことん執念深く歌い大受け。助演女優賞にノミネートしたいくらいでした。

 装置などにあまりお金をかけた舞台ではないので、そういう意味でも注目されにくい作品ではある。が、例えば第2幕の始まりの演出などは、それを逆手にとってうまいなあと思った。
 ピッツァレリが幕前を横切りながら1曲歌った後ジャズ・オーケストラが舞台奥から演奏しながらせり出してくるのだが、その直前、舞台を隠す白い板状の幕に、奥からのライトに照らされて少し歪んだ巨大なドラマーの影が、扇情的なドラム・ソロに合わせて激しく動いているのが映る。
 昔のハリウッド・ミュージカル映画によくあった、と思わせるノスタルジックな手法だ。そして始まる第2幕が映画関係の楽曲集。
 斬新、というわけではないが、ここぞという時にピタッとはまる手を持っている、そのノウハウの蓄積に感心する。
 やっぱり大事なのはアイディアですよね。

 最後に――。
 ジョニー・マーサーと聞いてピンと来ない方のために最も有名な楽曲を1曲あげるとすると、これでしょう。
 ヘンリー・マンシーニ Henry Mancini作曲「Moon River」。
 ラス前に歌われます(ちなみにその前が「Charade」と「The Days Of Wine And Roses」のメドレーです)。

(6/8/1997)

Copyright ©1997 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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