[ゆけむり通信Vol.24]

1/ 9/1997
『シカゴ CHICAGO』


ブロードウェイの魂をよみがえらせるダンサーたち

 薄暗い舞台の幕前、左袖の小さな木のイスに引っかけられた黒いダービー帽。男が現れ帽子を手に取ると、客席に向かって幕開けの挨拶をする。
 「ウェルカム、レイディーズ・アンド・ジェントルメン。これからご覧にいれるのは、殺人、強欲、腐敗、暴力、搾取、姦通、裏切りの物語。いずれも私たちには、おなじみの代物ばかりでございます」
 ボブ・フォッシィ Bob Fosse(75年オリジナル版の演出・振付・共同脚本)の魂がよみがえる瞬間だ。
 幕が上がり、「All That Jazz」に乗ってダンサーたちが“ゆるゆると”ステージに登場すると、それだけで僕はもう身震いしてしまう。

 今回の『シカゴ』は、シティ・センターでの“アンコールズ!”シリーズの 1つとして昨年 5月に登場。 4回限りの公演が絶賛されて 11月からのロングラン公演となった。
 シティ・センターの時(5月 4日 20:00〜)は高い 2階席からだったが、それでも十二分に素晴らしさが伝わってきた。それが今度は前から 3列目中央やや左寄りの席。もう全身で浴びるようにして、この贅沢で希有なダンス・ミュージカルを味わい尽くした。

 1920年代のシカゴ。ナイトクラブの歌手ロキシー・ハート(アン・ラインキング Ann Reinking)が愛人を撃ち殺す。
 普通なら死刑になるところだが、金で何でも解決してくれるという弁護士フリン(ジェイムズ・ノートン James Naughton)のことを知り、依頼のために人のいい夫(ジョエル・グレイ Joel Grey)に金を出させる。
 フリンの入れ知恵で事件を悲劇的なメロドラマに仕立て上げたロキシーは、たちまちマスコミの人気者となる。それを見た歌手仲間のヴェルマ(ビビ・ニューワース Bebe Neuwirth)が、組んで仕事をしないかと持ちかけるが、ロキシーは鼻であしらう。
 ところが、他の女による情痴殺人が起こるや、マスコミはそちらに殺到。あせるロキシーはヴェルマと組むことを考えるが、そこでもう一計。妊娠している、と発表し、再びワイドショウ的人気を回復する。
 しかし、それも長くは続かず、無罪にはなるが注目を浴びなくなったロキシーは、結局ヴェルマと組んでやっていくことにする。

 [全ての色調が黒。ダンサーたちは皆、黒のレオタード姿。陰影を生かした照明の中で、ラグタイムの香りのする、よくスウィングするジャズに乗って、くねくねとねじれるようなユーモラスでセクシャルなフォッシィ・ダンスをたっぷりと踊る。それは一見ノスタルジックで退廃的だが、圧倒的な生命力の輝きがあって、体の奥底から揺すぶられる気分だ。
 そうしたダンスを生かすライティングが素晴らしく、殊に、ヴェルマを含む 6人の女性ダンサーたちが後ろ向きに置いた椅子に跨って横一列に並んで踊るナンバーで、 1人 1人の上にするするとシェードの付いたスポットライトが下りてきて、彼女たちをくっきりと浮かび上がらせた時には、息を飲んだ。]

 [出演者はダンサーの 1人 1人に至るまで皆よかったが、何と言ってもアン・ラインキング。主役ロキシー・ハートを演じ、踊り 、振付を担当した彼女には、ボブ・フォッシィの魂が乗り移っているように見えた。]

 [初演でチタ・リヴェラ Chita Rivera が快演したというヴェルマ役はビビ・ニューワース。熱演だが、凄すぎたラインキングと並んで割を食った。もっとも僕にはこの人の魅力が今一つわからないのだが。
 悪徳弁護士フリン役ジェイムズ・ノートンのクルーナー振りは貫禄たっぷりで素晴らしかったが、それにも増して、終盤のソロ・ナンバー「Mister Cellophane」1曲で場をさらったロキシーの夫役(あの!)ジョエル・グレイの底力には驚かされた。]

 以上、前回の報告(ゆけむり通信Vol.21)からの抜粋だが、印象はほぼ同じ。

 それにしても、出演者たちが皆、挑戦的で、確信に満ちていることに驚く。その目は、自分のテリトリーに迷い込んだ大きな獲物を前にして舌なめずりするネコ科の猛獣のようだ。
 彼らは、ロンドン勢やディズニーのあざとい舞台作りを前に、萎縮して、すっかり腑抜けになってしまったブロードウェイに再び魂を吹き込もうとしている。僕にはそんな風に見える。
 しかも、豊富な資金力でも豪華なセットでもない、ミュージカルに対する情熱と鍛え上げられた肉体だけを拠り所にして。
 という言い方は、ロマンティックすぎますか?

 作曲ジョン・カンダー John Kander、作詞・共同脚本フレッド・エブ Fred Ebb。
 今回の演出は、 92年版『ガイズ・アンド・ドールズ GUYS AND DOLLS』でナイスリー・ナイスリー・ジョンソンに扮して「Sit Down,You're Rockin'the Boat」を熱唱したウォルター・ボビー Walter Bobbie。 この舞台のブロードウェイ進出に当たって、務めていた“アンコールズ!”シリーズの芸術監督を降りた。

 『ノイズ/ファンク NOISE/FUNK』と並んで、決して見逃してはならない舞台であります。

(4/6/1997)


 読み返していて気づいたが、 [ヴェルマを含む 6人の女性ダンサーたちが] 踊るナンバー、即ち「Cell Block Tango」のところの、 [後ろ向きに置いた椅子] という表現は間違い。シティ・センターでの遠くから観た記憶をそのまま書き移したために、誤りを訂正しそこねている。実際には、イスは前向きに置かれる。

(6/13/2001)


 ずっと放っておきましたが(笑)、ストーリーの細かい誤りを正しておきますね。

 1920年代のシカゴ。ヴォードヴィルの歌手を目指したが挫折して今は主婦になっているロキシー・ハート(アン・ラインキング Ann Reinking)が愛人を撃ち殺す。
 普通なら死刑になるところだが、金で何でも解決してくれるという弁護士フリン(ジェイムズ・ノートン James Naughton)のことを、看守長ママ・モートン(マーシャ・ルウィス Marcia Lewis)の話から知り、依頼のために人のいい夫(ジョエル・グレイ Joel Grey)に金を出させる。
 フリンの入れ知恵で事件を悲劇的なメロドラマに仕立て上げたロキシーは、たちまちマスコミの人気者となる。それまで話題の中心だった、やはり殺人の罪で入獄中の歌手ヴェルマ(ビビ・ニューワース Bebe Neuwirth)が、そんなロキシーに、組んで仕事をしないかと持ちかけるが、ロキシーは鼻であしらう。
 ところが、他の女による情痴殺人が起こるや、マスコミはそちらに殺到。あせるロキシーは一計を案じ、妊娠している、と発表、再びワイドショウ的人気を回復する。
 しかし、それも長くは続かず、無罪にはなるが注目を浴びなくなったロキシーは、結局ヴェルマと組んでやっていくことにする。

(1/6/2003)

この次の『シカゴ』観劇記はこちらを。

Copyright ©1997 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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