[ゆけむり通信Vol.24]

1/ 8/1997
『ヴィクター/ヴィクトリア VICTOR/VICTORIA』


ブロードウェイ・ラヴズ・ライザ

 ジュリー・アンドリュース Julie Andrewsの休暇を受けて、1月7日から2月2日までの1か月間、ライザ・ミネリ Liza Minnelliが『ヴィクター/ヴィクトリア』の舞台に立った。

 昨年秋にその計画を聞いた時すぐに連想したのが、偶然にもリヴァイヴァル上演中である『シカゴ CHICAGO』のオリジナル舞台のこと。
 75年6月の開幕から2か月後、主演のグエン・ヴァードン Gwen Verdonが病に倒れたため、急遽1か月間ライザが代役を務めた。その時、彼女の熱演で舞台が鮮やかに[甦えった](大平和登「ブロードウェイ」作品社)という、まあ今となっては伝説のような出来事があったわけです。
 20年以上の時の隔たりはあるけれども、今回も同じことが起こらないとどうして言えよう。と、そんな期待も若干は抱きつつ、1度目はイマイチ満足出来なかった『ヴィクター/ヴィクトリア』を、1年2か月を経て再度観ることになった。さて。

 パリ。
 行き倒れになりそうな売れない歌手ヴィクトリアに宿を提供したゲイのクラブ歌手トッディは、彼女を亡命貴族という触れ込みの男に仕立て、“女装の麗人”として売り出すことを思いつく。
 トッディ旧知のキャバレー経営者の計らいでデビューし、一夜にしてスターになったヴィクター(ヴィクトリア)に、シカゴから来たギャングスター、キングが近づいてくる。
 彼女を女と見抜いているかのようなキングの振る舞いにとまどうヴィクトリアだったが、乱闘騒ぎに巻き込まれた夜、とうとう自分の正体を告白し、キングと結ばれる。
 一方、“男”に愛人を獲られて面白くないのがキングの情婦ノーマ。彼女に泣きつかれたシカゴのギャングスターたちは、それがホントなら仲間の面汚しだとばかりに、“おっとり拳銃”でパリに乗り込むが……。

 ミスキャスト。最初に浮かんだ言葉がそれだ。
 女が男になりすまして女装で売り出すわけだから“男装の麗人”による“女装の麗人”というややこしいイメージだが、要するに、そういう“麗人”なわけだ。
 ところが、ライザ、かなり太め。そして動きが重い。

 93年6月4日、カーネギー・ホールのシャルル・アズナヴール Charles Aznavourとのジョイント・コンサートで観た時の彼女は、前年大成功させたラジオ・シティ・ミュージック・ホールでの7日間にわたるコンサート『STEPPIN' OUT AT RADIO CITY』(ヴィデオ「LIZA MINNELLI LIVE from Radio City Music Hall」)の好調さをまだ維持しているようで、すっきりとして見えた。
 それからわずか3年半。舞台上のでっぷりした姿を観ていると、母ジュディ・ガーランド Judy Garlandのことを思わずに入られない。生涯、肥満体質に悩み、激しい体重の増減を繰り返したという……。

 そんなわけで、とても“麗人”という印象ではない。
 見せ場の1つであるノーマとタンゴを踊るシーンなど、ハラハラするほど体の切れが悪いし、トッディ役トニー・ロバーツ Tony Robertsとのデュオ・ダンスは元が洗練されていただけに、かなり違和感があった。
 おまけに声域が違うから、ジュリー・アンドリュースの売りであり、ヴィクトリアの特徴として劇中効果的に設定されている超高音が出ない。
 いかにスターとは言え、ここまで別物でいいのか、と思う。
 にもかかわらずだ。驚いたことに、ライザの『ヴィクター/ヴィクトリア』は、オリジナルのジュリー・アンドリュースで観た時よりも愛すべき舞台に見えたのだ。
 なぜか。

 ライザのキャラクターだ。
 愛に飢え、焦がれ、怯え。頼りなげだけれども生命力にあふれ。あり余る感情をほとばしらせるようにして歌う。
 アンドリュースの持たないライザのこうした要素が、ヴィクトリアを愛すべき女性にした。

 裏返しに言えば、アンドリュースは立派すぎる。
 もちろん彼女の芸は素晴らしい。歌のみならずダンスも、さすが舞台育ちなだけに堂に入って、紛れもなく一流だ。だが、弱さを微塵も感じさせないキャラクターは人間臭さに欠ける。
 仕事にあぶれて飢え死にしそうにも、歌手としての成功とギャングスターとの恋の間で揺れ動くようにも見えない。
 だから、アンドリュースの『ヴィクター/ヴィクトリア』は、どちらかと言えば面白味のない舞台だった。

 それがライザのホットなキャラクターを得て、俄然生き生きしてきた。
 オープニング当初は浮いているように見えなくもなかったノーマ役レイチェル・ヨークRachel Yorkの大熱演が見事なショウストッパーになっていたのは、その影響か。

 ともあれ、ミスキャスト感などものともせずに舞台に立ったライザを、ブロードウェイは、愛しているとしか言いようのない温かさで迎えた。それは、『シカゴ』の逸話から期待したほど劇的ではなかったにせよ、それなりに興味深い出来事ではあった。
 次のミュージカル出演は万全の体調で、というのが全てのファンの願いだろう。まだまだ夢を抱かせてくれるライザ・ミネリでありました。

(4/21/1997)

Copyright ©1997 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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