[ゆけむり通信Vol.25]

5/28/1997
『キャンディード CANDIDE』


かわいいオバサンの怪演にクラクラ

 美術(装置、照明、衣装)が美しく、音楽がよく、役者が魅力的で、語り口(演出)も面白い。なのに満足しきれなかったのは、時差ボケで眠かったせいではなくて、寓話的なストーリーがピンと来なかったからだろう。

 ストーリーは、簡単に言ってしまえば、若者の哲学的遍歴の物語。

 何というか、人生の師、ですな、そういう人に楽天主義を教授されていた若者キャンディードが、教えに従って結婚しようとしていた娘キュネゴーンドを隣国との間に勃発した戦争のどさくさで連れ去られ、その後を追ううちに次々に試練に出会い、まあ何というか、人生の真理、ですな、そういうものに目覚めてハッピーエンド、という話。
 ちょっと『ピピン PIPPIN』に似ていなくもない。

 演出のハロルド・プリンス Harold Princeにとっては、前作『ショウ・ボート SHOW BOAT』と同じガーシュウィン劇場。両袖の外側にまで広がる舞台を生かして、今回も横に広いセットを組んだ。
 そのセットは、“書き割り”感をあえて強調した作り。衣装も、“いかにも”のカラフルな舞台衣装。
 と言うのも、旅回りの役者たちがキャンディードの物語を上演するという形をとっているからだ。
 そのへんも『ピピン PIPPIN』に似ていますねえ。

 寓話的な話というのは、こういう劇中劇のスタイルをとらないと、説教臭さが先に立ってうまくないという判断があるのだろう。
 そう言えば、やはり寓話的な『イントゥ・ザ・ウッズ INTO THE WOODS』『ヨセフと不思議なテクニカラーのドリームコート JOSEPH AND THE AMAZING TECHNICOLOR DREAMCOAT』でも、ナレーターが登場して観客を物語へ誘う。

 この『キャンディード』の話は、そんな数ある寓話的ミュージカルの中でも特に抽象性の高いもので、キャンディードにしろ、キュネゴーンドにしろ、人生の師であるパングロスにしろ、主要登場人物になかなか感情移入できない。
 劇の中のお話ですよ、といくら言われても、そのお話の中身があまりにも“作りもの”めいていると、舞台と客席との間に距離が出来てしまうわけです。

 なわけで全体の印象はなんだかボンヤリするのだが、最初に書いたように、美術、音楽、役者、演出などはいいので、ショウ場面には見どころがある。

 特に役者は、主演(と言ってもキャンディード役ではなくパングロス役他複数の役。劇中劇にも登場する狂言回し、といった役どころ)のジム・デイル Jim Dale(うまい!)を中心に達者な人たちがそろった。
 ことにアンサンブルのダンサーたちのアクロバティックな動きは見事で、大きな劇場の広い舞台を時に小さくも見せた。

 しかし、僕にとっては何と言ってもアンドレア・マーティン Andrea Martin。こちらでも期待を表明したが、それを裏切らないショウストッパーぶりを見せつけてくれた(「I Am Easily Assimilated」)。

 この人の場合、怪演というのがふさわしい。アンサンブルを従えて、ダンスと言えばダンスだけど、要するにスラップスティック、想像を超えたハチャメチャな動きで抱腹絶倒ものの感動を与えてくれるのだ。
 それは本質的には前回ブロードウェイに登場した『マイ・フェイヴァリット・イヤー MY FAVORITE YEAR』と全く同じ。彼女の見せ場が全体の流れから独立しているように見えるのも同様だ。
 極端な話、アンドレア・マーティンは、そのシーンでショウストッパーになるためにミュージカルに出ていると言ってもいい。
 いいなあ、この個性。見かけはかわいらしいオバサンなんだけど。

 あ、ごぞんじだと思いますが、このミュージカル、作曲はレナード・バーンスタイン Leonard Bernstein。初演は1956年で、73年に改訂版が作られた際、スティーヴン・ソンダイム Stephen Sondheimが詞を手直ししている。

(6/23/1997)

Copyright ©1997 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

[ゆけむり通信Vol.25 INDEX]


[HOME]